第14話 依頼達成

 森の中を移動しながら素材があったら触れて、素材変質のデータを集めつつ、変質後のいい素材を採取していく。たくさんの品質のいい素材が鞄の中に溜まっていくのは、控えめに言って凄く楽しい仕事だ。


「これを売ればかなりの金になるな」


 鞄を覗き込んで思わずそう呟くと、フィーネも同じように鞄を覗き込んでから頷いた。


「凄い量だもんね……でも、さすがにこの辺でやめておいた方が良いんじゃない? 量が多すぎても不審がられると思う」

「確かにそうか。じゃあ今日はこれで最後にする」


 鞄に重みが増すたびに俺も皆の役に立てている気がして、ついつい採りすぎてしまった。

 いくつかは取っておいて錬金用に残すかな。しっかりと処理すれば素材は長持ちするし。


『フィーネ、スモールディアを倒せたぞ。依頼の数よりも多いがどうする? エリクが変質させるか?』


 俺たちが採取した素材について話をしていたら、リルンが一匹のスモールディアを咥えて戻ってきた。

 リルンは俺たちの歩く速度に合わせるのが面倒になったらしく、さっきからどこかに走って消えては、倒した魔物を咥えて戻ってくるのだ。最初はかなり驚いたけど、さすがにもう慣れた。

 

「他にもいるの?」

『五匹の群れだった。ここからそう離れていないから一緒に行くか?』

「そうだね。じゃあ案内してくれる?」


 リルンの案内で数分歩くと、僅かな血の匂いが漂ってきて、積み重ねられたスモールディアが視界に入った。どれも首を綺麗に切られているようだ。

 戦闘の形跡は全くないし、どれほどに一方的な討伐だったのかが分かる。


「依頼は角を二つだったよな?」

「そうだよ。だから三つは変質させても大丈夫」

「了解。じゃあ触れてみる」


 初めて変質させる魔物に少しだけ緊張しつつそっと触れると、触れてから数秒後に変質が始まった。


「おおっ、ホワイトディアだね」


 キラキラとした光が収まって現れたのは、スモールディアよりも一回り大きい真っ白な毛並みの魔物だ。これはいい魔物に変質したかも。


 ホワイトディアの毛皮はかなり綺麗で、とても重宝される素材なのだ。そこまで希少な魔物ではないから高級素材とはいかないけど、売れ残ることはないので買取価格は高くなるだろう。


「俺が解体してみてもいい?」

「もちろん良いよ。私と並行して一緒にやろうか」


 それから四苦八苦しながらなんとか解体を済ませ、ホワイトディアの毛皮を三つ手に入れることができた。これは俺が触れても大丈夫なので、三枚とも丸めて抱え持つ。


「そろそろ帰ろうか。依頼の素材は全部集まったよね」

「そうだな。これ以上は持ち帰るのも大変だし帰ろう」


 俺たちはリルンを先頭に、森の中を街に向かって歩き出した。そこまで街から遠い場所には来ていないので、街までは歩いて数十分だ。


「昇格試験って、どのぐらいの依頼達成実績があればいいんだろうな」


 ふと、今回の依頼達成でどれほど昇格に近づくのか疑問に思ってそんな言葉を口にすると、フィーネが少し悩むような仕草を見せてから口を開いた。


「そこはギルドによって結構違ったりするんだけど、基本的には自分のランクと同じか、一つ上の依頼を十回ぐらい達成すれば良いと思う。全部同じ依頼じゃなくていろんな依頼をね。後は依頼達成の精度も重要かな。例えば全ての依頼が期日ギリギリだったり、納品した素材がかろうじて受け取れる品質とかだと、昇格試験を受けさせてもらえないかも」

「そんな感じなんだな。じゃあ俺たちは……数日で昇格試験を受けられそうだ」


 依頼達成の期日や素材の品質に問題はないだろうから、後は依頼達成の数だけだ。それも今日の感じだと、十回なんて一瞬で達成できそうだった。


「そうだね。Eランクの依頼までしか受けられないのは不便だし、早めに昇格試験を受けようか」


 そんな話をしながら歩いていると、すぐに街の外門が見えてきた。冒険者ギルドガードを提示して、軽い検査を通って街中に入る。


 街に入ってからは寄り道せずギルドに向かい、依頼達成報告をして素材を売ったら今日の仕事は終了だ。


「予想以上に素材が高く売れたな」

「品薄の素材があったみたいだね。この調子なら剣や錬金道具もすぐに買えるんじゃない?」

「そうだな。まずは剣を買おうと思う。リルンに頼りっぱなしは良くないし、自衛の手段が全くないのも怖いから」

 

 万が一フィーネたちと逸れた時に、自分で自分の身を守れるぐらいの実力は身につけたい。魔物を倒せなくても、せめて攻撃を受け流して逃げられるぐらいには。


『エリク、鍛錬はいつから始めるのだ?』

「そうだな……今日から、やろうかな。でも初日だし少しだけで」


 本当は疲れてるし休みたかったけど、疲れを言い訳にしてたらいつまでも鍛錬をやらずに月日が経ちそうだったので、なんとか自分を鼓舞してそう言った。


『分かった。では近くの公園に行くぞ』


 それから俺は今できる精一杯で鍛錬をこなし、疲労から体の動きが鈍り始めるまで体作りを頑張った。

 かなり疲れたけど……体を動かす気持ち良さを感じられて、清々しい気分で宿に戻った。

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