第13話 魔物討伐と希望
アースボアって想像より大きいな。ちょうど俺の身長と同じ程度に見える。確か攻撃はその巨体による突進と、石礫を作り出し飛ばしてくる二パターンだったはずだ。
『倒してくる』
リルンは何の気負いもなくそう告げると、駆けることもなくゆっくりとアースボアに近づいていった。
アースボアはそんなリルンに少し戸惑ったようだけど、すぐ攻撃体勢に入って地面を思いっきり蹴り――突進を開始したところで、地面に倒れ込んだ。
「……え?」
地面に倒れたアースボアは首元から血を流していて、痙攣するように何度か震えてから完全に動きを止めた。
これって……リルンが倒したってことだよな? マジで何が起きたのか分からなかった。アースボアが突進してくると思ったら、次の瞬間には倒れていた。
「リ、リルン、どうやって倒したんだ?」
『どうもこうも、首元を切り裂いてやっただけだ』
「それにしても早すぎるだろ!」
『動きは遅いし的はデカいし皮膚は柔いし、こんな魔物を倒すのに時間をかける方が難しい』
リルンは少しだけ得意げな様子で顎をツンっと上げてそう言うと、ゆらゆらと尻尾を動かしながらアースボアから離れた。
「エリク、リルンは本当に強いからあんまり深く考えない方が良いよ。基本的にはどんな魔物にもこんな感じで、たまに強い魔物には……ちょっと時間がかかるぐらいだから」
苦笑しながらさっそくナイフを取り出して解体を始めているフィーネを見て、俺は改めて凄い存在と知り合ったんだなと実感した。
「リルンに鍛錬してもらうの、早まった?」
思わずそう呟くと、リルンが俺に近づいてきて楽しげな笑みを浮かべる。
『今更撤回は受け入れんぞ』
「うっ……わ、分かってるよ。俺だって強くなりたいから頑張る。それから解体も覚えようかな。変質させた後の素材なら俺でも触れるし」
「解体なら私が教えるよ」
「本当? じゃあお願いしたい」
「了解。……よしっ、これで良いかな。アースボアの依頼は毛皮の納品だよね」
フィーネは剥がした毛皮をくるくると丸めて脇に抱え、魔石も取り出してそっちは鞄に仕舞った。残りの部分はこのまま放置しておけば魔物が食べて綺麗にしてくれるから、そのままでいいそうだ。
「素材を全部持たせてごめん」
女の子に重いものを持たせて自分は両手が空いている現状に罪悪感が生まれる。やっぱりこのスキル、強いけど凄く不便だよな……。
何かスキルが発動しない方法はないものか。もう何百回と考えたことがまた頭の中を駆け巡ったその時、ラトの口から衝撃的な言葉が発された。
『ねぇねぇ、リルン。スキルを一時的に封じる方法ってなかったっけ?』
『……あったような気がするな』
スキルを一時的に封じる……ふ、封じる!?
「そ、そんなことが、できるのか!?」
俺はあまりの衝撃に思わず叫んでしまった。フィーネの肩に手を伸ばし、両手にラトを乗せて顔を覗き込む。するとラトは少しだけ驚きながらも、曖昧に頷いてくれた。
『確証はないんだけど、何かの鉱石とか植物とか、いろんな希少素材を使って錬金するんだったはずだよ』
『確か……スキル封じの石、とかいう名前のやつができるはずだ。それを身に付けている間はスキルが封印される』
「それ! 作り方と材料を教えて欲しい!!」
嬉しすぎる情報に舞い上がって前のめりで情報を求めると、ラトとリルンは二人とも微妙な表情で首を傾げた。
『僕は材料までは知らないんだよね……』
『我も知らん。確か星屑石が必要だった気がするが……それ以外は分からんな』
わ、分からないのか……期待しただけに落胆が大きくて、俺は思わずその場にしゃがみ込んだ。
『ごめんね? ちゃんとした情報じゃなくて』
「……いや、そういうのがあるって教えてもらえただけでもありがたいよ。星屑石って一つだけでも素材が分かったんだし」
気遣わしげな様子で俺の顔を覗き込んできたラトにそう伝えると、ラトはいつも通りの笑みを浮かべた。
『分からないなら知ってる存在に聞けばいいもんね。誰がいいかな? リルンは知ってる?』
『スキル封じの石について知ってるやつか? 我は他の神獣についてあまり詳しくないんだが……そうだな、デュラスロールはどうだ?』
『デュラ爺! 確かに物知りだよね!』
デュラスロールって何かの本で名前を聞いたことがある気がするな……確か神話の絵本だったような。そんな本に載ってるような存在が、当たり前のように会話に出てくることが凄すぎる。
『ただ我はデュラスロールの好物を知らない』
『うーん、僕も知らないかなぁ。あっ、でも新しい情報は大好物だって話は聞いたことあるよ。何度か会ったことがあるんだ!』
『情報か、難しいな。物でなければ召喚陣に載せられない』
『そうだよね……じゃあ、直接会いに行く? 多分デュラ爺なら神木のところにいると思うよ』
『確かにそれもそうだな』
何だかよく分からないうちに、デュラスロールという名前の神獣に会いに行くことが決まりそうだ。
「ラト、リルン、その神木ってどこにあるの?」
フィーネがもっともな疑問を口にすると、ラトが少しだけ悩んでから小さな手で森の奥を指差した。
『方向はあっちかな。でもかなり遠いかも。一応この大陸だけど、山を何個も超えた先だよ』
『それにかなり険しい山の頂上だ。フィーネはともかく、エリクは今の状態じゃ登れんだろうな』
「そっか。エリクどうする? 今すぐ向かうっていうのは無謀そうだけど」
「そうだな……とりあえず、その神木がある方面には向かいたい。でもそんなに急がないで、近くまで行ったら寄ってみるぐらいでいいよ。今の俺じゃ登れないなら、鍛錬もしないとだし」
本当は今すぐ出発してその山に向かいたいぐらいだけど、こういうのは焦っても仕方がないだろう。別に命がかかってるわけでもないしな。
しばらくの間、少しの不便に耐えるぐらいはどうってことない。
「了解。じゃあ今までの予定通りこの街で冒険者ランクの昇格を目指して、次に向かう場所は神木がある方面にしようか」
「ありがとう。そうしてくれると嬉しい」
そこで話は一段落し、俺たちは次の魔物を見つけるために森の中を移動することになった。
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