第16話 不思議な完成品
フィーネに説明しつつ魔石を叩き割ること数分、だんだんと手応えがなくなってきて、魔石を砕く工程も無事に成功した。
「このぐらいでいいと思う」
「うわぁ、綺麗だね」
布を開くと、そこにはキラキラと光り輝く細かい魔石の粒がある。俺はそれを見て、久しぶりの光景に頬を緩めた。
「次はこれを錬金釜に入れるんだ。そしてゆっくりとかき混ぜていくと、そのうち水に溶けて魔力水が出来上がる」
錬金釜の温度を確かめるために金属の棒を入れてどれほど熱されているかを確認し、問題ないと判断したところでサラサラの魔石粒を釜の中に一気に入れた。
金属棒でゆっくりと同じ速度でかき混ぜていくと、だんだんと魔石が溶けていくのが目で見て分かる。
『綺麗だね……』
ここまではあまり興味がなさそうにファムの実を食べていたラトが、食事を止めてフィーネの肩から錬金釜を覗き込んだ。
魔石が溶けた水は鮮やかな青に変わるので、初めて見る人は誰もが魅了されるのだ。
「この青は綺麗だよな」
「透き通ってるね……」
「よしっ、これで魔力水は完成だ」
俺は温度が上がりすぎないように一度火を止めて、金属の棒をテーブルに置いた。
「錬金ってここからが本番なんだよね?」
「そうだな。ここまでは準備段階みたいなものだ」
「思ってたよりも手間がかかるんだね。私のイメージでは、いろんな素材を魔石と一緒に煮込めばできるのかと思ってたよ」
フィーネのその言葉に、思わず苦笑を浮かべてしまう。俺が錬金工房に雇われる前、それと全く同じイメージを錬金に対して抱いてたのだ。
「ほとんどの人はそう思ってるよな。でも意外と大変で奥が深いんだ。……じゃあ続きだけど、今日は回復薬を作ろうと思ってる」
回復薬とは薬草などを錬金せずに調薬して作る薬より、かなり効果が高いものだ。効き目はいいけど安いものではないので、薬屋で売っている調薬された薬で治らなかった場合、最終手段として飲む薬という位置付けだ。
「回復薬を自分で作れるなんて凄いね」
「そこが錬金術師のいいところだな。回復薬に必要な素材はヒール草かヒーリング草、そして光草だ。今回はヒーリング草を使う。ここに他の素材を混ぜて特定の病気や怪我によく効く薬にすることもできるけど、今回は一番基本的なやつだな」
ヒーリング草はできる限り新鮮なものを使った方がいいので、昨日採取したやつだ。葉脈は丁寧に取り除いて錬金釜に入れていく。量は葉が五枚ほどが基本だけど……このヒーリング草はかなり状態がいいから、そういう場合は少し減らす。
素材は多すぎても少なすぎてもダメで、素材の状態や入れ方などでも完成品の品質が変わってくるのだ。
素材を入れながらまた錬金釜を火にかけて、ゆっくりとかき混ぜていく。
「ヒーリング草はこのぐらいかな。光草は二株ぐらいがいいと思う。こっちは葉脈はそのままで、茎まで一緒に入れるよ」
この辺の分量は一応レシピがあるけど経験がものを言うので、なんでその量にしたのかと問われると説明しづらいところがある。
「難しいね……」
「慣れるまでは何度も失敗するんだ。錬金は失敗すると水が真っ黒になるんだけど、最初の頃は黒を見るたびにそれを思い出して落ち込んでたかも」
黒水と呼ばれるその水は植物の栄養促進剤になるから一応売れるんだけど、あくまでも失敗作なのでそれを売るのも嫌だった記憶がある。
「黒になるのはちょっと嫌だね。せっかく綺麗なのに」
「そうなんだ。自分のせいで綺麗なものを失わせたみたいな罪悪感があるんだよな」
「ふふっ、確かにそうだよね。でもちょっとその水も見てみたいかも」
「多分道具屋とかに売ってるんじゃないかな。今度見てみて」
「探してみるよ」
そんな話をしながらも適切な分量の素材をすべて錬金釜に入れた俺は、少し肩の力を抜いて錬金釜の中身をかき混ぜた。ここまで来れば、もう失敗することはほとんどないのだ。
しばらく混ぜていると素材が溶けて、水の色が変わり始める。
「……あれ」
変わり始めた色合いを見て、思わずそんな言葉を溢してしまった。何かがおかしい。この作り方の回復薬は薄い黄色になるはずなのに、なぜか緑っぽい色になっている。
「どうしたの?」
「なんか、俺の知ってる回復薬とは違うものになったかも」
「……作り方は間違えてないんだよね?」
「うん。いつも作ってたのとほぼ同じなはず」
違うとすれば……素材が俺のスキルによって変質したものだって部分だよな。もしかして、俺のスキルで手に入った素材って普通じゃないのだろうか。
完全に素材が溶けたところで火を止めて、錬金は終了だ。
「回復薬なら最後にこれをガラス瓶に入れて終わりなんだけど……これって何ができたんだろう」
完成品の保存方法はものによって異なるのだ。ガラス瓶に入れたり鉄製の瓶に入れたり、布に染み込ませた方がいい場合もある。完成品が固体の場合は、布で巻いたり土に埋めたりすることもある。
「エリクも知らないものなの?」
「いや、こんな感じの色の液体は何種類か知ってるんだ。でもさっきの作り方でできるものじゃないんだよな……」
「ラトは分かる?」
『うーん、僕も分からないかな』
とりあえず品質が低下するのは許容するとして、ガラス瓶に入れておくか。これが間違いだったら仕方ない。
「この後、鑑定してもらいにいってもいい?」
「もちろん良いよ。ギルドの鑑定員に頼む?」
「そうだな……それが一番安いだろうしそうする」
鑑定員とは鑑定スキルを持っている人がなる職業で、世の中にあるもの全ての情報を可視化できるのだ。かなり有用なスキルで、鑑定スキルを得れば一生お金に困ることはないと言われている。
「じゃあさっそく行こうか。鑑定してもらった帰りにどこかでお昼ご飯を食べようね」
そう言って楽しげな様子で立ち上がったフィーネに続き、俺も軽くテーブルの上を片付けてから出かける準備を済ませた。
何が完成したのか、鑑定してもらうのが楽しみだな。
〜あとがき〜
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