第7話 フィーネの過去

 それから俺たちは森から出て、街から少し離れた場所に向かった。そこは草原の中にあるちょっとした岩石地帯みたいなところだ。


「ここなら座れるし良いよね?」

「ああ、こんなところがあるんだな」


 今までの生活では知ることもなかった街の外の環境に、少し楽しくなって心が浮き立つ。


 まあ呑気に楽しんでいられるのは、リルンのおかげなんだけどな。さっきから襲いかかってくる魔物は全てリルンが瞬殺してくれるから、全く危険を感じることなく街の外を歩けている。


「そういえば、魔物素材ってどの段階で採取前になるのかな」


 リルンが倒した魔物をさっきまでと同じようにフィーネが解体しようとしたところで、ふとそんな言葉を口にした。確かに……魔物素材はまだ試してなかったな。


「解体前に触れてみてもいい? もしかしたらダメになっちゃうかもしれないけど」

「もちろん良いよ。ちゃんと解体するのも面倒で、さっきから魔石しか取ってなかったし」

「うん。もったいないなと思ってた。でもこの速度でリルンが倒してたら、確かにちゃんと解体するのは面倒だよな。それに持ち帰れる量にも限度があるし」

「そうなんだよ。だから大体は魔石しか取らないんだ。たまに貴重な部位とか毛皮とか、あとは私たちの食事用にお肉ぐらいかな」


 そんな話をしながら、フィーネが首元を引き裂かれたホーンラビットを手渡してくれた。俺は魔物をその状態で見ることはほとんどなかったので、少しだけ躊躇いつつ両手で受け取る。


 すると俺が受け取ったその瞬間、ホーンラビットがキラキラと光に包まれた。そして光が収まって現れたのは――。


「え!? アイアンラビットだよね!」

「だ、だと思う……」


 ホーンラビットの上位種である、角部分が純度の高い鉄で出来ているアイアンラビットだった。


「魔物は解体前に触れると良い方向に変質するんだね」

「そうみたいだな……」


 改めて自分のスキルに驚く。これってかなり凄いスキルだよな。アイアンラビットとか、相当稀にしかお目にかかれないって聞いたことがある。錬金工房で働いていた六年間で、数回しかみたことがない。


「アイアンラビットの角は持ち帰ろうか」


 それからフィーネが手早く解体を済ませ、俺たちは昼食を食べながら話をすることになった。

 俺とフィーネはパンに肉や野菜が挟まれたサンドパンで、ラトはもちろんファムの実、リルンは砂糖がたっぷりと付いた揚げパンを食べている。


「じゃあ、まずは私から話をするね。私はスピラ王国にある小さな村で生まれたの。スキルが発現したのは十五歳の時。私の両親は私が小さな頃に病で死んじゃって、私は親戚の家で育てられたんだけど、その親戚は私のことを嫌いみたいで、隣の村の権力者だっていう嫌な感じの男に嫁がされそうになったの。絶対に嫌だって言っても聞いてくれなくて、途方に暮れてた時にこのスキルが発現したんだ」


 フィーネは軽い口調で話しているけど、予想外に重い話の導入に俺は驚いた。


「最初は使い方なんて分からなくて、このスキルが役に立つのかどうかも分からなかったけど、神獣を召喚できるなんて強そうじゃない? だからこのスキルにかけて、嫁がされる前日に村を逃げ出したんだ。鞄に数日分の食料だけ詰め込んでね」

「行動力あるな……」

「でしょ?」


 思わず溢してしまった感想に、フィーネはイタズラな笑みを浮かべた。


「それで近くの森の中に隠れて、必死に神獣を召喚しようと頑張って、召喚陣はすぐに出現させられたんだ。でも召喚陣から何も現れなくて三日が過ぎて、そろそろ食料も尽きるしやばいなと思ってたら、偶然近くの木に生ってたコルンの実が召喚陣の中に落ちたの。それでラトが召喚されて」


 ということは、神獣を召喚するには何かしらの捧げ物? みたいなやつが必要ってことか。それは何かの偶然がないと気づけないよな。


「フィーネ、よく生きてたな」


 あまりにも無謀な逃亡劇にそんな感想を漏らすと、フィーネも苦笑しつつ頷いた。


「本当に幸運だったよ。三日間魔物に襲われなかったし、何よりもラトを召喚できたからね。そこからはラトに色々と教えてもらって、リルンの召喚にも成功して、二人と一緒に表向きはテイマーとして冒険者をやってるんだ。もう冒険者になって三年目かな」

「スキルのことは誰にも話してないのか?」

「うん。ラトがその方が良いって。私のスキルはテイマーだって簡単に誤魔化せるから」


 確かにそうだよな。俺も最初は普通にテイマーだと思った。まさか神獣なんじゃ? なんて疑う人はいないだろう。


「あと話すことはあるかな……あっ、二人の能力も話しておくね」


 フィーネはそう言うと、まずはラトの能力から説明してくれるのか、ファムの実に夢中なラトを掌の上に載せた。

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