第6話 仲間
「もしエリクさえ良ければ、私の仲間になってくれない? パーティーを組んで欲しいの」
フィーネのその言葉に、自分が必要とされている嬉しさが腹の奥から湧き上がってくるのを感じていると、俺が口を開く前にラトという神獣が口を挟んだ。
『フィーネ、もし良ければなんて消極的じゃダメだよ! 絶対に逃しちゃダメだからね!』
「もう、ラト。エリクにだって事情はあるんだからね。エリク、ラトのことは気にしなくて良いよ。私としてはエリクのそのスキルが私のスキルと凄く相性が良くて、一緒に助け合えたら良いなと思ってるの。私と仲間になった時のエリクのメリットは、魔物への対処は全部私たちが引き受けられることかな」
要するに、俺のスキルはラトがファムの実を欲しているように、神獣が好きなものを作り出せるという部分で評価されてるってことだよな。その代わりに、俺は神獣に守ってもらえるってことだろう。
そんなの――断る理由がないよな。めちゃくちゃありがたい申し出だ。
「フィーネたちが良ければ、ぜひ仲間にして欲しい」
「本当!? ありがとう……!」
フィーネは俺の返答に瞳を輝かせると、俺の手をギュッと握って顔を近づけてきた。俺は突然の至近距離で見る美少女に少しだけ照れてしまったけど、何とか平常心を保って口を開く。
「こちらこそありがとう。正直戦闘能力は大きな問題だったから、めちゃくちゃ助かる」
「私も凄く助かるよ。ラトはファムの実が欲しいってうるさくて。コルンの実でも妥協してくれてたから何とかなってたけど、ファムの実の噂を聞くとどんなに険しい山の中でも行こうとするんだから」
『だってファムの実は凄いんだよ。幸せの味だからね。エリク、もう一つファムの実を作ってくれる?』
期待の眼差しを向けられたので、俺は目に見える範囲にあった五つのコルンの実、全てに軽く触れた。すると例外なく全てが鮮やかな青い木の実に変化する。
『エリク……最高だよ! ありがとう!』
「う、うわっ」
ラトは感極まったのか、フィーネの肩から俺の胸あたりに飛び込んできた。俺はそんなラトを落とさないようにと慌てて両手で受け止める。
……ふ、ふわふわだ。
「あの、ラト様? って呼べばいいのでしょうか?」
神獣にタメ口はダメかもしれないと思って畏まった口調で声をかけると、ラトは可愛らしく首を横に振った。
『普通にラトでいいよ。仲間になるんだから気楽にね。リルンもいいでしょ?』
『別に構わん』
今までずっと静かに佇んでいた白い神獣――リルンにラトが声をかけると、リルンは表情を変えずに頷いた。これは歓迎されてるのか……?
俺がリルンの本心が分からずに困惑していると、フィーネが少し強めにリルンの頭を撫でた。
『な、何をする!』
「リルンは素直じゃないんだから。エリクが仲間になってくれて嬉しいならちゃんと言いなさい」
『……別に嬉しいわけでは』
「へぇ〜そうなんだ。じゃあエリクに美味しくて貴重な果物を作り出してもらわなくて良いの? 美味しいパンが焼けるのになぁ」
『なっ!』
フィーネが発した言葉に、リルンは大きく反応した。リルンはパンが好きなのかもしれないな。
『……エ、エリク、歓迎しよう』
「エリク、リルンは素直じゃないけど悪い子じゃないんだよ。ごめんね」
「いや、気にしないで。なんとなくさっきのやり取りで分かったから。あの……リルンって呼んでいい?」
少しでも仲良くなりたいと思って話しかけると、リルンはさっきよりも緩んだ表情で頷いてくれた。
『……許そう』
「もう、ほんっとうに素直じゃないんだから。でもエリク、そもそもエリクにこの子たちの声が聞こえてる時点で受け入れられてるよ。神獣は声を聞かせる相手を選べるらしいから」
「そうなんだ。……そういえば普通に受け入れてたけど、神獣って人の言葉を話せるんだな」
『この世界にある言語はどれも話せるよ!』
ラトが二つ目のファムの実を頬張りながら言った言葉に、リルンも当然だと頷く。
『この大陸の言葉だけでなく、別の大陸の言葉や少数部族の言葉まで話せるぞ』
「それは凄いな……」
『ふふんっ、神獣だからな』
リルンは褒められたことが嬉しいのか、顎を少し上げて得意げだ。
『ねぇねぇ、エリク。この木に成ってるコルンの実を全部ファムの実にできる?』
「多分できると思うけど……」
『じゃあお願いしてもいい!? こんなにファムの実が手に入るなんて幸せだなぁ』
「エリク、ラトが我儘を言ってごめんね」
「いや、気にしなくていいよ。触るだけだしさ。それよりもこのファムの実って何なんだ? それに何でコルンの実がファムの実になるって分かったんだ?」
俺をここに連れてきたってことは、少なからずファムの実になることを予想してたんだよなと思ってそう聞くと、その疑問にはラトが答えてくれた。
『最初にエリクが変質させた植物を見たら、基本的には同じ種類の上位種になってたからね。ファムの実はコルンの実と似た性質を持つから、もしかしたらと思って』
ファムの実とコルンの実が似た性質を持つのか……色合いとか全然違うのに不思議だな。
『それからファムの実は、基本的に標高の高い場所に成る木の実だよ。錬金にも使えるし、薬の素材にもなるはず。この辺ではあんまり採れないかな』
おおっ、錬金にも使えるのはいいな。俺も俄然興味が湧いてくる。後で錬金する時に使ってみたいな。
「それならたくさん採っていこう」
『うん!』
たくさんという言葉にラトは瞳を輝かせ、俺の腕の中で嬉しそうに尻尾を振った。
「じゃあエリク、仲間になるにあたってお互いにもっと詳しい自己紹介をし合おうか。ラトとリルンのことについても話したいし……草原にある岩場とかでお昼ご飯を食べながらでも良い?」
「うん。ただ俺はお昼を持ってきてないんだ。だから何か果物とかを採取できるとありがたいんだけど……」
周囲の木々を見渡しながらそう伝えると、フィーネは心配いらないと言うように笑顔で首を横に振った。そして鞄から美味しそうなパンを取り出す。
「たくさん持ってるからエリクにもあげるよ」
「……いいの?」
「もちろん」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな……」
あまりにも美味しそうな匂いに釣られると、フィーネは笑顔で頷いてくれた。
〜あとがき〜
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