第5話 助けと驚きのスキル

「素材変質ってスキルなんだけど、採取後の素材は触れると劣化する代わりに、採取前の素材は触れるとより良いものに変化するみたいなんだ」


 説明するより見せた方が早いと思い、俺はその場にしゃがみ込んで雑草に手で触れた。すると名前も付いていない雑草が、キラキラと光りながらヒール草や光花に変化していく。


「こんな感じなんだけど、凄くない? ついさっきこのスキルの力に気づいてさ、役立たずなスキルだと思ってたから嬉しくて夢中になっちゃって」

「凄いね……採取前なら必ず良いものに変わるの?」

「多分そうだと思う。まだ全然検証できてないから確実なことは言えないけど、少なくともこの鞄に入ってる分の素材は全ていい方向に変質したんだ」


 俺がそこまで説明したところで、女の子は難しい表情で黙り込んで、少ししてから俺に顔を近づけて口を開いた。


「色々と話したいことがあるんだけど、ちょっと私に付いて来てくれない?」

「……別にいいけど」


 助けてくれたし女の子から悪い感情は伝わってこなかったので、俺は素直に頷いた。


 それから数分歩いて辿り着いたのは、森の中にある一本の木の下だ。


「この木の実を触ってみてくれる?」

「これってコルンの実だよな?」


 コルンの実は比較的安価に手に入る木の実で、栄養豊富で美味しいので人気の食材だ。そのままでも火を通しても美味い。


「うん。これが何に変わるのか試して欲しいの」

「分かった」


 俺は少し緊張しながら、手が届く範囲にあるコルンの実に手を伸ばした。そっと触れると……茶色の木の実は、キラキラと光りながら鮮やかな青色の木の実に変わる。


「……これって何か知ってる?」


 見たことがない色の木の実に女の子へ視線を向けると、俺の瞳は女の子じゃなくてその肩に乗るリス型の魔物に釘付けになった。

 なぜならその魔物は、瞳をこれでもかと輝かせながら、満面の笑みを浮かべて青色の木の実を見つめていたのだ。

 

 魔物って笑えるんだな……この木の実が好きなのか?


『まさかファムの実を作り出せるなんて! 君、最高だよ!!』


 魔物の笑顔に呆然としていたら、頭の中に可愛らしい声が響いてきた。


「……え?」


 どこから聞こえたのか分からなかった声に、間抜けな声を出してしまう。女の子は口を開いていない。ということは……


「驚かせてごめんね。もうラト、突然話しかけたら驚かせるでしょ?」

『だって、ファムの実を作り出せる人間だよ? お礼を言わなくちゃ!』

「ラトは本当に木の実が好きなんだから」

『そんなことよりフィーネ、早くファムの実を採って欲しいな!』


 女の子と魔物が会話をしているというあり得ない光景に俺が完全に固まっていると、女の子が青色の実を採取してリス型の魔物に手渡した。


 魔物って話せないよな……え、俺の常識が間違ってる? 世の中には人間の言葉を話せる魔物もいるのか? テイマースキルのことはよく知らないけど、テイムされた魔物は人の言葉を話せるようになるとか?


 目の前の光景にひたすら混乱していると、リス型の魔物がファムの実という木の実を食べ始めたのを見届けた女の子が、俺に視線を戻してくれた。


「驚かせてごめんね。えっと……とりあえず自己紹介もしてなかったよね。私はフィーネ。君の名前は?」

「あっ、えっと……俺は、エリク」


 混乱しながらもなんとか名前だけを告げると、女の子は嬉しそうな笑みを浮かべて俺に一歩近づいた。


「エリクだね。さっき君がスキルの説明をしてくれたけど、実は私もちょっと特殊なスキルを持ってるの。スキル名は神獣召喚。ファムの実を食べてるこの子がラトで本名はラタトスク。そしてこっちの白い子がリルンで本名はフェンリルだよ」


 神獣召喚……ということは、この魔物だと思ってた二体は神獣ってことか? 神獣ってあれだよな、神から遣わされた神聖な存在だっていう……。


「ごめん、ちょっと混乱してる」

「まあそうだよね。私もエリクのスキルにはかなり驚いてるよ」


 神獣召喚とか、俺の素材変質スキルが霞むほどに凄いよな。だって神の遣いを召喚できるんだ。そんなスキルありなのか?


「えっと……フィーネは凄い人だったりする?」


 王族とか貴族とか、教会の偉い人とか、そういう立場の人かと思って聞いたけど、フィーネは苦笑を浮かべて首を横に振った。


「私は普通の平民だよ。辺鄙な村出身の。このスキルはたまたま授けられたんだと思う。スキルって偉い人だからって凄いスキルを得られるわけじゃないでしょ?」

「確かにそうだな」


 俺だって孤児院出身の何も持ってない平民だけど、希少スキルを手に入れたもんな。俺たちは互いにかなりの幸運だったってことか。


「それでエリク、私から一つ提案があるんだけど聞いてくれる?」


 フィーネがラトのことを優しく撫でながら発したその言葉に、俺は何となくここが自分の人生の転換点な気がして、少しだけ緊張しつつゆっくりと頷いた。

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