第8話 神獣の能力

「ラトは印をつけた場所に自分だけ瞬間移動できる能力があって、あとは結界っていう透明な壁みたいなやつを作り出せるんだ」


 俺がその説明を聞いて頭の中にはてなマークを浮かべていると、ファムの実から口を離したラトが追加で説明をしてくれた。


『瞬間移動の印は十ヶ所に付けられるんだ。エリクの肩にもつけておくから、フィーネとエリクは僕を通していつでも意思疎通ができるよ。あと結界は、こういうやつ』


 ラトが小さな右手を前に出すと、俺の身長より縦も横も大きな透明な壁が出現した。神獣の力って……凄いな。俺の常識の外にある力だ。


『この壁を結界っていうんだ。よっぽど強い攻撃じゃなければなんでも防げるよ』

「……ラトって凄いんだな」

『神獣だからね』

「ラトはこんな感じで、リルンは……」


 ラトが説明を終えて食事に戻ったのを見てからフィーネが口を開くと、今度はフィーネが何も説明していないうちにリルンがその場で立ち上がった。


『我の能力はこの鋭い爪での攻撃と、風を自在に操れることだ。こんなふうにな』

「うわっ……凄いな」


 リルンが顎を少しだけツンと上げた瞬間、強い風が吹いて近くに咲いていた花を巻き上げた。その花は空中をぐるぐると飛び回り、落ちる気配はない。


『こうして自在に操れる。もちろん風の刃で攻撃をすることも、ハリケーンのようなものを起こすことも可能だ。さらには風による静電気で雷のような現象も起こせる』

「リルンも凄いな……」


 俺の素直な賞賛が嬉しかったのか、リルンは得意げな表情を浮かべてまた食事に戻った。


「私が説明するまでもなかったけど、二人の能力はこんな感じかな。凄く強いから魔物への心配はいらないよ」

「十分に伝わったよ。この辺の魔物なんて敵じゃないな」

「うん。今まで危険に陥ったことはないかな。でもこれでも本来の力の半分ぐらいなんだって。そもそも神獣って世界の危機? に対処するための存在らしくて、その時だけ本来の力を解放できるらしいよ」


 神獣ってそんな存在だったのか……なんだか色んなことを聞き過ぎて、俺の頭がそろそろ悲鳴をあげそうだ。


「召喚した神獣は、無条件でフィーネの仲間になってくれるのか?」

「ううん。召喚はしてもメリットを提示できないと帰っちゃうんだって。ラトはコルンの実を定期的にあげることを条件に、リルンはパンを毎日あげることを条件に仲間になってもらったの」

「契約みたいな感じなんだな」


 でもここまで見てきた三人の関係性的に、もうそんな契約がなくてもラトとリルンがフィーネから離れることはなさそうだ。ラトは分かりやすく、リルンは分かりづらいけど確実に、フィーネのことが大好きに見える。


「私の話はこのぐらいかな。次はエリクの番ね」

「了解。俺は……」


 そこから俺は孤児院時代の話から錬金工房の職人時代、そしてスキルを発現して錬金工房を追い出され、スキルの真価に気づくところまで話をした。

 フィーネほど波乱万丈でもないので、すぐに説明は終わる。


「エリクはこのまま冒険者として生きていくので良いんだよね?」

「うん。このスキルは冒険者の方が生かせるだろうし」

「良かった。じゃあこのあと街に戻ってパーティー登録をしようか。パーティーとして登録すると、一緒に一つの依頼を受けるのが楽になるらしいから」


 パーティー登録か……このスキルがある限り俺には無理だと諦めてたけど、まさか冒険者になって初日にできるなんて。


「もちろんしよう。それでその後はどうする? 俺はいろんなレア素材を手に入れて、錬金を楽しみたいなと思ってるんだけど」

「おっ、良い夢だね。私はもっとたくさんの神獣と知り合いたいなと思ってるのと、せっかくだから世界にある国を全て回ってみたいと思ってるんだ。ラトやリルンたちがいれば実現できるかなって」


 めちゃくちゃ壮大な夢だな。でも楽しそうだ。俺は家族もいないからこの街にこだわりはないし、世界を巡るのに支障はない。


「それ、わくわくする」

「本当? エリクがそう言ってくれて良かった」

「今までは何ヶ国巡ったんだ?」

「それがね、まだここが三ヶ国目なの。途中の街で幻のパンがあるみたいな話を聞いて、それを探すのに凄く時間を取られて……」


 フィーネが苦笑を浮かべつつ発した言葉を聞いて、リルンが眉間に皺を寄せたのが横目に見えた。


『凄く期待して我が何ヶ月も時間をかけて見つけ出したというのに、パンではなくてパインだったのだ! あの時の絶望は忘れられんぞ!』


 リルンの嘆きに、フィーネが耐えられないというような笑いをこぼした。


「ふふっ、ふふふっ、あの時のリルンは面白かったよ。山の頂上で一週間しか採取できないパンってところで、何かおかしいんじゃないかとは思ったんだけどね」

『それでも一度パンと言われたら、自らの目で確かめてみねばならん』

「はははっ、パンとパインが間違えられてたのか。それで、そのパインは美味しかった? 果物だよな」

「うん。美味し……くはなかったかな。パインの一種みたいなんだけど、食べるものっていうよりも、光り輝く皮が貴重だったみたい」


 光り輝く果物の皮……俺にとっては美味しいパインよりも気になるな。リルンに嫌がられそうだけど、どこかで手に入れたい。


「そんな感じで寄り道もかなりするから、のんびりした旅になると思うんだけど、それでも良い?」

「もちろん。俺ものんびりと素材採取をして錬金もしたいから、ちょうどいいかな」

「良かった。じゃあエリク、これからよろしくね」


 フィーネが笑みを浮かべて差し出してくれた右手を、俺はしっかりと握り返した。


「こちらこそよろしく」


 これからの人生がとても楽しいものになりそうな予感に、俺は緩む頬を抑えられなかった。

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