第7話 手術


 手術当日。

 病室で手術着に着替えた栗須は、麻酔用の目薬を差された後、車椅子に乗せられて手術室へと向かいました。

 目の手術なんですけど、なんで車椅子? ほんとにこれでいいの?

 心の中でそう突っ込みながら、車椅子は段々と人気のない場所に。

 流石に緊張してきました。





 手術室に到着。先生が笑顔で「よろしくね」と言ってくれました。

 手術用の椅子に座り直し、麻酔用の目薬を再度投入。

 とその時、病室に数人の若い人が入って来ました。


 あれ? ひょっとして見学の学生さん?

 拒否した筈なんですけど、どういうこと?


 そう思いましたが、ここでもチキンな栗須は何も言えず。

 すると彼らは栗須の周りにやってきて、色々と準備しだしました。

 どうやら手術中は入れないが、術前のことはするみたいでした。


 一人の男の子が栗須の手を取り、甲を向ける。

 いやいや、何か言ってからにしてよ。いきなり手をつかむのは駄目でしょ。

 必死なのは分かるよ。先生も見てることだし。

 でも、これから手術を受ける患者に対して、少しぐらい気配りしなさいって。


 はい。チキンな栗須は黙って見守ります。


 男の子が無言で、手の甲の血管に針を刺す。点滴、なんでしょうか。その辺の説明も全くなし。


 て言うか、痛い痛い痛い!


 少年少年、刺すとこ間違ってない? 無茶苦茶痛いんですけど。

 それと、一言ぐらい言ってから刺してくれない?


 少年が何度か試みる。つまり何度か刺されてるってこと。

 結構パニクってる。

 流石にイラッとした栗須、「痛いです」と一言。

 見ていた先生もイラついた様子で、「ああもういいから! やらなくていいから!」と彼を叱ってました。





 彼らがいなくなり、部屋には栗須と先生、そして助手としてもう一人お医者さんが残りました。


「6番かけて」


 先生がそう言うと、部屋にクラッシックが流れてきました。どうやらここでは、執刀医が集中しやすいように、指定した音楽を流すようでした。

 ルーティーンというやつでしょうか。

 でも、高校野球でなくてよかった(心の叫び)。


 麻酔が効いてきたようで、瞼が重くなってきました。

 目がごわごわしてる感じ。

 いよいよ手術開始です。

 今回は緑内障と一緒に、白内障の手術もするとのことでした。

 そこまで酷くはないけど、少し濁っているんだそうです。これを代えれば、かなり見えやすくなりますよと言ってくれました。





 まず最初に、最大の難関。恐怖の時間。


 ――眼球に注射を刺します。


 麻酔らしいですが、いやいや考えただけで震えました。


「はーい、じゃーあー、ずーっと左を見てくださいねー」


 言われるがままに左を見る。

 そこに針が。


 プスッ。


 ああこれ、昔見たやつだ。

 ホラー映画のサンゲリア、ゾンゲリア。はたまたハロウィン2。

 あれを今、栗須は体験してるんだ。


 いやあ、怖い怖い。


 しかし栗須はこれでも6回、まな板の上の鯉を経験してる、言わば上級者。

 全てを天に委ねました。


 角膜を外されると、完全に世界が真っ暗に。

 そこからは、何をされてるのか全く分からない状態が続きました。

 時折先生が「下向いて」「右向いて」と言い、それに従うのみ。


 途中先生が「ごめん、8番にして」と音楽の変更を要求。

 この先生、集中の為に余念がないなと感心しました。





 手術は無事成功。今回はまず左目でした。

 栗須の左、実はほとんど見えてません。右より進行が早く、気が付けば光を認識する程度の物になってました。

 なので手術、右だけでいいですと言ったのですが、例え光だけでも見えてる方がいい、遠近感を取る為に必要だから。そう言われ納得しました。


 4勝3敗。

 ついに勝ち越し!


 そして10日後、右目も成功。

 これで5勝3敗。栗須は最大の山場を勝利で乗り切りました。



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