『0%』 06 —集う者たち—
「それで、どうして君がここに?」
「ああ。そりゃトロア地方の危機だ。かと言って、ルネディ対策で騎士団は動かせねえ。だからサランディアはアレンに任せて、俺が飛び出してきたって訳だ」
アレンというのは、サランディアの現騎士団長だ。ノクスの部下にあたる人物だが、彼も騎士団長を務めるだけのことはあり、なかなかに優秀な人物ではある。
「そうか、助かったよ。では少し、暴れるとするかね」
「おう、そうだな」
状況を察したマッケマッケが、ノクスに水の障壁を張る。
それを横目で見ながら、ボッズがノクスに並び立った。
「ずいぶん面白い技を使うな」
「あ?……もしかしてお前さん、三つ星冒険者のボッズか?」
「ああ、そうだ。ではオレも真似させてもらうとしよう」
ボッズは屈み、力を溜める。筋肉が膨れ上がる。そして——。
「フンッ!」
ボッズは斧を
ボッズは通信を立ち上げる。
「——おい、ジュリ。斧をなくした。予備を持ってきてくれないか」
『——こら、見えてたっすよ、投げましたよね!? 信じられない、ふざけんなこのクソ狼! 今持っていくから、おとなしくしてるっす!!』
悪態をつきながらも了承するジュリアマリア。そのやり取りを見た誠司はため息をつきながらも、二人の顔を見る。
「さて、私達には時間がない。今のうちに動くぞ」
誠司とノクス、そしてボッズは頷きあい駆け出してゆく。
女性陣は『大水海の障壁魔法』の中に入り、『旋風の刃の魔法』の準備をする。
男性陣の行先には、地に落ちた火竜三頭が待ち受けているのであった。
†
エンダーは一人、戦う。
魔力回復薬のおかげで魔力切れの心配はないが、集中力の疲弊により、ただでさえ低い命中率がだんだんと落ちてきてしまっている。
先程から、一発も当たっていない。
(……情け無いな、僕は)
だが、諦める訳にはいかない。もしエンダーが一匹でも多く落とせば、その分、勝利に近づくのだから。エンダーは杖を構え直す。
その時、背後から人が近づいて来る気配がした。
エンダーは手を止め、振り返る。そこには、どこかで見た覚えのある人物がいた。
「……君は」
そのメイド服を着た女性は、苦虫を噛み潰した様な顔をして無言で近づいてくる。そして立ち止まり、不機嫌そうな声でこう言った。
「……あなたがリナにちょっかいを出さないのであれば、力を貸してあげますが?」
エンダーは思い当たる。彼女は『白い燕』と行動を共にしていて、彼女の素晴らしさを皆に語っていた人物だ。確か名前は——。
「……一応、名乗っておきますが、私はレザリア。レザリア=エルシュラント。別にお見知り置かなくて大丈夫ですので、さあ、約束を」
†
グリムは隣にいるヘザーに語りかける。
「良かったよ、キミ達が間に合って。大変だっただろう?」
「ええ。クロカゲが頑張ってくれたので。それでも、ギリギリだったみたいですが」
火竜襲来の知らせを受けたその日、グリムはヘザーにお願いをした。オッカトルに向かう道中で話に聞いた、『空を飛ぶ魔法』の使い手、『南の魔女』を連れて来て欲しいと。
ここから『魔女の家』まで、普通のペースで六、七日間。
それを、少しまわり道をしてビオラを拾い、その上で五日以内に『魔女の家』にたどり着けないかと。
ヘザーの返事は、こうだった。ギリギリだが間に合うかもしれないと。
『魔女の家』にさえたどり着ければ、書庫からグリムに預けたバッグを通して出入り出来る。その場合、『魔女の家』に住まう者も戦力として連れて来れるという訳だ。
正直、賭けだった。先行してレザリアを連れて来ようとは試みたが、彼女はその夜、集落の様子を見に家を空けていたのだから。
『南の魔女』を捨てヘザーとレザリアを取るか、三人を戦力としてあてに出来る可能性を選ぶか——グリムは後者を選ぶ。
そしてヘザーは間に合った。言葉通り、ギリギリにはなってしまったが。
結果論ではあるが、もしグリムが安定策を取っていたら今頃結界は破られ、この街は火竜達に蹂躙されていたことだろう。
これもひとえに、クロカゲの頑張りのおかげだ。彼は今、『魔女の家』の馬房にてゆっくり身体を休めているとのことだ。
そしてグリムは、もう一人の人物に声を掛ける。
「さて、キミはどうする? 無理はしなくていいぞ」
だがその人物は首を横に振った。
「私も連れて行って。もしかしたら私の『深き眠りに誘う魔法』が、役に立つかもしれないから——」
†
誠司は刀を振るう。ノクスは大剣を振るう。ボッズは火竜に飛び乗り、翼膜を噛みちぎる。
気をつけて立ち回ってはいるが、炎を浴びたら引き返さなくてはならない。逃がしてくれればの話だが——。
「——せやっ!」
まだ元気溢れるノクスが、一匹の火竜の首を両断する。
——斬
誠司の一閃が、火竜の命を刈り取る。
「——ボッズさん、お待たせっす!」
ジュリアマリアが駆け寄り、ボッズに斧を投げ渡す。
「フンッ!」
その力を溜めた一振りは、火竜の頭をもぎ取った。
「……ふう」
「よお、セイジ。これならなんとか——」
そうノクスが声を掛けようとした時だった。誠司が膝から崩れ落ちる。
「どうした、セイジ!」
誠司は刀をつき、肩で息をしている。ノクスは慌てて振り返った。
「おい、ボッズ。セイジの様子が……」
そのノクスの目に映ったのは、立ってこそはいるものの地面に斧をつき、誠司同様苦しそうにしているボッズの姿だった。
「……おい、お前ら一体……」
そのノクスの言葉に、誠司は顔を上げ、無理矢理笑顔を作って答える。
「……悪いな、ノクス……どうやら、時間切れらしい」
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