『0%』 05 —飛来一閃—
(……いた!)
莉奈の姿をみつけたビオラは、彼女に向かって急降下をする。
「お姉様!」
「ビオラ!」
互いに姿を認め合った二人は、微笑みを浮かべた。
そしてハイタッチを交わし、莉奈はナマカをビオラに預ける。
「気をつけて、お姉様!」
「任せて!」
ナマカを抱きしめたビオラは、地上に向かって再び急降下をした。
その姿を見送った莉奈は、女王竜の首元目掛けて全速で飛び向かう。
先程の攻撃により、今は火竜達の隊列は機能していない。
——チャンスは、今しかない。
気を持ち直したのか、炎を吐き出さんと大きく息を吸い込む女王竜。
それを阻止せんと、白い燕は小太刀を構える。
そして——
「あなたの相手は、私だよ」
——飛来一閃。
大地を震わすような叫び声。女王竜の身体が灼熱色に染まる。
莉奈は女王竜の眼前に立ち、小太刀を向ける。
「さあ、ついて来なさい」
その莉奈に向かって、吐き出される絶望の炎。しかし莉奈は、街に当たらない様に上手く飛びかわす。
空が赤くなる——。
『大水海の障壁魔法』の外でそれを眺める誠司とボッズは、こちらに降りてくるビオラに手を振って合図を送った。
「さあ、ビオラ君、こっちだ! 急げ!」
「……あ、ごめ……魔力切れ……」
「えっ?」
誠司とボッズ、そして抱えられているナマカが固まる。
直後、ガクンと力を失って落ちてくるビオラとナマカ。ナマカの叫び声が上がる。
「きゃああぁぁっっ!」
誠司とボッズは慌てて駆け寄り、ビオラをボッズが、軽くなっているナマカを誠司が受け止めた。
二人は急いで障壁内に転がり込む。
直後、障壁周辺を通過する絶望の炎。間一髪、丸焦げにならずに済んだようだ。
炎が止む。
誠司達が障壁の外へ出ると、女王竜と火竜二十頭ほどを引き連れて遠ざかっていく莉奈の姿が見えた。
誠司は拳を強く握る。
(……絶対に無事で帰ってくるんだぞ、莉奈……)
グリムは莉奈が女王竜を引き剥がしたことを確認し、クラリスに語りかけた。
「さあ『歌姫』。キミの出番だ、急いでくれ」
「あの……私がいなくなって、皆さまは大丈夫ですかね?」
「……厳しいだろうね。だが、耐えるしかない。キミも気をつけるんだぞ」
グリムの言葉に、真剣な表情で頷くクラリス。そしてグリムは、アオカゲに声をかける。
「アオカゲ。クラリスをよろしく頼む。莉奈に歌を、届け続けてくれ」
「……ブルッ!」
そう返事をするアオカゲの瞳は、闘志に満ち溢れていた。クラリスがアオカゲに
「では、行け、クラリスにアオカゲ! 第二幕、開演だ!」
「ヒヒーン!」
アオカゲはいななき、颯爽と駆け出して行く。それを見送ったグリムは、通信魔道具を立ち上げた。
「——皆、これからは耐える戦いだ。クラリスの歌は、やがて届かなくなる。蓄積した疲労が襲ってくるだろう。だが、なんとか踏ん張って欲しい。結界を死守するぞ」
現在、ケルワンの周辺にいる火竜は三十頭ほど。地に落ちた火竜が七頭。空を飛ぶ火竜が二十頭以上だ。
先程氷漬けにした火竜達は、女王竜の炎によって溶かされてしまった。
皆は疲労回復薬を、そしてセレスはビオラに魔力回復薬を飲ませる。
やがて起き上がったビオラは、セレスに頭を下げた。
「……ふう、助かったわ。ごめんなさいね」
「ううん、助かったのはこっちだけど……あなたが……」
「あ、アタシは三代目『南の魔女』のビオラよ。はじめまして。でも、挨拶している場合じゃないんじゃないかしら?」
ビオラは街の方を見る。火竜達は結界を破らんと、街に攻撃を仕掛けていた。
「そうね……あとでゆっくりと挨拶することにしましょう」
「ふふ。そうね、楽しみにしているわ」
そこで誠司が前に出る。
「それでは皆、固まって動くぞ。空からの炎があるからな。ナマカ君、いつでも大水海を発動出来る準備を。マッケマッケ君、セレス、水の障壁を全員に張り続けてくれ」
その言葉に全員が頷き、街の方へと駆け出して行く。
『渡り火竜』三十頭。これを防ぎきれば、『完全勝利』に近づくと信じて——。
†
莉奈は飛ぶ。砂の城へ向かって。女王竜達を引き連れて。
後ろから炎が飛んでくる。
しかし——これは長時間火竜達と渡り合ったからなのだろうか——莉奈は目を閉じる。
(……なんかさっきから、
目を閉じ意識を集中すると、背後の火竜達の動きがわかる。どの様に動き、何をしようとしているのかが。
まるで、後ろにも目がついたみたいだ。
何故かはわからないが——視えているのであれば、かわすのは造作ない。
莉奈は迫り来る火竜達の攻撃をヒラリヒラリとかわしながら、砂の城を真っ直ぐに目指すのであった。
†
女王竜を引き剥がした莉奈が去ってから、二十分ほど経過していた。
—— 一閃。
誠司の刃が、地に落ちた火竜の首を斬り落とした。これでようやく、二匹目。
だが、その動きに感づいた二匹の火竜が、街への攻撃を止めこちらへと向かってくる。飛ぶ火竜。
ヒイアカとマッケマッケが『旋風の刃の魔法』を唱えるが、警戒した火竜は上空に浮かび上がり炎を吐いた。
「——『大水海の障壁魔法』」
ナマカの障壁が皆を守る。その壁に向かって、一匹の火竜が滑空してきた。
ボッズが炎の中飛び出し、斧を振り上げる。
「フンッ!」
それを察知した火竜は、急上昇をする。ボッズは急ぎ、障壁内へと避難をする。セレスが『水の障壁魔法』を張り直す——。
「……やはり、キツいな」
誠司は空を見ながらつぶやく。
それはこの場にいる全員が、感じ取っていた。
——莉奈の存在は、大きかった。
やはり、万全の火竜は、強い。
先程までのように数頭だけ警戒すればいい訳ではない。空にいる二十数頭を警戒しなくてはならないのだ。
皆が顔を歪める。このままではジリ貧だ。勝てるビジョンが、見えない。
と、その時。誠司が何かにピクリと反応した。
「すまない、ヒイアカ君。上空に向かって、『閃光の魔法』を撃ってくれないか」
「……なんで?」
「まあ、いいから」
首を傾げながらも、言われた通りに上空に『閃光の魔法』を打ち上げるヒイアカ。
火竜達は一瞬怯んだが、一匹の火竜が滑空してくる。
「来ます!」
マッケマッケが叫ぶ。誠司はその火竜に相対するが——。
次の瞬間。もの凄い勢いで飛んで来た何かが、その火竜の首に突き刺さる。
たまらずに勢いをつけたまま地上を転がる火竜。誠司はその火竜の首を、斬り落とした。
唖然とする一同。誠司は首に突き刺さった何かを抜き、その持ち主の到着を待つ。
そして、やがて駆けつけた人物に、親しみを持った口調で語りかけた。
「いや、まさか君が来てくれるとは思わなかったぞ」
誠司はその人物に、大剣を渡した。
「すまねえな、すっかり遅くなっちまった。だがまだ、これからなんだろ?」
そのいかつい風体を揺らしながら、男は髭を撫でる。
大剣をまるで投げナイフのように扱える規格外の人物。
サランディア王国元騎士団長、『王国一の剣士』としても名高い大剣使いのノクスが、友の窮地に駆けつけたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます