第3話 不思議な石
太郎たちの「雨、大キライ」の合唱が雨雲に届いたかのように、ピタリと雨が止みました。
「止んだ、止んだ、雨が止んだ!」
ベランダの男子たちは、おおはしゃぎです。
雨が急にやんだのが不思議で、太郎はボーっと空を見ていました。
ずっと雨を降らしていた神様も疲れてしまって、子供たちの声をきっかけに休むことにしたみたいです。
雨雲が過ぎ去って、青空が広がっていきます。
「ポチャ」
音がしました。
太郎は足元を見ました。そこには、小さな水たまりができていました。
そして、その水たまりのなかに、丸い石が沈んでいました。
さっきまでは、水たまりもなければ、こんな石もありませんでした。
「太郎君にあげるよ」
太郎は驚いて周りも見ましたが、誰もいません。
「あげるよ?」
太郎は水たまりの中に、手を伸ばしました。
とても軽くて、とても薄くツルツルした石でした。
真ん中に白いボタンがあって、白いボタンを囲むように黒、赤、黄、青、緑、茶、紫色の小さなボタンが並んでいます。
「なんだ、これ。ゲームのリモコンか」
赤いボタン、青いボタンと順番に押してみました。
何も起こりません。
「おもちゃなの?」
太郎が、うーんと考えていると、ベランダから健太の声が聞こえてきました。
「太郎、授業始まるぞ」」
太郎は健太に手を振って、「あげるよ」と言われた石をポケットに入れて、校庭を走って行きました。
授業が始まっても太郎は石が気になって、先生の話しは何も耳に入ってきませんでした。
どこかの有名な芸術家が、河原ですべすべした石をみつけて、何日もかけて削って、そして色をつけた。
頑張ってつくってはみたけど、結局気に入らなくて捨ててしまった。
そうだとしても、学校の校庭に落ちていた理由がわかりません。
やっぱり、学校にいる誰かが落とした?
そんなことより、問題はこれが何かということでした。
黒、赤、黄、青、緑、茶、紫色の小さなボタンは押しても引っ込みません。けれど、どう見ても“ボタン”です。
真ん中にある白いボタンが親分みたいです。石のまん中にあるし、他よりもずっと大きいからです。
太郎は白いボタンを、ゆっくりとなでてみました。
すると白いボタンがチカチカと光り始めました。
「あっ」
思わず声が出ました。
「浜田君、どうしたの」
クラスのみんなも太郎を見ています。
「なんでもありません」
太郎が大きな声で言うと、クラス中で笑いが起こりました。
石を見るともうチカチカと光っていません。
「石が光った?」
とんでもないものを拾ってしまったと、太郎は思いました。
これが何かは分かりませんが、授業中に石をいじるのは危険です。
太郎は、石をしっかり握ったまま、ボーっと休み時間が来るのを待ちました。
休み時間のチャイムと同時に、太郎は教室を飛び出して、体育館の裏に行きました。
ここなら誰もいません。
もう一度白いボタンを、ゆっくりと押してみました。
白いボタンはチカチカ光り始めました。
少しすると、その光はすぐに消えてしまいました。
もう一度白いボタンを押すと、やはりチカチカと光りはじめます。
今度は、その左上にあった青い色のボタンを押してみました。
押したとたんに、何かが太郎の頭にかかりました。
「え、水、え、雨」
髪を触った手は青くなっていました。顔から青い水が手にしたたり落ちてきます。
「うあ、気持ち悪い」
驚いて石を投げ出すと、雨は止みました。
「えー、これって青色の雨を降らす石なの」
雨を降らす石。
不思議な世界に、紛れ込んでしまった気分です。
雨は直ぐに乾き、青色もスーッと消えていきました。
チャイムがなりました。太郎は急いで教室に戻りました。
もっと石を触りたいけれど、授業中に青い雨が降ったら大変です。
太郎は、ポケットの石を握りながら、ボーッと先生を見ていました。
「きりーつ。礼」
太郎は全速力で教室を飛び出しました。
家に帰ると、太郎は石を持って浴室に駆け込みました。
浴室なら青い雨で青くなっても、シャワーで流せます。
学校からの帰り道、色の雨を浴びてもいい場所を、ずっと考えていたのでした。
床に座り込み、太郎は白いボタンを押しました。
チカチカと光り始めます。
青色のボタンと押すと、青い雨が降ってきました。そしてすぐに乾いてなくなりました。
白いボタンの次に、今度は赤色のボタンを押してみました。天井から赤色の雨が降って来ました。
「うわ。気持ち悪う」
そうなるとは予想していても、実際に体中真っ赤になると、気持ち悪いどころか怖くなりました。
そんな赤色も、すぐに消えていきました。
黄色い雨、茶色い雨、緑色の雨。
白いボタンの次に色のついたボタンを押すと、その色の雨が降ってくることがわかりました。
「凄いなこれ。けど、どうしよう、これ」
太郎は思わずつぶやきました。
「太郎、どうしたの」
学校から帰ってきて、浴室に入ったまま出てこない太郎を、母さんは心配しています。
「はーい。もう出るから」
色のついた雨を降らす方法は、わかりました。
そして、色の雨がすぐに乾くこともわかりました。
これなら自分の部屋でも、石の調査ができそうです。
太郎は部屋に戻ると、何回も雨を降らしてみました。
そして、雨がすぐに乾くこと、そのあとには何も残らないことを、何度も確かめました。
「よーし、あとは明日だ」
土曜日からの調査にワクワクしながら、太郎はベットに入りました。
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