第26話 すやすや

 これは夢だ、と礼央は認識していた。高校の教室に、穣と大悟とまりえがいたからだ。大悟は同じ教室になったことがないし、まりえと知り合いではない。穣は学年で言えば一年上だ。彼らは親しげに話していた。

「今度、大悟のバンドがライブやるって。礼央も行かない?」

 まりえが礼央に話しかけてきた。いいね、行こう、と礼央は返した。

「ライブの後、ボウリング行こうぜ。会場、千種の近くだからさ」

 大悟が言った。バンドでの打ち上げとかないのかな、と礼央は考える。

「楊井くんは、ボウリングのスコアどれくらい?」

 穣が尋ねた。ボウリングのスコア、どれくらいだっけ――最後にボウリングに行ったのはいつだろう。高校生の時? 今、自分は高校生だっけ? 早く起きなければ、学校に間に合わない。授業の出席が足りなくて、卒業できなくなるかも……そんなことを考えながら、自室の天井を見ていた。目覚まし時計のアラームが聞こえる。夢だ。今日行かなければならないのは予備校、高校は卒業していて、まりえは大学生で、穣は一学年上で……と、一つずつ記憶を確かめていく。妙に現実味があるのに現実にはなかった夢は、時折夢と現実の境目をあいまいにさせる。傍目には安眠しているかもしれなくても、記憶に残るような夢を見るほどに眠りが浅いのは、本人としてはあまり休めた気がしないものだ。覚えていれば、穣と大悟に夢の話をしよう。そして笑い飛ばしてもらおう。憂鬱な気持ちを払うにはそれが一番いい。重い身体を起こし、礼央は身支度を始めた。

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