第22話 賑わい
朝の電車に乗ると、何だか様子が違うなと礼央は思った。子どもだけの集団が複数乗り込んできて、がやがやと賑やかにおしゃべりをしている。礼央は少し離れた場所にいるのでさほどうるさいとも思わないが、集団の近くに座っていた社会人らしき人々は露骨な反応こそしないものの、鞄からイヤホンを取り出して耳につけたり、腕を組んで目を閉じたりしていた。
自分も昔はああだったのかな、と礼央は我が身を振り返る。そもそもあまり子どもだけで電車に乗って出かけた覚えがない。彼らは夏休みだから子どもだけで出かけようということなのだろうが、自分は駅から家が少し離れていることもあり、親に車で送迎してもらう手間などを考えると、地元の適当なショッピングモールなどで駄弁る程度がちょうど良かった。電車にひとりで乗るようになったのは高校生になってからだ。
それにしても、浪人生には夏休みという概念がない。寧ろ、夏こそ受験の天王山などと日本史から例えを持ち出され、模試に夏期講習にと忙しい。正直夏休みがあって友達同士で出かけられるあの子どもたちが羨ましい。そう思うとやっぱり気になってきてしまうので、礼央も鞄からイヤホンを取りだした。今は雌伏の時、せめて子どもたちにはつまらない妬み嫉みなど抱かないよう、自分を奮い立たせていようと思った。
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