第12話 門番

 駅の定期駐輪場には、昼間の決まった時間だけ管理人がいる。公共交通機関の定期券と同じで、一定期間分の料金を払えば定期券が渡され、決まった区画に駐輪できるようになる仕組みだ。高校生の時から家の最寄り駅の定期駐輪場を利用している礼央だったが、管理人の姿を見るのはテスト期間中などの早く帰った日くらいなもので、朝早くや夕方にはいない。推測するに、通勤通学の自転車が概ね出揃う時間帯に管理人がやってきて、それぞれの自転車が決まった場所に駐輪されているか見回るのだろう。作業着にキャップ姿の、気難しげな顔をした老人が管理人で、礼央の記憶のある限りでは高校入学当時から変わっていない。

 今日は、予備校の授業がたまたま午後の一コマ目までで終了だった。穣や大悟は自習室に残っていくらしい。礼央も残っていくか少し迷ったが、週末の模試を控えて自習室が混みあっていることが予想出来たのと、今日は両親がそれぞれ職場の飲み会と出張で遅くなると聞いていたので、家で勉強しようと考えていた。家の最寄り駅に着いて電車から降り、定期駐輪場に入る。管理人室は出入口近くにあり、小さなブースが設けられている。屋根や風よけの壁はあるが空調を置けるようなスペースはなく、小さな扇風機の前で老人は新聞を読んでいた。

 自分の駐輪区画で鞄を自転車の前かごに放り込み、ハンドルを押して駐輪場を出る礼央に気づいたのか、老人は顔を上げた。目が合ったので会釈をすると、老人は気難しげな顔のまま新聞越しに頷く。会話もない、顔見知りと言うだけの関係だが、なんとなく門番と知り合いになれている気がして礼央は知らず知らずのうちに口元を綻ばせた。

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