第8話 こもれび

 予備校の教室から見えるビル街には、時折何らかの意図を持って植えられた緑がある。低めのビルの屋上なり、テラスのように張り出した場所だったりと形は定まらないが、本来植物が根を張るのとは異なる高さの、決まった量しかない土に根をおろし、コンクリートジャングルに本物の木漏れ日を落とす。礼央れおはそれを見て斜に構えるほど社会問題やら何やらに向き合っているわけではなかったが、やたらとお高いレストランやカフェが入ったビルにそれらがありがちなのを見ると、なんとなくいけ好かない気持ちにはなる。

 高校生の延長のような浪人生には自由になるお金なんてないので、商業施設が多く軒を連ねる都心部に毎日通っていても、その店舗の多くに入るほどの余裕は無い。せいぜい映画館か書店くらいだ。多分それは大学生になってもそこまで変わらないと思う。小遣いを気前よく出してくれる大人が居たりすれば話は別だが。

 ああ、今日はまた腹立たしいほどの気持ちの良い晴れ間だ。礼央は窓の外から目を背け、黒板に目を戻す。同じ緑でも、今はこっちの緑の方が落ち着くなと思った。

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