風の塔に眠る夢 - 8
麻美は、喫茶店まほろばで出会った四人の男の子たちに案内をしてもらい、間多良山公園を目指すことにした。五人で駅前のバス停から乗車し、乗客のほとんどいないバスの後方の座席を陣取った。これで、公園の最寄りのバス停を目指す。
「ごめんね、せっかくの休みなのに、わざわざ……」
麻美が頭を下げると、てっつんは笑って言う。
「いーよ、別に。どうせ暇してたところだし」
「そうそう。あと俺ら、ちゃんとバスの定期券持ってっから」
間多良山公園に着くまでの車中で、麻美は気になっていたことを四人に尋ねた。
「さっき、喫茶店で話を聞いたときに思ったんだけど……もしかして、間多良山はいわくつきのような場所なのかな」
「えっ」「それは……」「まあ」
それぞれが、目線を泳がせて言葉を濁す。やはり、麻美の気のせいではなく、その山で何かがあったらしい。
「もしかして、危ない場所なのかな。それって、古賀雅治がその山の近くにアトリエを構えていたことと、何か関係があったり……」
少年たちが口を濁すのにはなにか相応の理由があるのだろうが、麻美は麻美で情報を欲していた。結局のところ、自分が見る夢の正体がわからなければ、自分はすっきりとした気分で自分の町に帰ることはできないのだから。古賀雅治が、どのような経緯で『風の通い路』という絵を描くに至ったのか……少なくとも、それを突き止めなければならないのだ。
リョータが「ううん」と眉根を寄せて麻美に応えた。
「正直、僕たちはその古賀って人のことをあまりよく知らないんです。十年前ってなると、俺たちが心つくかつかないかって頃ですからね。マスターが話していたように、この深間坂には変わり者が住んでいたんだって話は耳にしたことがありましたけど……でも、大人の人でもあまり関わり合いにならないようにしていたらしいので、彼のパーソナルなことまで深く知る人ってのは、この町にはいないんじゃないかと思いますよ」
「そうか……まあ、そうだよね」
麻美は肩を落とす。
「結局、彼がアトリエとして使っていたっていうその建物を調べるしか方法はないってことね」
麻美が言うと、今度はチハルが横から声をあげる。
「そういや、結局なんで古賀雅治のことを調べてるんです? さっきは気持ちの整理のためとか言ってましたけど……」
「おい、チハル。あまり詮索するなよ……すみません、麻美さん。こいつデリカシーがないんです」と彼の横にいたカイトが止めた。
「あはは。いいよ別に……でもそうだな、せっかく協力してもらっているんだし、バスが着くまで暇だし、教えちゃおうかな」
麻美はそう言って、この深間坂を訪問するに至った経緯をすべて話した。無論、何度も繰り返し見る夢のことも……。
すべてを話し終えると、四人は目を丸くして驚いていた。
「そんな奇妙な話が……」「なんだか……」「ああ、これは」
四人はごにょごにょと言いながら、それぞれに顔を見合わせる。
やがて、カイトが意を決したように言った。
「あまり詳しくは話せませんが、実は以前僕たちも、間多良山で同じくらい奇妙な体験をしたんです。あの山は……いや、きっと間多良山だけじゃありません。この町はちょっとおかしいんです」
「おかしいって、この深間坂の町全体が?」
はい、と他の三人も声を揃えて頷いた。
「これは僕の印象なんですが……この町はあちこち歪んでいるんです。一件、どこにでもあるごく普通の住宅街なんですが、いつもどこかしらが破れかかっていて、誰かがそこに間違って足を突っ込むと、まったく別の世界に連れて行かれる……そんな落とし穴のようなところがいくつもあるんです。間多良山の中心にある拝み岩というのも、そのうちのひとつでした。今から行くアトリエとは距離がありますが、あそこには何があっても近づかないことをおすすめします」
カイトは頑とした口調で言う。その表情は真剣そのものだった。
「ありがとう。肝に銘じておくよ」
麻美は素直に礼を述べた。
五人はバス停を降り、そのすぐ近くの坂を上っていった。
「ここ、足元に気を付けて」
前を行く少年たちが、こちらを振り返った。
「ここ、ぬかるみ坂っていうんです。この生えっぱなしの木が日陰をつくっているせいで、いつもこんななんだ」
彼らは、そこら中に水たまりのある泥っぽい坂を、道を選びながら進んでいく。
「なるほど、ぬかるみ坂……名前通りね」
麻美はできるだけスニーカーが汚れないよう、彼らの足跡をたどるように歩いて行った。
坂をのぼりきると視界が広がり、「間多良山公園」という、錆びて色あせた看板が目に入る。その看板が、かろうじてここを「公園」たらしめている……そう思えるほど、殺風景な空間だった。目に入るものと言えば、用途も知れない程こじんまりとしたグラウンドと、腰ほどの高さまで伸びた雑草に埋もれた遊具たちだ。遊具と言っても、ブランコやジャングルジムなどではなく、地面に半分埋まったタイヤや、デフォルメした動物の石像が身を隠すように佇むばかりである。これでは人は集まらないだろう。現に、休日の昼間だというのに人の気配はまるでない。
「ずいぶんと寂しい場所だね」
麻美はぽつりと正直な感想を述べた。
「この町はだいたいこんなもんですが、ここは特に陰気な場所ですからね……ほら、あれですよ」
カイトが指差した先に、件の廃屋が草むらの中でぽつんと佇んでいる。
麻美はどきりとした。視界に入っていたはずなのに、言われるまでその存在に気がつかなかったのだ。まるで、その建物自体が幽霊のような茫漠とした存在のように思えて、背筋がぞっとした。
麻美は本を取りだし、先ほどのインタビューの写真と見比べてみた。なるほど、長い年月を経て変わり果ててはいるが、たしかに同じ建物である。古賀雅治がここで創作活動に勤しんでいたということに間違いはないようだ。
こじんまりとした平屋の建物で、一人で暮らすとしても住宅というには小さい。ここはあくまでアトリエで、住居は別に持っていたのだろうか。
「よっしゃ、じゃあ行くぞ」
てっつんが勇んでいこうとするのを、麻美は慌てて止めた。
「いや、ここまででいいよ」
おそらく、この子たちはかつてあの廃屋を遊び場にしていたのだろう。きっと彼らにとっては勝手知ったる場所なのだろうが、危険と分かっている場所に子どもを連れて入れるはずもない。
「ここから先は、わたしひとりで行くから」
「なら僕たちは、念のためにここで待機してます」
心配そうに、リョータが言った。
「僕たちが言うのも変ですが、本当に気を付けてくださいよ。ガラスは割れてる、床板は腐ってる。おまけに蛇や虫もいるかもしれないんだから」
「ありがとう。気をつけていくよ」
麻美は彼らに向かって頭を下げると、途中で買っておいた懐中電灯を取りだし、廃屋へと歩き出した。
その廃屋に近づくにつれ、地面はまたもぬかるんで靴底に吸いつき、嫌な水音をたてた。湿りを含んだ風が、ゆるやかに頬を撫でる。腐臭にも似た、かすかな生き物の気配が、草むらの匂いに混ざっている。
伸びきった雑草を踏み越え、廃屋の扉にたどりつく。扉は大きな音をたてながらも、いともたやすく開いた。瞬間、長年閉ざされていた、生温く埃っぽい空気が身体を包みこむ。
思わず、扉を開いたまま、後ろを振り向いた。
少年たちは近くの遊具ともいえない石の塊に腰かけ、こちらを見ている。
まるで、あの世から現世を見下ろしているような奇妙な気分になる。なんだか、三途の川を渡って別の世界に来てしまったような気がした。
妄想を振り払い、麻美は扉の奥へと一歩踏み出した。
懐中電灯で薄暗い部屋を照らすと、中の様子がはっきりと見て取れた。彼らが話していた通り、なかなかの惨状である。
瓦解寸前と言っていたが、住居としてはすでに崩壊している。廃屋としては当然ではあるが……。
一歩踏み出すごとに、みしみしと床が音を立てた。やはり、床板が腐りかけているらしい。慎重に歩を進めていく。ソファやデスクなどの調度類が点々と置かれており、そのあたりにジュースの空き缶やスナック菓子の袋などのゴミが散乱している。これはきっと、あの少年たちが残していったものだろう。決して褒められた行為ではないが、同じく不法侵入している自分も責められる立場にはない。
ざっとメインルームらしい部屋を見たが、正直、肩透かしを食らった気分だった。
芸術家のアトリエとなれば、資料なり作品の設計図なりがわんさか置いてあると考えていたのだが、当てが外れたらしい。部屋の中は、がらんどうといってもいいほど何も残っていない。
その殺風景な光景に肩を落としながらも、うろうろと廃屋の中を歩き回る。
いったい、自分は何を探しているのだろうと、自分で自分に尋ねてみる。
自分が知りたいのは、『風の通い路』が描かれた背景だ。かつていろんな町を転々としていた古賀は、この深間坂に身を移した後、おそらくはこのアトリエでこの絵を描き上げた。きっとこの町に、あの光景を彷彿とさせる何かがあるはずなのだ。そしてそのヒントは、きっとこのアトリエのどこかに……。
麻美は、ちらりと窓の外へ目を走らせた。外の公園に面する大きな窓からは、少年たちの姿が見えた。彼らは、わたしの姿が見えているだろうか。
そう思った時だった。何かが麻美の鼻先をくすぐったような気がして、思わず自分の顔を手で覆った。
突然、この狭いアトリエの中に強い風が吹いたのだ。
細かい粒子が顔に吹き付けてきて、麻美は反射的に目を閉じる。割れた窓を通じて入り込んだ強い風が、部屋の中の埃や砂を舞い上げ、麻美に襲い掛かった。
「何が起こってるの……!?」
麻美は眼を細く開けて、外の少年たちを見るが、彼らは何事もないように茫然としている。彼らは、この異変にまるで気がついていないらしい。
いや、違う。
彼らの足元に生えている草は、微動だにしていない。彼らの周囲には風が吹いていないのだ。麻美のいる、この廃屋を取り巻くように、風の流れができている。
麻美は近くの壁に寄り掛かった。風の奔流から逃れて恐る恐る目を開くと、あるものが視界に飛び込んできた。
部屋の中で渦を巻く風が、出口を求めるようにして、壁の隙間に吸いこまれていくのだ。
さきほど見た時は、何の変哲もないただの木の壁だったのだが、強い風に押されて、うっすらと口を開けている。そのわずかな隙間に、風が吸い込まれていくのだ。
麻美は、自分の足元に目を走らせた。すると、手頃な鉄パイプが床に転がり落ちている。それを拾い上げると、風の中を突っ切って壁に近づき、思い切り叩きつけた。
それはほとんど直感的な行動だった。
壁も脆くなっていたようで、すこし崩れたが、まだ向こう側は見えない。
麻美は顔をかばいながら、何度も何度も、鉄パイプを壁に打ちつけた。
風切り音に混じり、ごんごんと鈍い音が響き渡る。わずかだった隙間が広がったとみて、そこに鉄パイプを差し込み、今度はてこの要領で押し広げる。
みしみしと音を立てて、ゆっくりと壁が崩れ始める。麻美は渾身の力を込めて、鉄パイプを捻った。壁の一部が崩壊し、中の空洞が露わになる。
「ああ、やっぱり……」
こんなところに、隠し部屋があったのだ。
麻美が確信した途端、まるでそれを待っていたのように、風がぴたりと止んだ。
鉄パイプが床に転がり落ち、カランと乾いた音を立てた。
まさに台風一過のように、廃屋の中は静まりかえっていた。舞い上げられた砂埃がふわふわと漂っているばかりである。
麻美は懐中電灯で、露わになった隠し部屋の中を照らしてみる。そこは半地下のような構造になっており、階段で下に降りられるようだった。
だが、壁の壊した部分からはとても入ることができない。どうしたものかと探ってみると、壊した壁の近くに置かれたキャビネットの裏に、地下への階段に通じる隠し扉を見つけた。麻美は身を屈めてその小さな隠し扉をくぐり、秘密の地下へと下りていく。
窓からの光もない、真っ暗なその空間は、六畳ほどの広さがあった。
懐中電灯で壁を照らした時、麻美は思わずはっと息をのんだ。
「ビンゴだ」
そこに掲げられていたのは、紛れもなく『風の通い路』と同じモチーフの絵だった。それも、一枚だけではない。同じような風景を描いたの絵が、そこら中に何枚も描き散らされたままになっている。
どこまでも続く草原、澄み渡る青い空、聳え立つ石の塔。風の吹き渡る大地……。麻美が何度も夢で見た、あの景色。画角や色使いなどはすこしずつ異なるが、どれも同じ風景を描いたものである。あの本には一枚しか掲載されていなかったが、古賀雅治は、人目を忍んでひっそりと同じ風景を描き続けていたのだ。
ふと、麻美の脳裏に、ある可能性がよぎった。
彼もまた、自分と同じようにあの夢に悩まされていたのではないか?
来る日も来る日も同じ夢を見て、頭に染みついた光景を外に吐き出そうと、とり憑かれたようにキャンバスに向かう彼の悲愴な姿を想像してみる。
しかしなぜ、こんな隠し部屋まで用意して、人目を避ける必要があったのか……。
暗闇の中でひとり立ち尽くして思考を巡らしていると、靄がかかったようにぼんやりとしていた古賀雅治という男の人物像が、すこしだけ輪郭をもって見えた気がした。
作品集のタイトルにするほど、彼にとっては重要なモチーフだったことは間違いない。そのうえで、彼の中で二つの相反する感情が渦巻いていたのではないだろうか。
自分が目にしたこの景色を、人に見せびらかせたい。自分だけがこの『風の通い路』なる地へと到達したのだということを知らしめたい自己顕示的な欲求。
そしてもう一つの感情は、この場所を自分だけの秘密にしておきたいという想いだ。
彼の中で、これらの感情が捻じれて絡み合っていたように思えてならなかった。
麻美は、懐中電灯で再び部屋の中を見てまわった。
額縁に入れられた絵が数枚、横長のチェストの上に立てかけられている。
チェストの引き出しに手をかけて引っ張ると、あっけなく開いた。その中に、一冊の古びた手帳があった。
手帳をパラパラと捲ってみる。古賀雅治のものと思われる、乱雑な字がびっしりとページを埋めていた。
重要な手がかりに違いないが、読み通すのには時間と根気が要りそうだ。一度これを持って帰って、ゆっくり目を通すべきだろう。
麻美はそう判断し、ズボンの尻のポケットに手帳を突っ込んだ。
その時だった。
「麻美さーん、大丈夫ですか?」
突然、近くから大声が聞こえてどきりとした。あの少年たちの声だ。
「おい、どこにもいないぞ」「消えたのか? おい、ヤバいんじゃないか」
隠し扉の向こう側で、子どもたちが口々に言うのが聞こえる。どうやら、麻美を心配して中に入ってきてしまったらしい。
「警察に連絡した方がいいか?」という声が聞こえて、麻美は慌てて声を上げた。
「おーい、大丈夫だよ……ここ、ここ」
麻美が隠し扉を開いて顔を出すと、少年たちは皆一様にぎょっとした表情を浮かべる。その驚いた顔がおかしくて、つい吹き出してしまう。
「何だこれ!?」「隠し扉……お前ら、こんなの知ってたか?」「まさか、初めて見た」
少年たちはわらわらとその入り口に群がって、その奥の階段を覗きこんでいる。
「とりあえず、皆外に出よう。気になるだろうけど、皆で入って崩れたりしたら大変だ」
麻美はそういって、全員を建物の外へと連れだした。
「それで、中に何があったんです?」
リョータが急かすように言った。
「何かあったとすれば、間違いなく金目のものだろ」
てっつんが目を輝かせて言ったが、麻美は「そんなわけないでしょ」と一蹴する。
「お宝探しにきたんじゃないの。でも、たしかにわたしにとっては値千金の情報……」
麻美はそう言って、ポケットから先ほどの手帳を取り出して見せた。
「宝の地図!?」
「だから違うって。中に何がかかれているかは、今からじっくり見聞するの……ちょうどいいわ、この町に詳しい君たちがいた方が助かるかもね」
麻美は、少年たちに見えるように手帳を広げ、皆で眺め始めた。
「きったない字だなあ。俺らと大差ないんじゃないか?」
てっつんが言う通りだった。いわゆる金釘流というか、ぐねぐねと無駄に折れ曲がった独特の癖のある字。だが問題は、その内容である。
それは、特に『風の通い路』に関することを日記の形式で書き残したものらしかった。
「えーっと、なになに……」
麻美は、ぱらぱらとめくっていくと、突然、見開き一ページに大々的に書きつけた一文があった。その文字の大きさが、彼の興奮の度合いを物語っているようである。
『信じがたいことだ、あんな岩の隙間が、別世界の入り口だったなんて……!』
『俺はあの場所を、風の通い路と名付け、俺の創作活動における最後のモチーフとする!』
麻美が文字を読み上げると、しばらく沈黙が下りた。
「つまり……この山のどこかに、異世界に通じる穴があるってこと?」
にわかには信じがたい内容だ。だが、それを真っ向から否定できない自分がいる。
……もし、彼の書き残したこの記述が事実だとするなら、わたしは……。
その時、何かがページの隙間からはらりと飛び出して、地面に落ちた。
「麻美さん、何か落ちたよ」
「これは……写真?」
麻美が拾い上げたその写真は、おそらくこの山の中で撮影されたもののようだった。鬱蒼とした木々に囲まれたふたつの大岩が、互いを支えあうような形で直立している。この写真だけでは大きさは判断しにくいが、どちらも見上げるほどの巨岩だ。それはまるで、右手と左手を拝むように重ね合わせたような形にも見えた。
「これは何だろう……遺跡? いや、祠かな」
「どれどれ……あっ」「うわっ」「ひえっ」
その写真を見た少年たちが、口々に奇妙なうめき声をあげた。彼らには、何やら思い当たる場所があるらしい。「この場所を知ってるの?」
麻美が問うと、カイトが口ごもりながら答えた。
「これが、さっき言っていた拝み岩ですよ。ほら、右手と左手を合わせて拝んでいるような形になってるでしょ」
カイトは、自分の手をもって合掌しながら言った。
「さっきも言ったとおり、この間多良山の真ん中あたりにある岩で……まあ、いろいろといわくつきのところですよ……ああ、結局またこれが絡んでくるのか……」
「まあ、深くは聞かないでおくけど……わざわざこの手帳に挟んであるってことは、行く価値はありそうね」
麻美が言うと、皆が慌てて麻美を引き留める。
「あそこだけは近づかない方がいいと思うよ」「そうそう、悪いことは言わない。やめときなって」
「そうやって心配してくれるのはありがたいけど、ここまできて引き下がるつもりはないよ。たかが夢の話じゃないかって思われるかもしれないけれど、これはきっとわたしの生活、いや、人生に深く関わっている問題なの。行ってどうなるかはわからないけど、いい加減ケリをつけておかないと、自分自身がダメになってしまう予感がするのよ」
「でも……」
カイトが止めようとするのを、てっつんが遮っていった。
「まあ、そこまでの覚悟があるのなら、もう俺たちが口を出す問題じゃないだろ……俺たちみたいに好奇心だけで動いているわけじゃないみたいだし」
てっつんの言葉に、他の子らも渋々ながら頷いた。
「でも、俺たちなりに忠告はしましたからね。深入りはしない方がいいですよ」
「重ね重ねありがとう。ご忠告痛み入るよ」
麻美はにっこり笑って言った。
「それで、その……拝み岩って所には、どうやって行けばいいのかな?」
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