風の塔に眠る夢 - 7

 麻美は、少年四人が占めていたボックス席に席を移した。

 テーブルの中央には、『風の通い路』が広げられている。その隣には麻美のスマートフォンが置かれ、深間坂の地図を表示している。

「いいですか。この深間坂の北側にあるのが間多良山です」

 仲間からカイトと呼ばれている少年が、麻美に画面が見えるように、スマホを操作する。

「間多良山の中には、西から東にかけて遊歩道が通っています。ここが西口で、こっちが東口ですね。で、この東口からすこし西側に寄ったところの……この辺りです」

 カイトはそういって、ある一か所をズームした。そこには「間多良山公園」という表記がある。

「ちょっと足元が悪い坂道を登っていく必要があるんですが、ここに狭い公園があるんです。公園といっても、ほとんど人が寄り付かない場所ですが……。それで、この公園の隅の方に、廃屋が立っているんです」

「それが、この写真のアトリエにそっくりだと?」

 麻美が訊くと、四人ともが頷いた。

「背景も一緒だから、間違いないと思うぜ」

「ああ。さっき覗きこんだ時、なんだか見覚えのある建物だと思ったんだ。時間が経っているせいで一瞬わからなかったけど、形はそのまんまだ」

 チハル、てっつんと呼ばれたふたりが応える。

「で、わざわざそんな場所に何の用があるんです?」

 リョータという少年が麻美に訊いた。

「もう瓦解寸前の廃屋ですよ? ここだけの話、僕たちは何度もあの中に入っているんですが、中には何も残っていません。窓は割れ放題、壁紙も床板もボロボロ。僕たちが言うのも変ですが、中に入るのはおススメしません」

「もしかして、高価な絵とか美術品が隠されてたりするのか?」

 てっつんのその言葉に、チハルも目を輝かせる。

「マジかよ。案内するから分け前くれよ。折版とまでは言わないからさ」

「残念だけど、そういう即物的な話じゃないよ。わたしの気持ちの整理に必要なことなんだ……」

 麻美が言うと、「なんだあ」と残念そうな声を上げた。

「まあ、でも案内するくらいならいいよ。なあ?」

「えっ」と、カイトが明らかに嫌そうな声を出す。「俺たちもいくのか?」

「いいだろ。間多良山にさえ入らなきゃ……あの公園のところなら大丈夫だって」

 何やら、彼らの間では山にまつわるトラウマのようなものがあるらしい。

「あの、無理にとは言わないよ。場所さえ教えてくれたらいいから……」

 麻美は遠慮するが、てっつんは首を振った。

「だめだめ。ここまで話を聞いておいて、麻美さんひとりで行かせて何かあったら、夢見が悪いなんてもんじゃねえよ。どちらにしてもあそこにいくんだろ? だったら案内くらいさせてくれよ」

「まあ……それもそうだな」

 消極的だったリョータも、彼の意見に納得したらしい。結局、三人に流される形で、カイトも折れることになった。

 こうして、四人の中学生たちの案内で、麻美は古賀雅治のアトリエ跡を目指すことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る