第35話 無海住教頭の過去②

 ☆無海住むかいずみ教頭の過去②☆


「ありがとう。助かるわ。お金がなくって困ってたの」

 それでも今の生活を守るため無海住むかいずみ教頭は金を払っていた。それを見る咲見崎さみさき先輩は笑っていた。


 無海住教頭をみてニヤニヤしている彼女は

「次は200万お願いね。私ってば欲しいものが、まだまだいっぱ~いあるの!」

 とその無海住教頭にニヤリと笑いかけた。


 この悪魔のような笑みを見た無海住教頭は、手が白くなるほど強く握りしめ、開いた手のひらには赤い爪の跡がくっきりと残っていた。


 そして無海住教頭に決定的な瞬間が訪れた。深夜に車を走らせていたときに、川からい上がって来る影を無海住教頭は見つけた。何事だと思ってその影に近づいてよく見ると、川から這い上がってきたのは、あろうことか咲見崎先輩だった。


(アンタは悪い奴だから、お金を絞りとれるだけ絞りとるべきなのよ。だってアンタは殺人犯なんだから。悪い奴はとっちめないといけない。そんな悪い奴からお金を絞りとるんだから、私ってば正義の味方!?)

 と、口の端を上げ咲見崎先輩が話していたのを無海住教頭は思い出し、何かを決意したかのように頷いた。そして眼鏡をクィッと持ち上げてクックックと嗤いだした。


 そして必死に川から上がってきた咲見崎先輩の身体を、再び川の中へ引きずり戻した。水面に彼女の顔を乱暴に押し付ける。その揉みあいになったとき、無海住教頭のスーツから咲見崎先輩が引きちぎったのがボタンだ。


 そしてどれくらいの時間が経ったのだろうか? 咲見崎先輩が動かなくなったのを確認した無海住教頭はそのまま彼女の遺体を川へ投げ捨てた。


 ※


 無海住教頭は自分が悪いのではないとみんなに主張する。

「咲見崎は悪魔だ! あんなヒドイ奴はいない! 今の話を聞いたら分かるだろう!? 私は苦汁を飲んで金を払っていたんだ! 私のアイツを殺した決断が当たり前で正しいと!」

 と無海住教頭はまだ言い足りないとでもいうように暴言を言い放つ。


「私が咲見崎の金を苦労してかき集めている中、どいつもこいつも墨乃地先生、墨乃地先生と寄ってたかってアイツを褒める。墨乃地が死んでもアイツをいい先生だったとみんなが褒めたんだ! 私が咲見崎のせいであんなに苦しんでいたのにも関わらずだ! こんな世の中はおかしいだろう!? 間違ってるのは世間の評価だ! 私の評価がこんなに低いのがおかしいんだ!」


 無海住教頭の発言に誰一人として頷くことはなかった。咲見崎先輩と墨乃地先生の殺害の全てを無海住教頭は話し終えた。


 それを聞き終えた須水根刑事は

「確保だ! 無海住を確保しろ!」

 と叫んだ。


 須水根刑事とその部下、そして白川所長に羽交い絞めされ、力なく項垂れた無海住教頭を見て学校関係者は慌てふためいた。そして墨乃地先生のことを想い出していただろう桧山先生は涙を流していた。


 こうして咲見崎サヤと墨乃地康太郎の連続殺人事件は幕を下ろしたのだった。


 ◇


 3年前のタバコの不始末による火災事故で亡くなったと思われていた墨乃地先生と、今回の咲見崎先輩が溺死した事件は、無海住教頭による連続殺人事件だと判明した。


 その事実がみんなに広まり、そこからは本当に大騒ぎだった。角田校長は責任を取って辞職し、桧山先生も退職した。葉積用務員は謹慎し減給となった。


 角田校長と桧山先生は、今すぐ一緒に住むという訳にはいかないようだが、以前より話をするようになったそうだ。


 そして無海住教頭は逮捕された。裁判官と検事が、しっかりと2人を殺した罪の重さを無海住教頭に教えてくれることだろう。


 僕の探偵としての初仕事はこれで終わった。


 連続殺人事件を解決した僕は転校せずに、セントルミル中等教育学校に残っていた。北倉さんだけでなく、クラスのみんなとも仲良くなった。白川所長の探偵事務所で、僕は相変わらず雑務をしている。


 城鉈先輩と田魅沢先輩の仲は良く、阿武隈先輩も彼女と仲良くしてるらしい。鬼記島先輩は今回の件で父親にめちゃくちゃ怒られたらしく、1人で小さくなっている。手下2人は金の切れ目が縁の切れ目だ、とでもいうかのように従うこともなくなったそうだ。


 そんな日常を送っていた僕に、須水根刑事があるモノを送ってきてくれた。それはどこにでもある授業の内容を書き記した国語のノートのコピーだ。それは墨乃地先生の担当科目でもある。そのノートのコピーには須水根刑事のメモがついていた。


『咲見崎サヤの動機が知りたい、とお前は言ってたらしいな。白川から聞いた。咲見崎の母親が遺品の整理中に偶然みつけて、捜査のヒントになればと思って警察に提出してくれたものだ。見づらいのは大目にみろ。今回の連続殺人事件を解決してくれた、せめてもの礼だ』


 それは授業の内容が書かれたノートのコピーだった。綺麗な文字で書いてあり、先生の説明まで細かく書かれているみたいだ。そこに殴り書きされたかのような違和感がある文字たちを見つける。


 ノートのコピーには、咲見崎サヤという女の子の涙で滲んだ文字の跡があった。墨乃地先生の授業の内容を書いたノートに咲見崎サヤはこう書き綴っていたのだ。

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