Day17「砂浜」

 美術館の展示室にいた筈なのに、わたしは砂浜に立っていた。空はどんよりと重く垂れ込み、目の前には荒々しい波が迫ってきていた。不気味な涼風も駆け抜けていく。


 不吉だ。鳥肌が立った。


 逃げなくてはと思う。このまま立ち尽くしていれば、忽ちあの大波に飲み込まれるだろう。


 でも、わたしの足は砂浜に貼りついたように動かない。

 視線もあの「音のない」波に吸い寄せられたまま。


 逃げられない。どうしたら。


「おい」


 不意に頭上から聞こえてきた声で、わたしはよくやく解放された。


 瞬きを二度三度。


 ああ、ちゃんと美術館にいた。冷房の効きすぎた展示室に。


 そして隣にはいつもの彼。


「見入ってたな」

「そうだね。『魅』入ってたよ」


 この海の絵に。




*彼女が見ている絵は、ギュスターヴ・クールベの「海」をイメージしています

(気になる方は検索してみてください)

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