Day12「門番」

「あの子なら、もう帰ったぞ」


 こちらを直接見ずに彼女は言った。

 呆気に取られて立ち尽くした俺を、彼女はマイペースにノートを書き切るまで一瞥もしなかった。


 流石、彼女の友人である。


「別に彼女に用事があった訳じゃない」

「私にこそ用事はないだろう、あんたは」


 今は空席となった左隣の席を、彼女の指定席を指先でコツコツ叩きながら、彼女はようやく顔を上げた。分厚い眼鏡越しの視線は眠そうなのに鋭い。


「あんたが遊びか本気か判断がつかん。別にあの子に執着しなくても不自由しないだろうに」


 確かにと頷くのは自惚れが過ぎるか。


「俺も知りたいよ」


 この執着が本物か。


「あの子」の門番たる彼女は、そこで初めて意外そうに眉を跳ね上げた。

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