第10話

「コンクウ様、コンクウ様! 服をもらいに行きましょう!」


ある日、わたしはコンクウ様を誘った。

わたしの服もコンクウ様の服も古いものばかり。

そろそろ新しい服が欲しいと思っていたのだ。


「そうだな。今日は来客もないし、二人で行こうか」

「わーい!」


コンクウ様と二人でデートである。

手を繋いで家を出た。

コンクウ様の小さい手はぷにぷにと柔らかい。

一緒に歩いているだけで楽しい。


「ミウは出かけるのが好きだな」

「ええ。コンクウ様と一緒ですから」


そんな幸せな会話をしながらフテミミ様の所へ向かった。

フテミミ様は五尾。

この村で服を作っている。

裁縫のできる偉い人。


「あら、いらっしゃい」


わたしとコンクウ様がフテミミ様の所にたどり着くと、フテミミ様は明るく挨拶をしてくれた。


「フテミミ様、フテミミ様! 服をくださいな」

「どうぞ、そこから良いのを持って行ってちょうだいな」


フテミミ様はテーブルを指示した。

そこには服がずらっと並べてある。

大人用から子供用までいろいろ。

しかし日本の服屋みたいに形や柄がいっぱいあるわけではない。

すべて茶色い服。

すぽっと被れる形。

クルベオ村の服はこれしかない。


「フテミミ様、フテミミ様!」

「どうしたんだい、ミウ様?」

「たまには違う色の服はありませんか?」

「わたしには出来ないね。わたしにできることはもらった布を切ったり縫ったりするだけだから」


そう。

わたしは何年も前から度々お願いしている。

もっと違う服を着てファッションを楽しもうと。

でも、クルベオ村の技術力ではこれが限界である。


「わたしが自分で色を付けようかな?」

「一人だけ違う服でいるのは良くないと思うぞ」


わたしの呟きにコンクウ様が反応する。

そうそう。

クルベオ村の住人は仲間外れを嫌がる。

みんなで同じにすべきものはなるべく同じにする。

みんなが得たものはなるべく平等に分ける。


「わたしの国では、他人と同じ服は着ない方が良かったのですよ」

「それは一体どうしてだい?」

「……あれ? どうしてだろう?」


コンクウ様に訊かれてわたしは困ってしまった。

ファッションって基本的に他人と違う服を着るべきだと思っていたのだけど。

それが共通認識だと思っていたけれど。

コンクウ様にこの感覚を伝えるのは難しいな。


「服なんて着れれば良いだろう?」

「う~ん? どうせ着るなら、良いものを着たいじゃないですか?」

「服に良い悪いがあるのか?」


あぁ、そうか。

クルベオ村の住人は均一のものしか着ない。

フテミミ様のように五尾の人達が作った服しか着ないのである。

そこに美醜があるとは感じていない。


「わたしとしてはコンクウ様にも色んな服を着させて遊びたいのですが」


まるで着せ替え人形。


「そういうものなのか?」

「そういうものなのです」

「うむ?」


コンクウ様はぴんと来ていないようだったけど、わたしは論理的に説得することを諦めた。

いや、待てよ。


「コンクウ様、コンクウ様! これって知恵比べになりませんか?」

「知恵比べのお題にか?」

「ええ。わたしはいつもと違う服が着たいのですが、どうすれば良いでしょう?」

「うむ、うむ……」


コンクウ様は顔に手を当てて考え始めた。

雑談では流されてしまうような話題でも、知恵比べにしてしまえばコンクウ様は真剣に考えてくれる。

わたしが最近見つけたコンクウ様の遊び方である。


「なにやら難しいことを考えているねぇ」


フテミミ様が悩んでいるコンクウ様を見て、くすくす笑っていた。


「フテミミ様も考えてみませんか?」

「いいや。わたしはコンクウ様やミウ様みたいに賢くないからね。考え事をするのは尻尾がたくさんある人の仕事だよ」


クルベオ村の決まりで、尻尾の数によってやれる仕事が決まっている。

九尾のコンクウ様は村のお悩み相談。

四尾のカグツチ様は火の番。

六尾のカナヤゴ様は鍛冶屋。

五尾のフテミミ様は裁縫。

自分の身に余る仕事は絶対にしない。


「考えることって楽しくないですか?」

「それは考える頭があるミウ様の発想だよ。わたし達みたいに考える頭が無い人には出来ない趣味さ」

「そんなものですかね?」

「そんなものさ。わたしなんぞはこうしてみんなの服を作るのが幸せさ」


フテミミ様に諭される。

確かに身の丈に合った幸せを追求するのは大切だ。

その点、知恵比べに付き合ってくれる旦那を持ったわたしは、それだけでも幸せ者だ。


「コンクウ様、良い答えが思いつきますか?」

「難しいなぁ」


違う色の服を着たい。

わたしが初めてコンクウ様に知恵比べを提案したとき、北風と太陽の話をした。

あれは服を脱がせる話だったけれど、今度は服を着る話だ。

コンクウ様はなかなか良い案が出ないようだった。


「フテミミ様の扱える布は一種類しかないですからね。そうすると違う色をつけるのは、なかなか出来そうにないですよね」

「ふむ、こういうのはどうだろうか?」

「おっ、何か良い案がありますか?」

「土で汚せば色が変わると思うんだ」


確かに色は変わるけれども。

そういう服が着たいわけではない。

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