第9話
わたしはコンクウ様に知恵比べを提案した。
「例えばどういったことで知恵比べをするんだい?」
「それは今日、いっぱいお題を考えておきました」
わたしはコンクウ様に紙を見せる。
そこには知恵比べのお題がいくつも書いてある。
「いっぱい考えたんだね」
「ええ。まずはこれをやってみましょう」
わたしは大きなココナッツの実を用意した。
ココナッツの頭頂部には手を入れられるくらいの穴が空いている。
お昼にわたしが空けた穴だ。
「これは?」
「このココナッツの中に、木の実がいくつか入っているの。手を入れてみて」
わたしはココナッツをコンクウ様に差し出す。
コンクウ様はココナッツの中に手を入れる。
「うむ。中に木の実があるな」
「取り出してみてください」
コンクウ様は手を引っ張ろうとした。
ただし、手は抜けなかった。
中の木の実を握ったせいで抜けなくなっている。
「おや、手が抜けないね」
「そうなんです。木の実を握ると、握りこぶしが大きくなってしまいますから」
このココナッツを作るのは大変だった。
穴を空けて中をくり出す。
穴を丁度良い大きさにする。
今日はそんな作業をしていた。
なかなか骨の折れる作業だった。
「ここから木の実を出せば良いのかい?」
「ええ。コンクウ様ならできますよね?」
「うむ……うむ……」
コンクウ様は上を見上げて考え出した。
手はココナッツの中に突っ込んだままである。
中の木の実をじゃらじゃらとかきまわしながら考えている。
おもちゃを構っている子供みたいで可愛い。
「ちなみにわたしはすぐにでも出せますよ」
「……流石だな……」
コンクウ様は褒めてくれた。
ただ、昔、本で読んだことがあるだけだ。
自分で知恵を絞ったわけではない。
「コンクウ様、諦めますか?」
ギブアップを提案してみた。
「いや、こうではないか?」
コンクウ様はひらめくものがあったようだ。
ココナッツから手を抜いた。
そしてココナッツを上に掲げてひっくり返した。
すると中から木の実が落ちてきた。
「正解です!」
わたしは手を叩いて喜んだ。
ココナッツから木の実を取り出すのに手を入れる必要は無い。
ココナッツを持てるのだから、ひっくり返せば木の実は出てくる。
恐らく子供でもたどり着ける逆転の発想。
「なかなか難しかったな」
わたしからすれば簡単なことだけど。
ただ知っていたから簡単に思えるだけかもしれない。
「クルベオ村の人達はこれができますかね?」
わたしはコンクウ様に訊いてみた。
「できると思うぞ。ココナッツを触っていろいろしていたらそのうち思いつける」
「確かに、触っていればいつか分かるかもしれないですね」
ココナッツをあれやこれやしていたら、答えにたどり着けるかもしれない。
ただコンクウ様はココナッツに手を突っ込んだまま、答えを導いた。
そういう点ではすごい。
「しかし、これでは私が一方的に考えただけではないか。これでは知恵比べにならないぞ」
「……そうでした!」
気付かなかった。
これではコンクウ様を一方的に悩ませただけだった。
ココナッツを用意することで頭がいっぱいで、そんなことにまで気が回らなかった。
これでは知恵比べではない。
「ミウも答えが分かっていない問題でないと知恵比べにならないぞ」
「そうですね……」
わたしは紙に書いた知恵比べのお題を眺める。
いくつかお題を用意したけれど、わたしが模範解を用意しているものばかりだ。
わたしがしたいのは知恵比べ。
コンクウ様とあれやこれや議論したいのに、これではできない。
「知恵比べというのなら、こういうお題はどうだろう?」
「えっ? コンクウ様がお題を出すんですか?」
さっき知恵比べの話を始めたばっかりなのに、もうお題を用意できるなんて。
コンクウ様はさっきの木の実を拾って、ココナッツの中に入れ直した。
そして、手頃な葉っぱを拾ってきた。
葉っぱで穴を塞ぐ。
「この葉っぱを取らずに、中の木の実を食べられるか?」
コンクウ様はお題を告げた。
わたしはびっくりした。
ちゃんと知恵比べのお題になっている!
「すごいですね、コンクウ様!」
わたしはコンクウ様の頭を撫でた。
この短時間でちゃんとしたお題が出てくるとは。
コンクウ様は嬉しそうに目を細める。
しかし、すぐに我に返った。
「このお題で知恵比べをしようではないか」
「そうですね」
さてさて。
葉っぱを取らずに木の実を食べる方法か。
どうやって食べようか。
素直に考えるなら、ココナッツの別の場所に穴を空けるかな?
でも結構手間だから、もっと楽な方法を考えたい。
「何か思いつくかい?」
「う~ん。なかなか難しいですね」
いくつか案はあるけれど。
かなり手間がかかっちゃう。
さっきのココナッツみたいに良い感じの逆転の発想がないかな?
「私は一つ思いついたぞ」
「何ですか?」
「ココナッツの横に穴を空ければよい」
わたしと同じことを考えていた。
「それって大変じゃないですか?」
「そうだな。もっと良い答えが欲しいな」
こんな答えなら村人に示せない。
村の住人に「ふたを空けずに木の実を食べたいんです」って相談されたら。
わたしもコンクウ様も、もっと気の利いた答えを返すはず。
「あっ、こういうのはどうですか?」
わたしは閃いた。
ココナッツを持って、葉っぱを手で支える。
「できそうか?」
「ええ。こうして葉っぱを下にします」
わたしはココナッツをひっくり返して持つ。
「ふむ」
「そしてココナッツを取ります」
右手でココナッツを持ち上げる。
すると左手の上に葉っぱと木の実が残った。
「葉っぱが取れているじゃないか」
「葉っぱは取らずにココナッツを取りました」
ただの言葉遊びかもしれない。
「なるほど」
しかしコンクウ様は感心してくれた。
「どうですかね?」
「私はもっと良い方法があるぞ」
「おっ? 閃きましたか」
「ココナッツごと中の木の実も食べるのだ」
とてもワイルドだった。
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