第8話

「コンクウ様、コンクウ様! お知らせしたいことがあります」


その日、男の人がやってきた。

コンクウ様と同じくらいの背丈。

身長100センチ。


「コンクウ様は今はお出かけしています」

「そうですか。それではまた来ます」

「言伝があるならわたしが聞きますよ」

「いえ。コンクウ様に直接お伝えしたいので。また来ます」


そういうと男の人は帰っていった。


「う~ん?」


妙だった。

いつもならコンクウ様を頼りに来た人も、代わりにわたしが要件を聞いていた。

村人もそういうものだと思って、わたしに何でも話してくれる。

それが、コンクウ様に直接言いたいのだという。

今日でそれを言いに来た人が3人目だ。

こんなに立て続けにわたしが断られることがあるだろうか?


最近、妙なことが続いている。

誰かに尾行されるとか。

村人がわたしを頼ってこないとか。


「不思議だなぁ」


わたしは気に止めながらも、特にすることもない。

今日は家でじっとすることになりそうだ。

来客も無いならすることもない。

コンクウ様もお出かけだから、じゃれて遊ぶこともない。


「…………!」


しばらく思想に耽った後、わたしは良いことを思いついた。

こういうときはコンクウ様とあとで何をして遊ぶかを考えよう。

わたしは紙と筆を用意した。

今なら面白いものが作れそうな気がする。


数時間後。


「おかえり」

「ただいま」


コンクウ様が帰ってきた。

今日のお仕事も楽しかったようで、にこにこで帰ってきた。


「今日は何のお仕事をしたんですか?」

「いろいろしたよ。たくさんの人とお話できた」


そうしてコンクウ様は今日あったことをいろいろ語ってくれた。

女の人の悩みを聞いたり、男の子と一緒に遊んだりしたそうだ。


「楽しかったんですね?」

「うむ。楽しかったよ。ミウは今日は何をしていたんだい?」

「コンクウ様を訪ねて来た人が何人かいました」

「おや。何の用だったんだい?」

「それがわたしには教えてくれなかったのです。一体何の用事だったのでしょうね」

「まぁ、また来てくれるさ」

「そうですね」


急ぎの用事なら明日にでもまた来るだろう。


「他には変わったことは無かったかい?」

「変わったことはなかったので、コンクウ様に喜んでもらおうと思いました」

「私に?」

「はい♡」


わたしは紙を取り出した。

昼間のうちに書いたもの。


「何か書いていたのか?」

「はい。わたしの国のお話です」


わたしは紙に書いたお話を読みだした。


「昔々、風の精霊と太陽の精霊がいました。風の精霊と太陽の精霊は力比べをしようとしました」

「ほう。力比べか」

「そこで、通りすがりの旅人の服を脱がせることができるかという勝負をすることにしました」


そう、北風と太陽の話である。

わたしの国のお話ですって語り始めてイソップ物語を話すのはちょっとずるいかもしれない。

でも本筋とは関係ないので細かいことは省かせてもらおう。


「服を脱がせるのが力比べなのか?」


確かに改めて確認すると不思議な力比べだな。

力比べなら、重たい岩を動かすみたいなものになりそうなのに。


「まぁ、深いことは気になさらず。まず風の精霊は、旅人に力いっぱい風を吹きかけました。ものすごい強風で服を飛ばそうとします。でも、旅人は寒さを耐えようと縮こまって、服が飛ばないようにしっかり耐えました」

「そうだな。風が吹いたら服が飛ばないようにするものな」

「次は太陽の精霊の番です。太陽の精霊は旅人に暖かい日差しを照りつけました。すると旅人は暑さに耐え切れず、自分から服を脱いでしまったのです」

「ふむ。ということは力比べは太陽の精霊が勝ちということか?」

「はい。そうです」

「それでは、力比べというより知恵比べではないか?」


コンクウ様は的を捉えたことを言った。


「そうなんです。知恵比べですね」

「お話はこれで終わりか?」

「ええ。物事に対して厳しくするよりも、自発的に行動させる方が良いというお話です」

「なるほど」


コンクウ様は深く感心していた。

クルベオ村にはこういった物語がない。

お母さんが子供に物語を読み聞かせるといった習慣はない。

だからコンクウ様にとっても、初めての体験だ。


「コンクウ様はいつも村人に知恵を貸していますよね。だからこういった話も好きなのではないかと」

「確かに、こういったものは好きだ」


日本で育ったわたしにとっては定番も定番で聞き飽きた話ではある。

でもこうして知らない人に語れるくらいにはちゃんと覚えていて良かった。


「それでですね」

「ふむ?」

「わたしはコンクウ様と知恵比べがしたいのです」


わたしはコンクウ様におねだりした。


「知恵比べとは、さっきの風の精霊と太陽の精霊みたいなことか?」

「はい、そうです。二人で問題を解決する案を出し合うんです」

「私とミウで争う必要があるのかい?」


クルベオ村の人達は争いが嫌いなのだ。


「争いじゃないですよ。二人で良い案を考えるんです。よく村の人達がわたし達に知恵を借りに来るじゃないですか。あれの練習になりますよ?」


そう。

知恵を鍛えるために。

コンクウ様と楽しいおしゃべりをするために。


こうして私たちの知恵比べが始まった。

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