第7話

二尾の女の子はカナヤゴ様の鉄製品に興味を持ったようだ。

ただし鉄の道具は六尾以上の尾数の人しか使ってはいけない。


「カナヤゴ様、カナヤゴ様! 小さい鉄の破片がいくつかありますか?」

「ああ、あるけれど? 何に使うんだい?」

「女の子にプレゼントです」


わたしはカナヤゴ様の作業場にお邪魔した。

そこには失敗した鉄の端材がいっぱいあった。


「ここにあるのは使って良いぞ」

「ありがとうございます」


わたしは手ごろな大きさの鉄片を見つける。

カナヤゴ様に作業台を借りた。

鉄片の端をやすりで綺麗にする。


「何しているの?」


わたしが作業をしていると女の子が覗きに来た。


「これをあなたにプレゼントよ」


わたしはちょうど作業を終えた。

出来たものを女の子にあげる。

小さな鉄の円盤に紐を付けたもの。

とても簡素なペンダント。


「これは何?」


女の子はペンダントを手に取って、いろいろな角度から眺める。


「これはね、首にかける飾りよ」

「これを首にかけるの?」

「そうよ。首にかけておけばいつでも綺麗な鉄が見えるわ」

「あたしが持っていていいの?」

「ええ、大丈夫よ」

「あたし二尾なのに?」

「ええ。鉄の道具は使っちゃいけないけど、鉄の飾りを身に付けちゃいけないことはないわ。服に付いている模様みたいなものだし」


クルベオ村の住人はお洒落に興味がない。

簡単に着られる服以上の装飾をしない。

でも、こういうお洒落があっても良いと思う。


「ありがとう!」


女の子はペンダントを首から下げた。

鉄の模様を眺めながら、ほうほぅと感嘆する。


「あれは、なんだい?」


カナヤゴ様がわたしに聞く。

クルベオ村の住人にペンダントというお洒落アイテムの概念を説明するのは難しい。


「あれでいつでも鉄が見られますよ」

「あの子、六尾じゃないけど良いのかい?」


カナヤゴ様は心配していた。


「大丈夫ですよ。拾った石を首から提げているようなものですし」


石を拾って遊ぶくらい誰でもする。

危ないことなんてない。

この後、女の子がペンダントをして村の友達に自慢して回った。

そうすると他の子供達もペンダントを欲しがって、クルベオ村にペンダントブームが発生した。

このブームによって、カナヤゴ様はペンダントをたくさん作るようになるのだけど、その話はまた先の話。


「では、カナヤゴ様。今日のお礼です」


わたしはカナヤゴ様に焼いた木の実を渡した。

昨日の祭りのために作ったものの余り。


「あら、ありがとうね。ミウ様の料理は美味しくて好きよ」


カナヤゴ様は早速頬張りだした。

うっとりしながら食べていた。


「あなたにもあげるわ。今日、ついてきてくれたお礼よ」

「わぁい!」


女の子も焼いた木の実を食べた。

そして、わたしは女の子と一緒にカナヤゴ様の元から帰ることにした。

女の子はペンダントを眺めてにこにこしながら一緒に歩く。


そういえばなんで女の子についてきてもらったかというと。

昨日、誰か知らない人に尾行されていたかのような気がしたからだった。

今日はそんな気配は無し。


「ねぇねぇ。この周りにわたし達以外の人がいるかしら?」

「この周り? 誰も以内と思うけど?」


わたしは帰路の途中、女の子に訊いてみた。

しかし誰もいない模様。

昨日のはなんだったんだろう。


「それじゃあね。今日はありがとう」


女の子を家まで送る。


「ミウさま、ありがとう。あのね、」

「ん?」

「あたし、ミウさまが好き。いろんなことを教えてくれるし、お料理美味しいし、いろんなものをくれるし」

「そっかそっか。わたしも好きよ」


わたしは女の子の頭を撫でた。

そして女の子を家まで送ってから、わたしは家に帰ってきた。


「ただいま」

「おかえり」


わたしが帰ると、コンクウ様は布団に転がっていた。

記録を書くのに疲れたらしい。

祭りの翌日はたいていこうだ。


「ちゃんと包丁をもらえました」

「それは良かった。次の祭りの時も安心だ」


コンクウ様の声は弱弱しかった。

よっぽどお疲れなのだ。

わたしはコンクウ様の上に覆いかぶさる。


「マッサージしてあげますね♡」


わたしはコンクウ様の腕を握って揉み出した。


「あっ、うん、……うん……」


コンクウ様はマッサージによってとろけるように脱力した。

可愛い。


「今日は頑張ったんですね。筋肉がすごく張ってます」

「うむ。頑張った」

「偉いですね」


わたしはコンクウ様の身体中を握って回る。

コンクウ様の艶やかな毛並みとぷにぷにの肉感を楽しむ。

コンクウ様をマッサージするという名目で自分が楽しんでいる。


「そういえば、今日は大丈夫だったか?」


コンクウ様はわたしにマッサージされながら訊く。


「何がですか?」

「妙な人はいなかったか?」

「ああ。今日は大丈夫でした」


昨日のは何だったんだろう?


「まぁ、しばらくは一人で遠出するのはやめておこうね」

「そうですね」

「あっ、そこ。もうちょっと強くして」

「はい♡」


こんな感じで。

多少の気がかりはありつつ。

クルベオ村での日々は続いていく。

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