第4話

そして現在。

わたしは身長160センチ。

コンクウ様は100センチ。


コンクウ様の仕事は村の住人の話を聞くこと。

わたしはそのお手伝い。


「コンクウさま、コンクウさま! お知恵を貸してください!」


今日は朝一番で男の子がやってきた。


「今、コンクウ様はお出かけしています。わたしで良ければお話を聞きますよ」

「ミウさま、ミウさま! お知恵を貸してください!」


男の子は尻尾を振ってわたしにお願いしてくる。

三尾だ。

普通の住人は二尾か三尾。


「どうしたんですか?」

「俺、一人だけの家を作りたいんです!」

「家を作るのは初めてですか?」

「はい!」

「分かりました。一緒に作りましょうね」


そうと決まれば早速出かけよう。

わたしは家の中から工具箱を手に取る。

必要な道具はこれに入れてある。

そして男の子と手を繋いで出かけた。


クルベオ村の人々は各々が自由に家を作ってそこに住む。

一人で住む場合もあるし、五人で住む場合もある。

それが十日続く場合もあるし、一日で人が入れ替わる場合もある。

気の合った人達で適当に集まって生活する。


ただ傾向があって。

今日来た男の子は10歳くらい。

この年頃の男の子は大概一人で家を持ちたがる。

今まで育ててくれた家族からの独り立ちである。


「こっちです!」


わたしは男の子に手を引かれるままに付いていく。

家を立てる場所に案内してくれる。

その声も足取りも弾んでいる。

今からできる自分の家にわくわくが止まらないようだ。


「ここですか?」

「はい!」


連れてこられたのはかなり拓けた平地。

既にいくつかの家は建っている。

しかしまだまだ土地に余裕はある。


「家の材料は用意できていますか?」

「この家と、あの家は使っていないから壊して良いみたいです!」

「なるほど」


解体からなのね。

二人で家を解体して、作り上げるところまでか。

これは一日仕事になりそう。


家と言っても日本式の立派な家屋ではない。

クルベオ村の家というのは大型のテントみたいなものである。

支柱を立てて、布を張るだけのテント。

大きさは中に住む人数によってまちまち。

ただ日本での生活に馴染みあるわたしにとってはいずれも簡素な家だ。


「では、何からすれば良いですか?」

「そうね。まずは、こっちの家の布を剥がしましょうか」


クルベオ村の住人は記憶力があまりない。

複雑な手順を覚えることが出来ない。

だから、家などを作るときは、こうして記憶力のある人に聞く。

今、この村で家の作り方を覚えているのは、コンクウ様とわたしの二人だけ。

つまり家づくりはコンクウ様とわたしにしかできない大事な仕事だ。


「こうですか?」


男の子は支柱から布を剥がそうと引っ張る。


「あっ、まずはここの紐を切りましょう」


布をくくりつけている紐を切らないといけない。

わたしはナイフを男の子に渡す。

刃物は使ったことがあるようで、要領良く紐を切っていく。


「こんな感じですか?」

「良い感じです! ナイフの扱いが上手ですね」

「ありがとうございます!」


男の子はわたしに褒められると、得意げにナイフを構えて見せた。

可愛いなぁ。

そんなこんなで、使っていない家の解体が終わった。

次は組立である。


「では、支柱を地面に刺しますね」

「はい!」


わたしと男の子は二人で支柱を持つ。


「せーの!」

「うん!」


二人で勢いよく地面に突き刺す。

かなり深くまで刺さった。


「では、これをハンマーで深くまで押し込みます。やってみますか?」

「はい!」


わたしは男の子にハンマーを渡す。

片手用の1キロくらいのハンマー。

男の子はハンマーで支柱をコンコン叩きだした。

最初はまっすぐ叩けず、支柱やハンマーをじっと見ていた。

支柱を撫でたりハンマーをくるくる回したりしていた。

そして次第にこつを掴んだらしく、リズミカルに叩きだした。


そんな様子をわたしは微笑ましく見ていた。

すると、わたしの側に女の人がやってきた。


「ミウさま、ミウさま」

「あら、こんにちは」

「これ、あの子と一緒に食べてください」


そう言って袋を渡された。

中には木の実がたくさん入っていた。


「ありがとうございます」

「では、わたしはこれで」


女の人は、男の子に見つからないようにそそくさと帰っていった。

おそらくこの男の子のお母さんなのだろう。

独り立ちのために何か手伝いたくて、持って来てくれたのだ。


「おーい! ご飯にしましょ」

「食べ物を用意してくれていたんですね。ありがとうございます!」


男の子と二人で美味しいねって言いながら木の実を頬張る。


クルベオ村の家作りには暗黙のルールがあって。

家を作るのはその家に住む人と作り方を教えてくれる人だけ。

その家に住まない人は家づくりを手伝ってはいけないことになっている。

だからどうしても手伝いたい人はこうして、こそっと差し入れをしてくれる。

こうした村の人の気遣いがわたしは大好きなのだ。


「じゃあ、続きをやりましょうか」

「はい!」


わたしが指示を出したり手伝ったりして、男の子は家を組み立てる。

一人用の家だからそんなに大きくする必要は無い。

それでも慣れない作業が多くて手こずることはあった。

しかし男の子は終始楽しそうにわたしの指示で動く。

こうして日暮れ前になんとか完成させることがきた。


「よし、完成ね」

「やりました! ありがとうございます!」


男の子はわたしにお礼を言うと、家の中に入っていった。

天井を見上げて歓声をあげる。

自分の家を感慨深く満喫している。


「さて、帰りますか」


わたしは使った道具を工具箱にしまった。

今日は楽しかったな。


「お帰り」

「ただいま」


家に帰ると、コンクウ様は先に家にいた。


「今日は随分良い笑顔だね」


コンクウ様に指摘される。


「ええ。楽しかったわ」


男の子がずっと楽しそうに家作りをしていたから、こっちまでにっこにこだった。

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