第2話
一度目の人生は特筆することもありません。
日本で普通に産まれ育って、うん。
なんやかんやあって、早くに亡くなってしまいました。
「何か、やり残したことはあるか?」
ここは死後の世界。
神様っぽい人に聞かれました。
次にどんな世界に転生するかの面接を受けていました。
「う~ん?」
やりたいことはいっぱいあったんだけど。
あり過ぎて何から言えば良いか分からない。
「次も人間が良いか?」
わたしが応えあぐねていると別の質問に移った。
「そうですね。人間が良いです」
やりたいことはいっぱいあったので。
「ああ、でも人間で行けるところの空きがないな」
「え?」
そんなアパートを決める時みたいな言われ方する?
「じゃあ、人間っぽいからここに人間として送るわ。他に人間はいないけど、なんとかなるでしょ」
「えっ?」
そんな楽観的な決め方あるの?
「それじゃあ、行ってらっしゃい!」
「もうっ!?」
わたしはあれよあれよという間に転生していた。
気付いたら、村にいた。
村の名前はクルベオ村。
半人半狐が住む村。
わたしはそんな半人半狐の村から人間として産まれてきた。
それはそれは村で大層な騒ぎになったそうだ。
わたしは赤子でその頃の記憶はない。
わたしの最初の記憶は5歳の頃。
わたしは身長100センチ。
コンクウ様は80センチ。
コンクウ様と二人で一緒に河原で遊んでいた時のこと。
「ミウはなんで耳がないんだい?」
「耳はありますわ。コンクウ様みたいに上の方にないだけよ」
わたしは自分の耳に手を当ててひらひらさせる。
堅い感触の耳は触っていても面白くない。
「そのような形の耳で音が聞こえるのか?」
「聞こえるわよ。ちゃんとコンクウ様と会話できているじゃない」
「うむ。確かに」
「コンクウ様の耳は毛がふさふさしていて良いわね」
わたしはコンクウ様の耳をわさわさする。
毛並みの揃った獣耳。
とても良い感触。
「んっ、ああっ……」
「気持ち良いですか?」
「うむ。ミウは撫でるのが上手だな」
撫でられるコンクウ様も気持ちよさそうに脱力していく。
前世の記憶を引き継いだわたしにとって、クルベオ村の半人半狐の住人は全員が愛玩動物みたいなものだった。
みんながみんな可愛くて仕方がない。
こんな可愛いお狐達に囲まれて過ごす日々はとても楽しかった。
しかしその中でもコンクウ様は特別だった。
「コンクウ様は立派な尻尾をしていますよね」
腰から生えた九つの尻尾。
「ああ、この九尾は自慢の尻尾だ。クルベオ村の中で九尾なのは私だけだ」
「尻尾が多いほど立派なんですっけ?」
「そうだ。村の者はほとんどが二尾か三尾だ。しかし私は九尾。村の長になるのための素質が尾にも現れている」
そう。
コンクウ様は村長の子供。
だからずっと様付けで呼んでいる。
クルベオ村の住人は基本的に二尾か三尾。
しかしコンクウ様のように村長の家系だけ九尾なのである。
「とても立派ですよね」
わたしはコンクウ様の尻尾をわしゃわしゃする。
一つ撫でては次の尾へ。
一つ握っては次の尾へ。
九つの尻尾を次から次へ可愛がる。
「ミウは私の尾が好きなのだな」
「ええ。とっても好きです」
「ミウも自分に尻尾があれば良かったのにな」
「無くても良いですよ。こうしてコンクウ様が存分に触らせてくれますから」
「そうか。それなら存分に触るが良い」
こんな感じで、わたしとコンクウ様は幼いころから仲良く一緒に遊んでいた。
村に同じ年頃の子はいなかった。
だから大人の他にはいつも二人だった。
あれは二人が10歳の頃。
わたしは身長120センチ。
コンクウ様は90センチ。
「わたしの方が30センチくらい高いですね」
ある日、並んだコンクウ様にわたしが言った。
「それはどういう意味だ?」
「あっ……」
わたしは失敗したことに気付いた。
「わたしの方がかなり背が高いなってことです」
「ふむ。そうか。そうだな。ミウは背が高くて良いな」
そう、クルベオ村の住人は30センチが長さの量であることが分からない。
30という数もピンとこないし、センチなんて分かるはずもない。
おそらくわたしがどんなに懇切丁寧に説明しても分からないだろう。
1センチがこのくらいで、それが30個あるから、なんていう説明は無意味だ。
「コンクウ様、コンクウ様」
「どうした、ミウよ?」
「ここに二つの袋があります」
わたしは両手に袋を掲げて見せた。
「ふむ」
「この中に、木の実がいくつか入っています。どちらが多いか分かりますか?」
「貸してくれ」
わたしはコンクウ様に二つの袋を渡した。
袋の中には木の実が入っている。
左の袋には12個の木の実。
右の袋には13個の木の実。
わたしにとっては順番に数えればすぐに分かること。
しかしコンクウ様にとっては難問だ。
コンクウ様は10までしか数えられないから。
「出来そうですか?」
「ううむ。少し待ってくれ」
コンクウ様は袋から木の実を入れたり出したりしていた。
いろいろ試行錯誤しているのだろう。
10より大きいから、まともに数えようとしても分からなくなってしまう。
わたしは、そんなコンクウ様を微笑ましく見ていた。
「頑張ってください!」
「む、うむ」
コンクウ様は何回も数えようとしていたがうまくいかない。
やがて、コンクウ様は袋から出した木の実を地面に並べだした。
「おっ!」
「ミウよ。これでどうだ?」
コンクウ様は木の実を地面に並べていった。
左の袋からは12個の木の実の列。
右の袋からは13個の木の実の列。
明らかに右の方が木の実が多いことが分かる。
「答えは?」
「右の袋の方が多い!」
「正解です!」
わたしはコンクウ様の頭を撫でてあげた。
コンクウ様は嬉しそうに頭を撫でられる。
わたしにとってはとっても簡単な問題であるけれど。
クルベオ村でこれができるのはコンクウ様だけである。
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