大公世女ベルナデット

 大公宮へ戻ったベルナデット。

「ベルナデット、お前は次期女大公なのだぞ。自分の立場から逃げ出すことは許されない」

「ベルナデット、周りがどれだけ心配したと思っているの?」

「大公世女殿下、恐れながら申し上げます。貴女は大公世女としての自覚はあるのですか?」

 やはり大公である父オーギュスト、大公妃である母グレース、そして教育係達から叱られてしまうのであった。

「ご心配をおかけして申し訳ございません。ですが、私は大公世女としての覚悟が出来たから戻って来たのでございます」

 ベルナデットは真っ直ぐ前を向き堂々としていた。オーギュスト、グレース、そして教育係達はベルナデットの中で何か変化があったことを感知した。

 それからは、今まで以上に政治、語学の勉強や所作・マナーのレッスンに力を入れた。

「大公世女殿下、今日はここまでで」

「いいえ、あと少しお願いします」

 テオに教えてもらった1.01の法則だ。ベルナデットはいつもよりほんの少し頑張ることを毎日続けていた。

「何か小公女様、変わられましたよね」

「確かにそうね。まだ小公女様って感じではあるけど、次期女大公としての風格が出て来たというか」

 行気見習いに来ているメイド達からもそのような声が聞こえてくる。

 そして半年後。

「ベルナデット、いよいよ明日お前の婚約者との顔合わせだ。この国の大公世女としてくれぐれも粗相のないように」

「かしこまりました、お父様」

 ベルナデットは微笑んで頷いた。サファイアの目は真っ直ぐ前を見据えている。

(私はもう逃げないわ)

 翌日、顔合わせの準備は滞りなく完了した。後は相手を待つだけだ。ベルナデットは落ち着いた様子で座っている。

「ナルフェック王国より、テオドール・ランベール王子殿下が到着いたしました」

 その声と同時に扉が開き、ベルナデットの婚約者が入って来る。

 その姿を見て、ベルナデットはサファイアの目が零れ落ちそうなくらい見開いた。

 黒褐色の髪、ヘーゼルの目、スラリと高い背丈。それは紛れもなくテオだった。

(こんなことって……!?)

 ベルナデットは絶句している。

 一方テオもベルナデットの姿を見ると一瞬固まった。しかしすぐに持ち直してボウ・アンド・スクレープで礼を取る。

「よく来たね、テオドール殿下」

 オーギュストは満足そうな笑みだ。

「大公陛下並びに大公世女殿下にご挨拶申し上げます。テオドール・ランベールでございます」

 テオこと、テオドールはベルナデットに優しげな笑みを向けた。思わず目を逸らしてしまうベルナデット。

 その後、オーギュストが何かを話すが完全に上の空なベルナデットだった。

「では後は2人でよろしく頼む。お互いを知る時間も必要だからな」

 そう言い、オーギュストは部屋を出るのであった。部屋に残されたベルナデットとテオドール。彼らの護衛や侍女もいるが、実質2人きりのようなものだ。

 テオドールはフッと笑い、口を開く。

「まさかあの時のベルが大公世女殿下だったとは驚きだ。あ、ベルナデット大公世女殿下とお呼びした方がいいか」

 クククッと笑うテオドール。

「ベルでいいわ。……テオドール殿下」

 ベルナデットは戸惑っていた。

「それなら、俺もテオと呼んでくれ」

 テオドールはフッと笑う。

「私も驚いているわ。だってテオが私の婚約者だったなんて思いもしなかったもの。だけど……私、また貴方に会いたいと思っていたの。それに……私の婚約者が貴方だと知って……嬉しかったわ。だってあの時私は……テオに惚れていたから」

 ベルナデットは頬を赤らめた。

 テオドールはヘーゼルの目を見開く。

「それは……驚いたな。俺は……まだそういう恋愛感情とかは分からない。だが、君のことは好ましく思っている。俺の婚約者がベルでよかったと思う。実際に婚姻を結ぶまで4年あるが、それまでにもっと君のことを知っていきたいと思っている」

 テオドールは真っ直ぐベルナデットを見ていた。

「ありがとう。嬉しい答えだわ」

 ベルナデットは頬赤らめたまま微笑む。

「それにしても、あの時はテオの養子入り先がまさかナルフェックの王家だとは思わなかったわ」

 街でテオドールと出会った時のことを思い出し、クスクスと楽しそうに笑うベルナデット。

「俺はナルフェックの第2の王家と呼ばれてるメルクール公爵家に生まれた。歴史ある公爵家だけど、そこそこ自由は許されていた。だが王家に養子入りしたら今までのようにはいかない。だから養子入りする前に、いずれ婿入りする国の街を自由に回っておきたいって思ったんだ。それで、ベルと出会った」

 テオドールもクククッと楽しそうに笑う。

「私はあの時、テオのお陰で逃げない覚悟が出来たの。あと少し頑張ることも出来たわ。今の私があるのはテオのお陰よ。本当にありがとう」

 ベルナデットは真っ直ぐテオドールを見つめている。

「ベルの役に立ててよかった」

 テオドールは照れ臭そうに微笑んだ。

「テオ、私と一緒にこの国をいい方向に導いていきましょう」

 ベルナデットはテオドールに手を差し出す。

「ああ、よろしく頼む」

 テオドールは差し出された手を力強く握った。

 そして数年後、現大公オーギュストの生前退位により、ユブルームグレックス大公国初の女大公となったベルナデット。彼女は夫のテオドールと共に国を発展させていくのであった。

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小公女ベルナデットの休日 @ren-lotus

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