第25話 シナリオ

※※※※

 次の日の会社内で、用事があって事務課に来た雪華さんが何やらプリントを数枚持ってやってきた。

「こちらのデータ入力お願いします。あとこっちは、プライベートのやつです」

「はいお預かりします」

 私は、仕事のデータ入力用の資料をうけとったあと、プライベート用、つまり映画計画の資料を受け取った。

「え?これは?」

「美香さんに覚えてもらう、当日のシナリオです。数パターンあるんでちゃんと覚えて下さいね」

「これは……凄いわね」

 細かく書かれた、数パターンに枝分かれしたシナリオに、これを作った彼女に感動してしまった。と同時に大変な事に気付いた。

「これ、夫に見つかると駄目だから、私持って帰れないわよね。会社で全部覚えなきゃだめなのよね」

「そうですね。まあ今繁忙期でもないし、仕事の合間にちょろっと覚えてくださいよ」

「え、ええ〜……できるかしら」

「トイレにも持ち込んで暗記頑張ってください」

「ハード!」

「鈴川さんだって、これ全部覚えるんですから」

 それを言われると弱い。だいたい、これは誰が希望した計画?私じゃない!尻込みしている場合じゃ無かったわね。

「そうよね。わかったわ。頑張る」

「お願いします。最後には臨機応変さが求めれますが、まあ美香さんなら大丈夫です」

 雪華さんはそういうと、事務課を出ていった。

「さて、まずはこれを片付けないと」

 雪華さんから預かった本来の仕事の効率データ入力をさっさと終わらせるべく、私は気合を入れた。


※※※※

 また次の日。

 朝来ると、仕事の合間に広報課へ来るよう指示された付箋が机に貼られていたので、時間を見つけて広報課の鈴川さんの所へ向かった。


「神田さん。お疲れ様です。シナリオの読み込みいかがですか?」

「もう、ギリギリよ」

 わざと疲れた顔をして見せる私に、鈴川さんは本当に心配そうな顔を向けた。

「大丈夫ですか?本当は無理しないでと言いたいのですが……」

「ふふ、大丈夫、平気よ。ところで何の用かしら」

 私がたずねると、慌てたように鈴川さんは机から何やら赤くて小さく折りたたまれたものを取り出した。

「これ、先週イベントで配った会社のノベルティのエコバッグの余りです。結構余らせちゃったみたいで、誰が持っていってもらっても大丈夫なやつなので」

「へえ、これが」

 私はエコバッグを広げて見る。会社のロゴが大きく入っていて、正直ダサい。

「小さめなので、お昼にお弁当持ち運ぶくらいにはちょうどいいですよね?」

「これが当日使う小道具ね」

「ええ、明日渡すタイミング取れないと大変なので、先に渡して置きます。机にでも入れておいてください」

「分かったわ」

 私は頷いてエコバッグをたたむ。

「明日なのね。緊張してきたわ」

「そうですね。私も凄く緊張してきました!」

 鈴川さんは興奮した面持ちで言った。

「成功させましょう!絶対に!」




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