公開日
第11話 前売り券
※※※※
その後、私は雪華さんとうまく一緒に有給を取れる日を調整して、公開二週間後の日に見に行くことに決めた。
色々まだ課題はあるが、そこは少しずつ考えていくことにした。ゆっくりと考えてばかりで動かなかったら、公開終わっちゃいますよーと雪華さんが脅すのだ。
数日が経った。
今日はロードオブレインの公開日だ。
別に今日自分が見に行くわけでもないのに、なぜが私はソワソワしてしまっていた。
朝の通勤時、信号待ちで隣に立っていた女子高生の話が耳に入ってきた。
「ねえ、今日の朝のニュースみた?あんたの好きな良馬くんエンタメコーナー出てたよ」
「マジで?あ、ロードオブレインでしょ?私絶対に見に行くんだ。前売り買ったんだから」
「前売りって、ああ、プロマイドついてるやつだっけ」
プロマイド!?なにそれ!
私は思わず女子高生の方を見た。女子高生達はまったく私には気づいていない。
「そうそう、ランダムで3枚ついてくるやつ。私、超引きが良くてー、ちゃんと良馬くんゲットしたんだー」
「あとの2枚は?」
「なんかよくわからんないキャラ。いる?あげようか?」
「いや、別にいらないけど」
やだ、ちょっと詳しく知りたいんだけど。どんなプロマイド?なんかわからないキャラってどれ?
勿論、急に知らない人が女子高生に話しかけなんてしたら不審者案件だ。
そうこうしているうちに、信号が変わって、女子高生達は元気に走り去ってしまった。
どうしよう。中途半端な情報を与えられて、私は動揺が止まらなかった。
「え?前売り券ですか?」
昼休み、いつものように雪華さんとランチを食べながら、今日の朝の女子高生の話をした。
「そう。でももう公開日になっちゃったから、前売りなんて売ってないわよね……」
「うーん、そうですねえ。てか、前売りの特典って結構発売してすぐに買わないと無くなりますよねー。アイドルの星川良馬が出てるならなおさら。美香さんが映画の事知ったのってつい最近だったし、そのときにはもう特典はなくなってたんじゃないですかねぇ」
「そうよねぇ」
雪華さんの言葉に、私はくったりと頭を垂れた。
「まあ、実際に手に入れたいわけではないのよ。家に置いておけるわけじゃないし。見つかったら燃やされるかもしれないし。ただ、ほら、見たいのよ……見たいだけなのよ!!」
「お、落ち着いてください!」
私の剣幕に、雪華さんが少し引いたようだ。
「まあ、内容見るくらいなら多分ネットとか検索すれば出ますよ。ランダムならSNSで交換希望とか出てるだろうし、フリマサイトとかも見てます?」
「そーいうんじゃないのよねぇ。生で見たいのよ」
私は明後日の方向を見ながらため息をついた。「案外わがままですねえ」と雪華さんは笑った。
「見ます……?」
突然知らない声が聞こえて、私と雪華さんはビクリと飛び上がった。
ふと入口を見ると、とても美人の子が入口からひょっこり顔を出していた。
見たことあるわ、この人。たしか、広報課の、忘れて欲しがってた子、鈴川さんだわ。
鈴川さんは私たちが振り向くと、急におどおどし始めた。
「ご、ごめんなさい。急に声かけて。コンビニから帰ってきたら声が聞こえて……。映画のプロマイドの話をしてたので……あの」
「い、いえこちらこそ、大げさに驚いちゃってごめんね」
私は急に怯えだした鈴川さんに手招きして、椅子を用意した。
「どうぞ、あ、よかったら一緒に食べましょう?」
私の誘いに、鈴川さんはおずおずと入ってきた。
なぜがそれに対して雪華さんはぷくっと頬を膨らませていた。
「私が初めて美香さんと一緒にランチしようって言ったときは迷惑そうな顔してたのに……ズルい」
「ズルいって、そんな事言われても」
私は苦笑した。私は嫉妬深い人に好かれるタイプなのかしら。
「ご、ご迷惑なら、すみません」
鈴川さんが慌てて立ち上がったので、雪華さんの方が逆に焦った。
「すみません、そうじゃないんです!全然迷惑じゃないです!冗談ですよ冗談!」
鈴川さんは、雪華さんに無理矢理椅子に座らされた。
「すみません、私冗談も通じない人で……」
「いや、今のは雪華さんが悪いのよ」
私がそう鈴川さんを慰めると、雪華さんはまたぷくっと頬を膨らませた。私はもう雪華さんを無視することにした。
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