第10話 お仲間ではなかった
※※※※
「へえー、それでデート中断しちゃったんですか」
休み明けの職場で、昼休みいつものように会議室で雪華さんとランチしながら私は話す。
「そうなの。まあ仕事の方はなんとかなったみたいだから」
「大変でしたねー、あ、それで今日のお弁当は何か雰囲気違うんですね?旦那様忙しくて作れなかったんですか」
「ええ。え、なんでわかるの?」
私は自分で作った弁当箱を見ながら困惑して尋ねた。
「そんなに違うかしら?あんまり最近料理させてもらえないから下手くそになってるかも……」
「いや、まあ。なんていうか、卵焼きもなかなか黒めだなぁとは思いまして……」
うう。敦さんに言って、少し料理のリハビリさせてもらおう。甘やかされすぎだわ。今日だって、見つかるとやらなくていいって止められるから、徹夜で敦さんが寝坊しているすきに急いで作ったものだ。
「ところで!どうでしたか?突然の電話の法則とか分かりました?」
「それがねぇ」
私はスマホの着信履歴を見ながらため息をついた。
「ちょっとまだわからないのよね。気まぐれの可能性が高いけど」
「そうですか。まあそれはゆっくり考えて行きましょう。結婚祝いの件は?」
「うん……」
私は財布を出しながら言った。
「他に思いつかないし、雪華さんの案で行こうと思うわ。千円は今から広報課に渡しに行くから、差額二千円、当日か前日まで雪華さんに預けてても大丈夫かしら」
「オッケーですよ!」
雪華さんは私の取り出した二千円を恭しく受け取った。
「雪華さんも結婚祝いだすの?」
「私?出しません。佐藤さん全然知らない人なんで」
「ドライねぇ」
私が言うと、雪華さんは少し不安げな顔をした。
「……やっぱり出したほういいもんなんですか?こういうのって社会人常識的に」
「人それぞれじゃない?ってか、私に社会人常識聞かないでちょうだい。皆が猛烈に忙しくしてる時に残業しないで帰る女よ」
「そうですよね」
否定しないのね。私は苦笑いしながら、いつもより美味しくない弁当をつついた。
私たちは弁当をゆっくりと食べ終えてから、広報課へ結婚祝いを納めに行った。広報課へ向かうと、雪華さんは別な用事があると言って、広報課の奥の方へ話に行ってしまった。
私は広報課入口近くの人に話しかけた。
「佐藤さんの結婚祝い持ってきたんですけど、課長います?」
「ああ、私集計してるのでどうぞ」
広報課の可愛らしい子が、ニッコリと笑って封筒を取り出した。
さすが広報課、美人度レベルが高いわ。
チラリと名札を見ると、「鈴川」と書いてある。
鈴川さんにお金を渡して、名簿に名前と金額を書いた。
名前を書いている間、何だかふと視線を感じた。顔を上げてみると、鈴川さんが何やら言いたそうに口をモゴモゴさせている。
「あのっ……、えっと……可愛いペンですね、それ」
鈴川さんは私の緑色の桜の花弁のペンを指した。
「それって、もしかして……何年か前に、文具会社が南東北地方限定で出した限定ペンですよね。旅行とか行ったんですか?」
「え?ああ、旅行じゃないわ。ネットで買ったの」
突然ペンの種類を言い当てあてられてドキリとした。もしかして文房具マニアとかかしら?
「ネットで、わざわざ?何か理由が?」
「え、ええっと……」
急にそんな事言われて困惑した。一方で鈴川さんは何かに期待しているような目をしている。
「えっと、私も、そのペン何年か前に見たことあって欲しいなあって思ったことがあって……あの、その、緑色の桜って珍しいじゃないですか。で、上の方が緑色の桜で、下の方がシルバーになってるって色合いも珍しくて、そして、『ぴったり』だなぁって思ってて……あれに、ロードオブレイン……」
もしかして。私は何となく鈴川さんの言いたい事がわかった気がしてきた。
そう、私もそう思っていたの。桜の花弁に、下がシルバーってまるで松竜の剣のようだなって。
私がふとそう思ってて鈴川さんを期待に満ちた目で見つめた。
私の目線で、鈴川さんは思い切ったように言った。
「もしかして、お仲間ですか?」
「もしかしたらそうかも」
「もしかして、松×春ですか!?」
「そっ…………っえ?何?マツハル?」
あれ?なんか違うわ。
私の戸惑った顔に気づいたのか、鈴川さんは首をかしげた。
「……あ、もしかして……逆カプ……春×松でしたか……」
「ぎゃく?……ハル……マ?えっと……」
どうしよう。なんか思惑が全然違ったわ。
私が何を言えばいいか困っているのをみて、鈴川さんは急に顔を真っ赤にした。
「ご、ごめんなさい!忘れて下さい!!」
「わかったわ!忘れるわ!」
私は力強く頷いた。
ちょうどその時雪華さんが戻ってきたので、私達は広報課から出ていった。
「さっき、広報課の人と仲良くお話してましたね」
雪華さんが何気なく言うので、私はふっと顔をそらした。
「さあ?何の話をしたんだっけ」
「たった今の事忘れちゃったんですかぁ?」
「ええ。忘れちゃったわ」
私はすっとぼけて言った。
「そういえば、決行日って決めてます?映画見に行く日。もう今週公開じゃないですか」
会社の廊下を歩きながら雪華さんは私にたずねた。そういえばまだ考えてなかったわ。
「別にいつでもいいのだけれど。有給取るわけだから会社の繁忙期は避けたいわね。あと、単に混み合いを避けたいから公開直後じゃないほうがいいかな」
「えー、ネタバレとか気にしないタイプですか?」
「どうやってネタバレを知るの?ネットテレビは制限されてるし、映画の内容おしゃべりするような友達もいないし」
「なんか、悲しい……」
雪華さんは大げさに嘆いてみせた。余計なお世話よ、全く。
「あ、そうだ、雪華さんも一緒に行く?」
何となく誘ってみると、雪華さんはなぜが顔を真っ赤にして立ち止まった。
「や、そんなっ。えっ、私今美香さんに誘われてる……?」
「え?何で照れてるの?」
「や、だって、そんなんじゃないと思ってたから」
雪華さんはなぜが不貞腐れたように下を向いた。
「美香さんと私は、このプロジェクトを成功させるための単なる同僚みたいなものかと。そんな一緒に映画行く仲になっていたとは思ってなくて」
「え?私そんな感じだった?」
私の方が驚いてしまった。私は、もうすっかり雪華さんを友達扱いしていたつもりだった。そんなビジネスライクだったかしら?
「ごめんなさい、私、友達作るの久しぶりすぎて、ちょっと変な感じにさせてたかもしれないわね」
「いいえっ」
雪華さんは首をブンブンと振った。
「ちょっと私の方が変に気を使って勘違いしてただけです。行く!私美香さんと映画行きたいです」
「そう」
雪華さんがとても嬉しそうなので私もとても嬉しかった。
「じゃあ、雪華さんのほうのお仕事忙しい日も避けなきゃね」
「後でスケジュール送ります。あ、ちゃんと旦那様に見られても大丈夫なような感じにして送りますから」
雪華さんはそう言って笑うと、自分の課へ戻っていった。
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