第4話 映画に行きたいの

※※※※

「そんなわけで、私は、夫にはバレないように映画を見に行きたいの」

 明くる日の昼休み。


 約束どおり石川さんは一緒にお昼を食べにコンビニ弁当を持ってやってきた。今日は休憩室ではなく、人があまり来ない会議室でお昼をすることにした。


「え、ごめんなさい。ちょっと私今ドン引きしてます」

 石川さんは、食事の手を止めて言った。

「えっと?神田さんの旦那様が、激烈束縛男で、心激狭オトコなので、神田さんが推しの漫画実写化更に推しのアイドル出演の映画を見にいくのは許して貰えない。だからこっそりいく、ということでオッケーですか?」

「そういうことになるわね。というか、人の夫に対して失礼よ」

 私は石川さんの歯に衣着せぬ言い方に苦笑してしまう。まあ、実際他者から言わせればそうなんだろうけど。

「うーんと、そんな旦那様の事気にしないで行っちゃえばいいんじゃないですか?言うこと聞かないと殴られるとか怒鳴られるとか、そういうんじゃないんですよね?」

「殴られも怒鳴られもしないけど、多分泣かれるわ。あと、束縛が更に強くなる」

「別に泣かれるくらいならいいんじゃないですか?束縛も無視しようと思えば無視できるんじゃ?」

 まあ、何てこと提案してくるのかしら。

「嫌よ。一応私は夫のことが好きなの。好きな人の事、泣かせたくないじゃない」

「……割れ鍋に綴じ蓋……」

 石川さんが呟いたのを私は聞き逃さなかったわよ。お似合い夫婦、って意味だけど、

「ちょっと、他人に使う言葉じゃないわよ」

「失礼しました」

 石川さんはペロリと舌を出した。

「正直、私にはあんまり理解できないですけど、でも、人の人生とやかく言うほど偉くも無いんで。勿論、協力しますよ」

 石川さんはあっさりと言うので、私はホッと胸をなでおろした。

 正直、ドン引きされるのは分かっていた。私達夫婦が普通じゃないのも分かっている。

そんなこと、自分で解決してくれと言われる覚悟もしていた。だから石川さんがそう言ってくれたことは単純に嬉しかった。

「良かった。じゃあプロジェクトについてこれから詰めさせてもらうけども」

「あ、ちょっと待って下さい。一応確認なんですが」

 石川さんは弁当の箸を置いて言った。

「神田さんは実写化賛成派なんですか?」

「うん?」

「あの、結構、実写化発表されたときネットで炎上してましたけど、この映画」

「へえ」

 そうなんだ。

「私、エンタメ情報制限されてたから全然知らなかったわ」

「うわ、制限……」

 石川さんはまた軽く引いている。

「まあ、何ていうか、そんな他の人がどうのこうのだとか、炎上だとかなんて知らないわ。こっちは、ずっと推し断ちしてて空腹状態だったところに、カロリーオーバーなごちそうが来た状態なんだから。とにかく見たい。それだけ」

「やば。何言ってるかよくわかんないけどカッコいい……」

 なぜか石川さんに褒められた。


 






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