第12話 歌は響いて

 やばい。

 そうだよ。葉月は、頑張り屋だ。そして、頑張り過ぎて一周廻って失敗するタイプ。


「どうして練習したんだよ」

「だ、だって……歌が地球を救うなら、練習したほうがいいかと思って……駄目だった?」


 歌下手だからこその奇跡の歌声だったのに……。


「これじゃあ、この音波じゃあ、奴らのバリアは破れない!!」

「困りましたね……さて、どうしましょうか……」


 敵を打ち破る奇跡の歌声は、この地球上から消えてしまった。

 このままでは、異星人に支配されて、地球人はどうなるか分からない。


「どうしよう……高橋……」

「どうって……」


 泣きそうな顔を葉月。

 どうって言われても……

 俺は、考え込む。

 早朝練習をしていた最中に、ラルフが突然やってきて始まった物語。

 こんな終わり方はあんまりだ。


 ――早朝練習?


 そうだ。

 一つ。一つだけ方法がある!!


「は、葉月!! もう一度歌え!!」

「もう一度? でも、前みたいには歌えない……」


 俺は、スマホに録音した音源を再生する。

 再生した音を聞いて、中原とラルフの目つきが変わる!!


「こ、これ……!!」

「そう。練習の時に、ラルフがくる直前に録音したやつ!!」

「でかした! 少年!!」

「ですが、スマホの再生では、弱いです!! 葉月様!! この音で思い出して歌って下さい!! 早く!!」


 すうっと、大きく息を吸い込んで、葉月がもう一度歌い出す。

 ああ! 奇跡の歌声だ。

 デストピア・モルダウは、復活した。

 曇天の下の渦巻く流れ。悲痛な亡者の叫びを感じる。


「いけ!! 『デリシャス・キャロット』!!」


 中原の言葉に合わせて、月の仲間たちが狙いを定めてロケットをぶっ放す。

 真っ赤な円錐型のロケットは、轟音をあげて宇宙船に向けて放たれた。


 葉月の歌が本当に宇宙船のステルス機能を破壊していなければ、宇宙船は無傷のまま。


 俺たちは、緊張した面持ちで画面を見守る。

 歌い続ける葉月。宇宙船に向けられたロケット。宇宙船は、自分達の宇宙船の機能を信じているのか、微動だにしない。


 月の仲間たち、俺たち。皆が祈りを込めて画面を見つめている。


「いけ! いってくれ!!」


 ズガーン!!!


 皆の祈りを乗せたロケットは、異星人ロケットを、木っ端みじんに打ち破った。

 月の仲間、月星人、俺たち。

 皆の口から、歓声がもれる。

 

「や、やった!! 葉月!! すごい!!」


 俺は、つい葉月を抱きしめてしまった。


「あ、う、うん……」


 真っ赤な顔の葉月。

 しまった。

 慌てて俺は、葉月から離れる。


「ご、ごめん。嬉しくてつい……」

「い、いいよ……。それよりも、ありがとう……」

「え……何が?」

「音源……録音してくれてて助かった。もう、とっくの昔に消していると思っていたのに、あんなのとっていたんだね……」

「そ、そりゃ……その……好きな女の子の歌声……消せる訳ないだろう?」


 消え入りそうな声で、俺は正直に自分の気持ちを声に出す。

 恥ずかしすぎる。

 言わない方が良かっただろうか?


「あ、ありがとう……」


 俺よりももっと消え入りそうな声で、葉月がつぶやく。

 

「さあ!! こんな時こそ、ティーパーティですよ!!」


 楽しそうなラルフ。

 ピョンピョン跳ねながら回っている。


 後日。

 ステルス機能が破壊された一瞬で、世界中の施設で宇宙船は観測されて、中原たちが嘘をついていなかったことが証明された。

 中原は、月から帰還した仲間と共に正式に国連の組織として地球防衛隊を結成するべく活躍している。

 ラルフは、月に帰り、地球人と月星人の間の友好的な関係のために尽力しているらしい。月から餅を輸出して、地球から念願のクロテッドクリームや紅茶の輸入ルートを開発したらしい。「まあ、モチつもたれつの関係ですね!!」ラルフ渾身の餅ギャグは、やはり笑えなかった。


 俺たちは、変わらず学校に通っている。

 かくて、普通の生活は取り戻せた。


「おはよ。葉月」

「おはよ……航……」

「なんだよ。まだ慣れないのかよ」

「だって、名前で呼ぶなんて、久しぶりだし……」


 照れながら笑う葉月は、最高に可愛い。


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歌下手な彼女が世界を救うこともある ねこ沢ふたよ @futayo

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