第11話 さあ! 歌え!!

 画面の中には、三名の地球人と、たくさんの月星人が映っている。

 皆で何かを食べて楽しそうにしている。

 何だろう。白くて丸い……餅だ……。


「よかった~!! 餅パ、連日でちょっと飽きて来ていたんだ!!」

「餅、美味いんだけれどもね!!」


 楽しそうな月の仲間たち。

 異星人が攻めてくるというこの状況で餅パーティ? 陽キャの考えることは分からない。


「計画延期になったらどうしようかと……」

「餅だけに、のびるのは困ると?」


 画面の中の月星人たちが、ドッと大笑いしている。

 本当にウケるんだ。餅ギャグ。


「ラルフ王子!! 地球の生活はいかがですか?」


 王子? この空気読まないウサギが?


「うん。まあまあかな。月にクロテッドクリームをたくさんモチ帰れそうだ」

「モチ!! 帰る!! さすがラルフ王子!! ウイットが利いてますな!!」


 ウイットというのだろうか? これが?

 とにかく、月星人は、ラルフの言葉に大笑いしている。

 てか、ラルフ、月の王子だったんだ。

 なるほど、道理で偉そうな態度だ。


「いいから。時間ないんじゃなかったのかよ」

「おっと、そうでございました。葉月お嬢様、さ、こちらへ」


 ラルフが狭い部屋の中で書類の山をかき分けて、葉月を部屋の隅に案内する。

 一段高くなったスペースに、カラオケのような機械。

 ああ、そういえば、ラルフが昔ここはBARだったと言っていたか。

 その面影を今初めて感じた。


「この機械は、カラオケの装置を改造して、このパソコンを通して、宇宙に歌声が届くように仕掛けてある」


 中原が、カラオケのような機械をポンポンと叩いて説明してくれる。

 なるほど。元々建物にあった装置を改良したということか。

 貧乏な地球防衛隊だから、一から開発は出来なかったと……。

 涙ぐましいな。地球を救うという重要案件を扱っているというのに。


「後五分。五分後から歌い出してください」

「ご、五分……?」


 思ったよりも差し迫った状況に、葉月の声が強張る。

 

「ええ。五分です」


 ラルフがすました顔で金時計をポケットから取り出し、確認する。


 五分後、葉月が歌い出し、それに合わせて、月の陽気な仲間たちが、異星人の宇宙船を打ち破るミサイル『デリシャス・キャロット』を撃ち込むのだ。


 時計は、容赦なく時を刻む。

 陽気な月の仲間たちも、ガラリと雰囲気が変わり、真剣な面持ちでミサイル発射の縦鼻を始める。

 中原もパソコンのキーボードを軽快に叩き、葉月の歌を宇宙へ送る準備をする。


 緊張で、葉月の手が震えている。


「……葉月……」


 俺は、葉月の横に立ち、ぎゅっと葉月の手を握る。

 葉月が俺の手を握り返してくる。


 ラルフの合図にしたがって、モルダウの伴奏が流れ始め、葉月が歌い出す。


「ど、どういう事だ、こりゃ……」


 中原が、頭をかかえる。

 パソコンの画面には、この間とは比べ物にならない綺麗な波形が映し出されている。


「う、上手くなっている……」


 澄んだ歌声。

 澄み切ったモルダウの河の流れば、もう一目見たいという切望を感じさせて清く流れる。

 デストピア・モルダウどこいった。

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