第8話 決戦は三日後

 作戦の決行は、三日後。

 仲間の準備、タイミングのシミュレーション、宇宙船の位置。それらが最適なのが、三日後であり、それが唯一のチャンスなのだという。


 三日後にもう一度このガムテープだらけのド貧乏地球防衛隊本部に来て、葉月は歌を歌う。

 葉月が歌を歌い、宇宙船のステルス機能を引っぺがす。

 次に、月に待機している地球防衛隊の仲間たちが、宇宙船を攻撃する。

 月の科学力で開発したミサイル、通称『デリシャス・キャロット』が、宇宙船を破壊する。

 そうすれば、宇宙船は粉々になり、異星人は、思ったよりも抵抗する力のある地球側の防衛力に、侵略を諦めるだろう。


 ……というのが、ラルフたちの考え。


 なにせ異星人たちの星は遠い。

 簡単に支配できる未開の星だと思っているからこそ、遠路はるばる宇宙船を飛ばして来たのに、それが本格的に戦わなければ手に入らなければならない相手なのであれば、侵略をあきらめざるをえない。……というのだ。


 うまくいけばいいのだが……。


 ステルス機能を剥がしたとしても、葉月の歌が終わればすぐに宇宙船は、機能を回復してしまうだろうし、ひょっとしら、葉月の歌を解析して、異星人たちは、葉月の歌が通用しない新たなるステルスを発動してしまうかもしれない。


 だから、作戦は一度きり。

 そして、作戦の成功するチャンスは、ほんの数分。

 

 真面目な葉月の肩にのしかかる責任の重さは半端ない。


「葉月?」


 帰り道、一言もしゃべらない葉月に、俺は声をかけてみる。


「だ、大丈夫よ。私、絶対成功させるから!!」


 声、うわずっているけれど?  

 そりゃそうだよな。いきなり、地球の未来なんて物が自分にのしかかって来れば、緊張しないわけがない。

 なにか、なにか励ましてやりたい……。


「落ち着いて。俺……好きだから!!」


 焦った俺の口から出たとんでもない言葉。

 

「え、ええ?」


 葉月の顔が真っ赤になって、声は、さっきよりも上ずっている。

 ま、まずい!!


「あ、違う。て、違わない。えっと、葉月のあの下手な歌、好きだから!! いつも通りの葉月が歌えば、きっとうまくいくから!!」

「あ……歌……、歌ね。あ、ありがとう……てか、下手?? 今、そんなこと言わないでよ! ひどいな!!」

「だってそうだろ? だから早朝練習までしていたんだから」

「まあ、そうなんだけれども……」


 少しだけれども、葉月の顔に笑顔が戻る。


「葉月……」


 もう少し。もう少し笑わせてやりたい。

 緊張をほぐしてやりたい。

 だけれども、うまく言葉は出てこない。

 こういう時に、ちゃんと気の利いた言葉を贈れたらどんなに良いだろう……。


「お、俺、何にも出来ないけれども……でも、傍にいるから……」


 幼稚園で出会ってから、ずっとそばにいた。

 いつからだろう? 葉月が俺を『航』から『高橋』と呼び方を変えたのは……。

 小学校の時、クラスのやんちゃ連中に「名前で呼び合って夫婦かよ!」って揶揄われてから? 葉月の目が、生徒会長のイケメン男子を追いかけ始めた時から? 

 それでも、俺は、頑なに葉月を『花村』とは呼べなかった。

 葉月との距離が離れてしまうのが嫌だったから……。

 ずっと傍にいて支えてやりたいと思うから。

 ……たとえ、葉月の目がこちらに向かなくても。


 いや、あわよくば、こっちを見て欲しいという邪な本音は、もちろんあるけれど。


「高橋……ありがとう……」


 ニコリと葉月は笑った。

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