第6話 長い長いうさぎの話

 話、長くなるんだ……。

 頭をよぎるのは、校長先生の話。あれを録音して睡眠障害の人に配ったら、きっと良く眠れるのではないだろうか? きっと喜ばれる。そう思えるくらいに抑揚のない言葉の羅列。


 え~。夏季休暇も終わりぃ~、新学期が始まりました~。元気に登校してくる姿をみてぇ~、私も、今学期への意気込みを新たにしました~。今学期には~、運動会~、二年生の修学旅行~、そして三年生の受験準備~、こなさなければならないスケジュールも多くなりますぅ~。一つ一つに真摯に取り組むことで~、事故のないように注意いたしましょう~。ところで~皆さんは~、休み中に、何かチャレンジをいたしましたでしょうか~。先生は~、一年発起して~、書道を始めました~。


 駄目だ。校長先生の話しているのを思い出すだけで、眠たくなる。


「高橋! 人が話そうとしている時に、何うんざりしてるのよ?」


 隣に座る葉月が、俺の袖を引っ張る。


「悪い。苦手なんだよ。長い話……」

「もう!」


 目の前には、優雅にカップを傾けるラルフと地球防衛隊の隊長なのだという中原。


「ことの発端は、この中原が、勤務先であった天文所で観測中に見つけた宇宙船」

「そう。おかしな宇宙船を見つけて、すぐにデータを各国に送ったのに、誰も信じねえ。見間違いではないのか、データの改ざんは良くない。そんな答えしか帰ってこなかった」

「でも、宇宙船は本当にあった。中原は、より遠くの惑星を観測するための新しい手法で観測していたから見つけられたが、それは、世界で唯一の、まだ中原しかやっていない方法。地球上からは、その方法でしか、宇宙船は見つけられなかった」


 ラルフと中原の話。

 中原がどんな画期的な方法で観測したのかは分からないが、それってすごいことではないだろうか?


「月星人である我々は、その宇宙船を見つけましてね。地球人にどう対処するのかを相談にきたのですが……トップと呼ばれる人間達は戸惑うばかり。半信半疑。私を、どこかの軍が開発したAIロボットだと疑う始末。うんざりして、もう地球は見捨てて星へ帰ろうかと思っていたところで、中原と出会いました」

「そう。宇宙船の存在を正しく確認していたのは、月星人達と、俺と、たまたま肉眼で宇宙船をみつけた宇宙飛行士の連中。宇宙飛行士の連中も、国に報告しても、冗談だろう? の一言で一蹴されて困っていたから、俺という存在や、月星人の存在に大いに喜んだ」


 なるほど。まあ……確かに。

 いきなり、宇宙船だ! 異星人だ! と騒いだところで、観測もできない物を信じろって言われても困るのだろう。

 幽霊を見たって騒いでも、信じてもらえないのと似ているかもしれない。


「奴らの科学力は、すごい。宇宙船に特殊な電磁波でコーティングして。高性能のステルス機能を付けている。それがあるから、観測できないし。その上、ミサイルも効かないし、物理攻撃も受け付けない」


 中原が深刻そうに眉間に皺を寄せる。

 そして、ちらりと葉月の方へ、中原が目を向ける。


「月星人が見つけた方法だ。ある特殊な周波数の刺激をその電磁波に加えることで、そのステルス機能を引っぺがすことができる」

「左様。私たち月星人の英知を持って、発見いたしました」


 もしゃもしゃとスコーンを食べるラルフが、そう言って胸を張る。


「まあ、今回の宇宙船の標的は、地球ですし。月としては、新しい地球の住民がどのようになるのかを傍観するのも良かったのですが……。我々月星人としても、困るのですよ。地球が滅ぼされれば。地球の紅茶がなければ、お茶の時間に何を飲めば良いのやら。スコーンには、やはり地球名産のクロテッドクリームが必要でございましょう? 新しい地球人が、紅茶を嗜むかどうか、分かりませんからね」


 ラルフのかかげるスコーンに、こってりとしたクロテッドクリームがトロリとのっかっている。

 いや、知らんて。

 どうでもいい。

 月星人が、地球に加担しようと思った理由は、そんなくだらないことか。


 ……待て。

 ほんの少し前に、もう見捨てて星に帰ろうかとしていたと言っていなかったか?

 良かった。月星人が紅茶好きで。


「葉月の歌が、その周波数に合うと?」

「そう。ありとあらゆる音を聞きましたが、唯一、葉月様の歌が、該当しました」

「私の歌が……」


 葉月が絶句する。


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