第2話 スカウターは兎
ラルフと名乗ったうさぎは、モフモフの手でスッと一枚の紙を渡してくる。
名刺だ。
『ちきゅうぼうえいぐん。スカウト担当 ラルフ・ベンジャミン』
「ちきゅうぼうえ……い?」
「左様。このラルフは、地球を防衛するために必要な人材を探しております」
「どういう?」
「察しが悪いですね。地球を防衛すると申しているのです」
察しが悪いと言われても、困る。
何、この唐突な展開。
俺は、青春恋愛小説の気分でいたのだけれども、どうやら違うらしい。
「えっと、地球防衛軍なんて組織、初めて聞いたのだけれども……」
「お嬢さん、我々は秘密組織ですので」
怪しい、胡散臭い、詐欺じゃない? ていうか、うさぎ? は? 危険な研究か何か?
「葉月、気をつけろ。こいつ何か変だ」
「あなたね。この私のラブリーな見た目にそんなことを!! これ以上ないってくらいに無害そうな草食男子なのに」
草食男子、だろうな。うさぎだもんな。
草食という単語が似合う生き物だ。
だが、草食だからと言って無害とは限らないはずだ。
「まあ、座りましょう。お茶をご用意いたします」
ラルフが、モフモフの手で器用にティーセットを用意し始める。
なるほど、あの大きなトランクは、このティーセットを入れておくためであったか。
手際よく三人分のカップを用意して、ポットから注いでくれたのは、温かい紅茶。
「朝ですから、すっきりとしたオレンジペコーで」
すすめてくれる紅茶はとても香り高くておいしそうだ。
毒入りかもなんて警戒心もゆるんで、紅茶をすすれば、口に広がるスッキリとした味わい。
……くやしいが、すっげぇ美味い。
「地球防衛って一体どういうこと?」
「あ、えっとですね。今地球は、滅亡の危機にございまして」
何を穏やかに物騒な話をしているのか。
「地球に近づく宇宙船が発見されまして」
「何それ、すげえ」
「そう手放しで喜んでいられないんですよ」
「どうして?」
「宇宙船の様子を見に行った宇宙飛行士が、攻撃されまして。それで、戦線布告されたんです」
えっと……それって、大変なことではないだろうか?
こんな穏やかな口調で高校生二人に話す事態ではないのでは?
もっと、各国の偉い人が、Gなんとかとか、サミットなんとか、そんなので緊迫した雰囲気で話し合う事態ではないだろうか?
「で、私共NPO法人地球防衛隊が、その危機の回避を一任されたのです。どこの国もそんな事態の失敗責任は取りたくないですからね。相手は地球に来る科学技術を持った宇宙人ですから。勝ち目は低いですし」
ほ、ほおん。
なるほど……。
各国の投げた匙を、どういう政治的経緯かは分からないが、その得体のしれない謎のNPO法人に押し付けたと。
「私は、作戦に必要な人材のスカウトを一任されています」
「作戦に必要な人材……それが、葉月だっていうのか?」
「左様にございます。お嬢さん……葉月さんの歌声が、私の耳に入りましてね。その歌声の周波数が、とんでもなく作戦にぴったりなんです」
満面の笑みのラルフ。
俺と葉月は、訳が分からないまま顔を見合わせて固まっていた。
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