第22話ー夜空に大輪の花が咲いたー

 ———午後11:57、時計塔


 待ち合わせ場所である時計塔の上に登ってキーユを待つシンシアとフィーゼ。


「…うわぁ、吐く息が真っ白だね、フィーゼ」


「そうだな…」


 月明かりに、2人の息は白く照らされる。この国ではあまり見られない現象であり、その上、こんな時間に外出するのもあまりないのもあって、シンシアは楽しそうにフィーゼに話す。


「ってか、キーユ、まだ来てないみたいなんだが?本当に来るのかよ」


「来るよ!約束したんだから。きっと今向かってらっしゃるんだよ」


 どうだかねぇ…と頭の後ろで手のひらを組み、そっぽを向く従者。


 と、その時、


「…ぁ、12時だ」


 眺めていた懐中時計の針が丁度、長い針と短い針が一つに重なったことを告げるフィーゼ。

 深夜ということもあってか、時計塔の鐘は音が鳴らないようだ。

 シンシアがキーユと約束した時間だ。しかし、当のキーユが現れる気配はどこにもない。

 

「…フィー」


「寒くないか?これも羽織っとけ」


「っ、ありがとう…」


 フィーゼは何か言おうとするシンシアの言葉を遮るように、自分が着ている上着をシンシアの肩にかけてやる。


 フィーゼは寒くないの?と心配そうな主に、当然!と頷く従者。

 お嬢よりも丈夫にできてるからなと得意げな顔を見せる。


「フフッ、そうだね。フィーゼは私たちと違って、から」


 ホッとした顔で主から零れ落ちた言葉に、途端に従者の顔は曇り空だ。


「———っ、その言い方はやめてくれ」


 フィーゼはボソッとそう吐き捨てた。


「ぇ?」


 聞こえるか聞こえないかの大きさだったが、今のこの距離では残念ながら少女には一部始終聞こえてしまった。


 あれ、もしかして怒っ、た?と、シンシアはビクつきながら恐る恐る従者を伺い見る。


 また無意識のうちに何か余計なことを言ってしまったのだろうか———と、不安そうにそのまま目を伏せるのだった。


 その様子に、あ、やってしまったと小さく自分自身にため息をつく従者。


「…ま、貴女の言うことは間違ってはいない。俺はアウスジェルダ冬の精霊だから、こういう気候には強いってだけ」


 と、フィーゼは主に目を合わせないまま慌てて付け加えるのだった。


「そ、そうだね。フィーゼは、モントレー雪国出身だものね」


 少し気まずそうに震えそうな声の少女に、


「あぁ、これくらい余裕だ!」


 と、ニッと笑って応えてやるのだった。


「…。」


(よかった、フィーゼ、笑ってくれてる…)


 その笑顔を見て、シンシアはやっとホッと強張った表情を少し解くのだった。

 それを見たフィーゼも、密かにホッと胸を撫で下ろすのだった。


 それから5分。さらに15分…、30分…。待てど暮らせどキーユが現れることはなかった。それどころか、時間が時間なのもあり、他の誰1人、出歩いている気配もない。


「おい、まだ来ないのかよ。もしかして騙されたんじゃないのか?アイツにとっての社交辞令を間に受けちまったとか」


 いい加減痺れを切らし始めるフィーゼ。


 そう、なのかな…と、いよいよ不安を募らせるシンシア。


「こう言っちゃアレだけど、キーユって相当モテるだろ?」


「まぁ…そりゃ、あのルックスだしね。その上物腰柔らかくてとっても紳士だし、いつも女子に囲まれてはいるけど…」


 改めて、他の貴族たちよりもどこか貴賓に満ち溢れているキーユの姿を思い出して、他の女子生徒同様にシンシアも女の子の顔になる。


 けど、どうしたの?今更そんなこと、とフィーゼの言葉の意味がわからず首をかしげる。



「“ 女の扱いに慣れてる ” ってことだよ」



「———っ?!」


 フィーゼの口から飛び出した言葉にピクッと反応するシンシア。

 

「こう言っちゃなんだが、女を落とす手口なんてああいう奴らはいくらでも持ち合わせて———」



「キーユさんのことそんなふうに言わないで!」



 珍しく声を荒らげるシンシア。普段はあまり見られない光景に、目を丸くしながら思わず一歩たじろぐフィーゼ。


「来るよ、来てくれる。だってキーユさんは、いつどんな時でも、私をもの」


 進学式の時、そのあと成績表を見ていた時、仮面舞踏会の時…。どれほどたくさんの生徒たちがいる中からでも、そのどこか懐かしい優しい声で、私の名前を呼んでくれた。ちゃんと私を見つけ出してくれた。だから———と、服の内側にある笛がある辺りをキュッと握って、今までのキーユとのことを思った。


「…とはいえ、アイツ、大嘘つきだぞ?俺たちに当たり前のように嘘ついてたこと、もぅ忘れたのか?」


 ウソつき…?と、改めて従者の方を見る。

 

「初めて会った時、身分を偽ってたろ?爵位なんて持ってないとか言っときながら、本当はあの大帝国、クロノス帝国の皇太子殿下で…。まぁ、それは、立場が、立場ゆえ、仕方ないことだったんだろうが…。他にもお嬢には言えないこと、しこたま隠し持ってそうじゃねーか」


 彼の意見に肯定も否定もできないシンシア。


 この際なのでゆっくりとキーユのことを思い返してみることにした。…すると、意外と出てくることに気づく。

 

 まぁ、確かに今日だって、常に刺客とかに命を狙われてることを隠されてた。けど、それはきっと皇太子殿下だから。やっぱり、お立場上の問題があるからで…。

 それ以外にも、キーユさんが探しているお嬢様のこと、契約しているエストさんっていう精霊さんのこと…、まだまだ彼に対して腑に落ちないことはいくつもあるけど———と、考えれば考えるほどキーユのことを何も知らないという事実に、シンシアは人知れず肩を落とすのだった。


 そんな中、フィーゼが持つ懐中時計は、約束の時間から既に2時間経った、午前2時を指そうとしていた…。


「お嬢、今日はもぅ帰ろう。これ以上こんな寒い所にいたら、風邪どころじゃすまなくなる」


「フィーゼは先に帰ってて?私はもう少し待ってるから」


「ざっけんな!貴女を置いて帰るなんて、んなことできるか?!それこそ従者の名折れだ」


「今帰ったら、キーユさんとすれ違っちゃうかも知れない。そうなったら悪いし…」


「はぁ…」


 と深い息を吐く従者。


 ったく、頑固な主だこと。アイツのことになるとなんでいつもそんなに必死なんだよ?…いけすかねぇ。と人知れず作ったこぶしをキュッと握る。


 いくら部屋に戻るように促したところで、シンシアは頑なに首を縦に振らず、途方に暮れていた。


 と、その時、



 ヒュー、…ドーンっ‼︎



 と言う大きな爆発音とともに、暗い夜空が昼間のように明るくなったと思えば、そこにはまばゆい大輪の花が咲いていた。


「っ?!っるさ。大丈夫か?お嬢。耳、痛くなかった?」


 フィーゼは咄嗟にシンシアの耳を自分の両手で塞いでやっていた。


「うん、フィーゼが塞いでくれたから平気。ありがとう。

 …まさか、あれが、“ 花火 ” ?!」


「ふぇ?!あれが…?? 照明弾か何かかと思った」


 と、その後も何発か形を変えた花々が、真っ黒な夜空のキャンバスに色とりどりに咲き誇っていく。


「うわぁ、綺麗…」


「これが南の国サリンドラのお遊びか…」


 と、2人でボーッと眺めていた。


 それが一通り終わると下から、


殿〜!!」


 と、シンシアを呼ぶ声が聞こえた。


「っ?」


「何だ?」


 フィーゼは訝しげに辺りを見渡す。


「フィーゼ、降りてみよう」


「あ、あぁ…」


 2人は時計塔の下に降りると、そこには外套に身を包んだエストが1人で立っていた。


「誰だっ?!」


 威嚇するような攻撃的なフィーゼの声にエストも思わず身構える。


 さりげなくフィーゼはシンシアを庇うように彼女の前に出るた。


 彼らのそんな様子を見兼ねてフィーゼの背中越しからひょこっと顔を覗かせて、


 …もしかしてあなたがさん、ですか?と、恐る恐る声をかけるシンシア。


「っ、はい。お初にお目にかかります。クリミナード公女殿下」


 エストは外套のフードをとって、シンシアに深々と頭を下げた。

 彼もキーユの婚約者、シャルロッテと同じく、サリンドラ王国南の国出身で、肌はシャルロッテより少しだけ濃い小麦色をしており、焔の精霊ぺジャンティカが持つ、火色の髪と瞳を持つ少年だ。


「いや、ダレ?」


 と思わずツッコむフィーゼに、


「キーユさんが契約している、を操る従者さん。私で言う、フィーゼみたいな人」


 シンシアはコソッと彼の耳元で答えた。


「…。」


 ふぅん、コイツが。とフィーゼは目の前の彼を要人深く見つめる。

 契約しているということは、からまた、自分と同じく精霊であるということだ。それも、その加護の力は恐らく、ときたか———。


(なるほど、さすが皇子殿下。ちゃんと精霊まで従えていらっしゃったか)


 フィーゼは状況を把握するとともに苦笑いを浮かべた。


「…初めまして。俺はキーファン様の従者、エスト・ジャン・ヴァークレーと申します」


「初めまして。シンシア・ロゼ・ル・クリミナードです」


 と、2人はお互いに丁寧に一礼し合い、


 こっちは我が従者のフィーゼ・セライドですとシンシアが付け加えると、


 どぉも、と、ぶっきらぼうにフィーゼも軽く頭を下げた。


「公女殿下、我が主からの伝言です。


【今宵は一緒に花火を観ることができません】 


 と」


「そう、ですか…」


 シンシアはぎこちなく微笑む。嗚呼、来れないのかと、頭のどこかではわかっていたものの、いざ言葉にして伝えられて、残念そうな表情を浮かべる。


 その瞬間、


「遅いっ!!」


「っ?!」


「フィーゼ…」


 突然声を荒らげるフィーゼに、エストの肩がビクッと跳ねる。


「お前の主は我が主と何時に会う約束をされていた?」


 と腕を組みながら問われ、


 …た、確か、午前0時かと、と、焦り惑いながら返すエストに、


 ハッ、確かって。と、乾いた笑いで吐き捨てるフィーゼ。


 そして、



「…で、今何時だ?」



 と睨み付けながら、喉元に刃を突きつけるがごとく言葉を放った。


「っ、」


 押し黙るエスト。その様子に居た堪れなくなったシンシアは


「フィーゼ、もぅいいから…、」


 と、彼の服の裾をちょんちょんっと小さく引っ張る。


「よくない…、何もよくない!

 お前、帝国の皇子殿下の従者を名乗っておいて、時計の文字盤さえ読めないとか言わないよな?もしや元は武術しか習ってこなかったただの騎士殿か?


 …なら教えてやるよ。午前2時だ」


「っ、」


「フィーゼ、もぅやめて、」


 シンシアはなおも小声でフィーゼを止めるが、彼は聞く耳を持っていなかった。


「さてここで問題だ。お前らはどれくらい、ここで我が主をお待たせしてしまったでしょうか?」


「そ、それは———」


「2時間だ!!…その時間がどれほどの長さかくらいは、いくら頭まで筋肉でできてるお前でもわかるだろう?」


「っ、も、申し訳ございま———」


 フィーゼに凄まれるままに頭を下げるエストだったが、


「お前が謝るのか?」


「え?」


 言い終わる前に遮られてしまった。エストは恐る恐る伺うようにフィーゼを見上げる。


「これほどまでに我が主をお待たせしたんだぞ?それを、従者の謝罪一つですませる気なのかと聞いてる!…ハッ、まったく、それが帝国式の礼儀だというのか?!」


「っ…、」


 そう怒鳴り声を上げたフィーゼ。主に対する非礼な扱いに、フィーゼの我慢も限界に達していた。彼の周りで降る雪、足元に積もる雪が、一瞬にして氷に変わったのを、エストはただただ目を丸くしながら見つめていた。よく見ると、その氷はエストの足元ぎりぎりにまで及ぼうとしており、エストはそっと後ずさる。


「もぅやめなさい!フィーゼ」


「っ、」


 怒りに満ち溢れたフィーゼの感情がそのまま心に流れ込んでくるのか、苦しそうに、しかし懸命に彼を止めるシンシア。そんな彼女に、フィーゼはやっと口を閉じた。


「本当に、申し訳ございません、公女殿下」


「いえ、私は———」


「お前、まだ俺が言いたいことを理解していないようだな。お前の主はどうなすったんだ?っつってんだよ! そんなにがお高いのか?!帝国の皇太子殿下ってお方———」


「フィーゼっ!!」


 頭に血が昇る従者の怒号を懸命に途中で止める主。


「申し訳、ございません…」


 もはやそれしか言いようがなく、頭が上げられないエスト。


「エストさん。ごめんなさい、もう大丈夫です。キーユさんは、貴方の主様は、きっと、体調を崩されたのでしょう?」


「…っ?!」


 フィーゼとは打って変わって落ち着いた穏やかな口調で話すシンシアに、エストは真実を答えられない自分に嫌気が差していた。


「我が主は、…その、今日は、大変申し訳ありませんでしたと、そう、申しておりました」


「分かりました。貴方の主様にはくれぐれもお大事になさってくださいと、そうお伝えください。…あと、姿感謝いたします」


「え?」


 シンシアの言葉に、エストはパッと彼女を仰ぎ見た。


「貴方はあまり、人前に出られるのは得意でないと、貴方の主様から伺っていますので」


「っ?!」


 その言葉に、


 【エストは恥ずかしがり屋さんなのです】


 キーユのそんな言葉を思い出したエスト。


「…。」


(嗚呼、主があんなふざけた紹介するから…。とはいえ感謝するだと?何言ってるんだ?この人…。いくら帝国相手といえど、彼女の従者同様、こんな無礼な扱いにブチギレてもおかしくないのに。お人好しのどが過ぎ過ぎている…)


 エストはシンシアの寛大さに脱帽する。


「公女殿下、一介の従者なんかに感謝だなんて、もったいなきお言葉です。それに、あれは我が主が勝手に申し上げたこと。すぐ誇張して言う癖があるので」


「そうなんですか?…フフッ、でも、お会いできて良かったです。さっきの花火は、貴方が?」


「…はい」


 そう言うと、エストは


 “ パチンっ! ” と一つ指を鳴らした。


 すると、エストの指の隙間からカラフルで小さな花火が一瞬現れ、彼の手元を鮮やかに照らして消えた。


「うわぁっ、凄いっ!!」


「これくらい、大したことありません」


「大したことないならなぜこんなに待たせた?!」


「コラコラ、もう言わないの」


 いまだご立腹のフィーゼを優しく宥めるシンシア。


「…とても綺麗なものを見せていただいて、ありがとうございました。主様にも宜しくお伝えください。…行こう、フィーゼ」


「…ぇ?ぁ、あぁ」


 シンシアはそう言うと、スッとフィーゼの前に出て先に歩き出すのだった。その後を慌ててフィーゼもその後に続くのだった。


「…。」


 深々と頭を下げるエストの横を通り過ぎて、2人は部屋へ戻って行ったのだった。



 ————その頃、キーユの寝室では、



「…っ、」


 ベッドの上、隣りで少し乱れた格好で眠るシャルロッテに、フワッとシーツを掛けてやるキーユ。その寝顔を見ながら、額に張り付いた前髪を丁寧に整えてやる。自分は脱ぎ捨てた寝巻きを羽織り直し、そっとベッドを抜け出して窓辺に立つ。少しだけカーテンを開けて、外の景色に目をやる。


「…お嬢様」


 窓に小さく爪を立ててやるせなく顔を伏せるキーユ。 遠くで、パタンっと、入り口のドアが閉じた音が聞こえて、彼は慌てて寝室を出るのだった。



 —————————————



「エスト、」


「主…? ただいま戻りました」


 キーユは帰ってきたエストを慌てて出迎える。


「おかえりなさい。お嬢さ、…いや、何でもありません。時計塔にはでしたか?」


「…いいえ、いらっしゃいました。」


「は?」


 ゆっくりと落ち着いて言うエストを、キーユは目を丸くして見つめた。


「時計塔には2人。公女殿下が従者を連れて貴方様がお越しになるのを雪が降る寒空の下、ずっと待っておられました」


「そんな…、」


(フィーゼは止めなかったのか?こんな雪の中、さぞ寒かっただろうに…)


 キーユは心の中で呟きながら苦しそうに大きくため息をつく。


「公女殿下に主が来られない旨をお伝えすると、分かりましたと一言仰って、従者を連れて部屋に帰られました」


「そう、ですか…」


(約束の時間は当に過ぎていたのに、待っていてくださったのか…)


 キーユは寝巻きの胸元をギュッと握って項垂れた。


「すみません、君に行かせてしまって。そもそも、僕が言い出したこと。本当は僕がいかなければいけないところを———。きっと、さぞお怒りだったでしょう」


「えぇ。従者には散々いびられました。一体何を考えているのかと。一国の姫君にこのような無礼を働くなど、以ての外。これが帝国の礼の尽くし方か、と」


「フッ彼が言いそうなことだ」


 エストに散々怒鳴りつけるフィーゼの姿が容易に想像できて、苦笑いを浮かべながらそっと息を漏らすキーユ。


「しかしながら、公女殿下は終始穏やかでいらっしゃいました」


「っ…」


「挙句、俺に、とまでおっしゃってくださる始末で、」


「感謝?」


「主、俺のこと、公女殿下に、“ 恥ずかしがり屋 ” だと仰ったでしょう?だから、人前が苦手なのによく伝えに来てくれたと…」


「っ…、フフッ、それで感謝すると?」


 シンシアらしい言葉に、キーユは思わず吹き出す。


「はい。あんなお方、俺、今まで見たことありません。優しく微笑んでくださって…。本当は寒くて辛かったはずなのに…。嫌味のひとつも溢されない」


「…それが出来るのが、お嬢様なのですよ」


「主…?」


 キーユはまるで全てを分かりきっているかのような口ぶりで、だからこそとてもやるせなく切なく呟く。


「ですから、せめてものお詫びにと、だけはお見せいたしました」


「———?」


 エストの言葉に首をかしげるキーユに、エストは


 “パチンっ”


 と、一つ指を鳴らし、先程シンシアとフィーゼに見せたのと同じことをキーユの前でもやって見せた。


「小さい火花が、色とりどりに…、美しいですね。これをお見せしたと?」


「きっと、疑問に思われるでしょうから。なぜ今日、あの時間に花火なんか見られるのかと。公女殿下、コレをご覧になって綺麗だと、仰ってくださいました」


「…そう、ですか」


(はぁ、花火、一緒に見たかったな)


 キーユはその場に行けなかったことを深く残念そうに、心の中で小さく呟くのだった。


「大丈夫ですか?主。顔色が優れないようですが…」


「っ、2時間をお待たせてしまったことを思うと、どうしても…。すみませんが、薬を用意してくれますか?今宵は自力で眠れそうにない」


「…かしこまりました」


 困ったように力無くフワッと笑う主に、エストはそう言って、ケルティの所へ薬をもらいに行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る