第2話「大きな背中を追いかけた」
物心ついた頃から周りの祝福する声と優しさに包まれて生きてきた。
最初は、父があまり家にいないことや遊んでくれない事がとても嫌で寂しくて、泣いてばかりだったと思う。我儘を言って母を困らせた、そんなある日母に連れて行ってもらったのは父が働く防衛隊の施設だった。管制室と呼ばれる場所で防衛隊の為に造られた大きな格納庫には飛行兵器が格納されている。
そのパイロットとして赤いヒーロースーツを身に包んだ父の姿に、幼いヒカルは心を奪われた。それからはよく母に強請って、連れて来てもらったのだ。
そんなある日、同じくヒーローの家系である
在りし日の自分のように泣きはらした顔で、母親に抱かれて現れたライトはブルーの姿を見つけ走っていく。
父さんと呼んだ声に、レッドの隣で機体の点検作業をしていたブルーは振り向き飛び付いてきた子供を抱き留めた。
その時にレッドも自身の子供に気付き、名を呼ばれヒカルも父の腕の中に飛び込んだ。そして二人はそこで初めてお互いを知るのだった。
「レッド!」
「行くぜ、ブルー!」
阿吽の呼吸とまで言われるくらいの信頼関係を築き上げた二人は、父親から受け継いだ赤と青のヒーロースーツを身に着け、戦火を駆ける。
若き二人の戦士は瞬く間に有名になり多くのメディアで取り上げられた。
誇り高いレッド、ブルーの意志を繋ぐ希望の炎は一層勢いを増していく。
それが今、仲間が増えた。ピンクとブラックだ。二人は大いに喜んだ。
新生ヒーローチームには誰にも消すことが出来ない四つの炎が誕生したのだ。
―あの日が来るまでは、絶対に消えることが無いとまで言われた炎は意図も容易く奪われた。
それは、とてもよく晴れた日だった。四月、出会いと別れの季節と言われるそんな日々の中で、宇宙から一つの熱源反応と共に現れた異星人は体が鉱石のような煌めきを宿していた。まるで機械人形のような動きをしたその存在の言葉がテレパシーのように頭に直接流れてくる。
ギギ、ギギと何かがぶつかり合う摩擦音に似た音が、技術班が用意したヒーロー形態装備のヘッド越しでも伝わる異音に、眩暈を覚えつつも四人はその人物と対話を試みる。
「なんだ?」
「■■■■■■■」
「気を付けて!」
握りしめた掌をしてに向け、鉱石のような物体を地面に落とした。それは固形物から液体へと変化し、雨粒のように浸み込んでいく。その様子を目にした瞬間、地面が割れ輝きを宿した光が発せられる。
ブラックを庇ったピンクが地面に転がる。
「ピンク!」
「何とも…ない…?」
「心配シナクテモイイ。コレハ、御挨拶トイウモノダ」
「…御挨拶?」
「ソウ。貴方タちが、無駄な抵抗をしなければ…ね」
片言な言葉から徐々にはっきりとした言葉に代わり、不気味な笑顔で閃光のように放つ光と共に突如現れたのは石固まりのようで獰猛な獣の形をした怪物だった。
咄嗟に三人を守るようにレッドが前に出る、振り翳す剣に纏う赤い炎が怪獣を真っ二つに切り伏せる。
奇怪な悲鳴と共に崩れ落ち、地に落ちる前に四散したそれは石の粉のようだった。
「ほう。やりますね」
「このっ!」
「ふふ。代替わりをしたと聞きましたが、中々に良い炎ですね。四つの炎、実に素晴らしい…私のコレクションにしたいものです…」
「何を―ッ」
石のような顔をしていた異形の来訪者は、いつの間にか人間と同じ顔をしていた。
一瞬の油断に、振り下ろされた踵がレッドを地に叩き伏せる。
次の攻撃を繰り出す前に、ブルーが応戦する。
剣と異星人の腕はぶつかり合い鈍い音が響く。
「さて、と。今回はこのくらいにしておきましょう」
「逃げるんですか…」
「おや?私は言いましたよ。今日は挨拶に来たと」
「挨拶?宣戦布告の間違いでしょう」
「そう取って頂いても構いませんよ。地球人は血の気が多いと聞きますが、本当にそうだとはいやはや、これは期待が出来そうだ」
ブルーの追撃を掌で受け止め、異星人は続けた。
揺れる剣先とは裏腹に、異星人は余裕そうだ。
「私に構っている場合ではありませんよ。私は今日挨拶に来たのです、全ての地球人にね」
その言葉に、背後を振り向くと。今まさに目覚めたような怪物たちが人間を街を襲っている。
ブルーは剣を振り払い、地を駆ける。先を走る赤い背中は既に戦闘を始めているその背に追いつくように。
その時、ブルーの腕を異星人が掴んだ。
「あ、そうでした。一つ、言い忘れていました。質問があるのですが」
「なっ」
「大きな脅威の前に、人々は一致団結すれば確かに強いですよねぇ」
「何です急に、戦う気がない癖に!」
「確かに私にはその気がありません。ですが、気になるのです人間がどれほど愚かなものなのか」
「……」
「その強い壁を崩すのに長けているのは何だと思いますか?」
「はい?そんなことを聞いて何になると―」
「ですから、人間の絆の力は強いと聞きます。その絆を壊すにはどうしたらいいのでしょう」
「僕からその答えが返ってくるとでも?」
「いいえ、思いません。ですが貴方は知っているのか、そうお聞きしています」
「絶対に絆が壊れることはない。お互いの信頼があってこそだそれに気持ちが一つだからこその絆だと僕は思います」
その言葉に、異星人は笑った。
そしてブルーの手を離すと、被っていた帽子を取り頭を下げた。
「面白い…。実に面白い発想だと思いますよ、その調子で頑張ってください。皆のヒーローさん」
「?何のつもりですか、貴方は…一体」
「おや?申し上げておりませんでしたね。私、エメラルドと申します。以後お見知りおきを、青き炎のブルー」
「……」
「行かなくてよろしいのですか?」
「貴方が引き留めたんだろう…!」
「おおっとそうでした!では邪魔にならないようにしますので、どうぞ存分に暴れてくださいまし」
「あ、ちょっ!!」
崩れる背景に、ブルーは空を掴む。
瞬間移動した異星人エメラルドは、空中から陸を見下ろす。視界に映るのは民間人を守るために身を挺して戦うヒーローたちの姿だ。
クツクツと込み上げる笑いが止まらない。
「あぁパーパよ。私はこれを無くすには惜しいと思います。何せこんなにも容易い命がありましょうか!仲間を信じて疑わず、それを絶対だと言うのです!絶対などという安易な言葉に、私エメラルド感動いたしました!惜しいのです…だから私はこれを壊すのではなく手に入れようと思います…」
空が裂け、鳥を模した石の怪物は咆哮を放つ。
「外側が無理なのであれば内側から壊すのですよ…人間は、心の繋がりをより深く求めるのですから…」
その日、ヒーローたちの活躍により謎の怪物たちの進行は防がれ、被害は最小限に抑えられた。謎の異星人の正体に関してはいまだ発表されていない。
それはいつの日か始まりの日と呼ばれるようになった。この日を境に、街には大小さまざまな怪物たちが、地中から空からやってくるようになったのだ。
その怪物たちの生態を明らかにするために、技術班はその成分を用いてヒーローの形態装備をより強化させた。
元より、鉱石を嵌めたブレスタイプの物を各々が好きにカスタマイズし、チャームにしたりブレスにしたりベルトタイプで身に付けたりしている。
この鉱石たちはまるで生きているように人を選ぶ、心の本質を見抜くのだ。
それを防衛隊は炎と呼ぶ。心の消えない強い想いの炎。
レッドはルビー。ブルーはアイオライト。ピンクはピンクスピネル。ブラックはヘマタイトという風に各々の鉱石を持っている。
試験では、そのブレスを使って変身ができるかどうかのテストが行われる。
そして最終試験に合格した者のみがヒーロー部隊に入隊できるのだ。
国の防衛の為、精鋭たちが集うそれがヒーロー部隊だ。
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