英雄の断罪

獅子島 こた

第1話「貴方の幸せを願います」

 産まれた時から人生の選択肢は決まっていて、そうなる者として育てられた。そのことに対して、拒むことも悩むこともしなかった。目の前にあった背中は何時だって大きくて広くて、その格好良さ、強さに憧れた。だから二人揃って国を守るヒーローになれた時心の底から、喜んだのだ。

 憧れる色は違えど道は同じだった―はずだった。


「ライト!!」

「ヒカル。僕らは一体誰の為にこの仕事をしているんだろう」

「…何言って…、そんなの皆の為に決まっているだろう!」

「そうだね、きっと彼らは不安もなく安心して救われるさ、それを当たり前だとそう信じて今もただ待っているんだろうね」


 彼の体から放つ光は、本来の輝きを失って青い炎に泥が混ざって、暗い闇の色を纏い始める。それに呼応するように背後の景色がひび割れ崩れていく。

 街は彼が呼び出した地球外生命体の怪物によって破壊を繰り返している。聞こえてくるのは、怒号と悲鳴。危険を報せるサイレン音は止むことを知らない。

 仲間は傷ついて動けない。そして、何よりも信用していた相棒とも言える存在である人物がいま目の前で闇を背負ったような冷たい瞳で見つめてくる。

 その目で見つめられるだけで、心が体が冷えていく。

 赤と青。

 互いを包んだ、その色が相対する日が来るとはヒカルには想像もつかなかった。


「その為に、守るために!救うために俺たちがいるんだ、何が違うって言うんだ!」

「じゃあ、僕らのことは一体誰が守ってくれるって言うんだ。皆僕らが助けてくれることを当然のことだと思っている。でも僕らは?誰が守ってくれる?」

「何言って…俺にはお前が言っている意味が分からない」

「ヒカル、僕は、僕にはもう、キミの炎が見えないよ」


 その言葉の後、大きな手がライトを包んで消えていく。

 その背を掴もうにも、ヒカルの手は空を切って体は真っ逆さまに落ちていく。

 呆然とした絶望感と共に消えていく炎の気配にヒカルは抗えなかった。


 防衛部隊と、ヒーロー達による攻防戦は朝方まで続き全ての熱が静まった時、多くの被害者を出し、その戦火は幕を閉じた。

 その中には、青い炎を宿していたヒーローの名もあった。

 そして、報じられた報道にヒーロー部隊は口を閉ざすことしか出来なかった。


『レッドとブルーの対立。勝者はブルーか、戦場には闇に消えるブルーに成す統べなく崩れ落ちるレッドの姿』


 という大きな報道の見出しと写真に、防衛隊施設には気まずい空気と覇気のないレッドの姿と同じ内容の見出しが書かれた新聞を破り捨てるピンクの姿に職員と隊員達も黙り込む。その姿を只黙って見つめるブラックの手は拳が握られ微かに震えていた。

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