第11話 ゲーム攻略がややこしい!
「お、来たね日比谷くん! 聞いてよ!!」
教室へ入ると、俺に気付いた大滝さんがすぐに駆け寄ってくる。
手にはスマホを手にしており、その画面には例のゲーム画面が映っている。
きっと、俺とゲームの話がしたくて待ってくれていたのだろう。
「お、ちゃんとやってくれてるんだね」
「もちろん! でさ、早速だけどここのボスがどうしても倒せなくてさ」
大滝さんは、普通に友達として俺にゲームの攻略方法を聞きにきただけ。
そんな、ごく自然な友達としての距離感が俺は嬉しかった。
「あー、ここのボスは結構キツいよね。ちょっとキャラが不足してるかも」
「なるほど、奥が深いのね……」
俺のアドバイスに、ふむふむと頷く大滝さん。
結構マニアックな話題なだけに、それが伝わるのが俺も嬉しい。
黙っていれば物凄い美少女なのに、スマホのゲームに夢中過ぎるのがちょっとギャップというか面白い部分ではあるけれど、これがきっと大滝さんの素なのだ。
こうして俺は、大滝さんと共通の趣味で会話に花が咲く。
翔太狙いの木島さんや優とは違い、大滝さんだけは純粋にゲーム友達。
そんな何事もない距離感が丁度いいのだ。
しかし、そんな丁度いい時間にはすぐに終わりが訪れる――。
「二人で何話してるのー?」
同じくスマホを手にしながら、声をかけてきたのは木島さん。
その表情にはニッコリとした笑みが浮かんでいるけれど、それが作り物の笑みであることは一目で分かる。
何か裏には、黒いオーラのようなものが感じられるのはきっと気のせいではないだろう……。
「ああ、木島さん。日比谷くんにゲームの攻略を聞いてるの」
「へー、そうなんだー」
「そうなの。だから悪いんだけれど、木島さんには退屈な会話だと思う」
棒読みで返事をする木島さんに対し、申し訳なさそうに説明をする大滝さん。
それが素で言っていることは見ていれば分かるのだが、捉えようによっては煽りに聞こえなくもなく、木島さんの張り付いた笑みは更に硬直を見せる。
「うん、無理ー」
「だろうね、ごめんね」
「ていうかそれ、わたしもやってるしー」
謝る大滝さんに、木島さんは少し誇らしげに自分のスマホの画面を見せる。
その画面には、たしかに同じゲームのタイトル画面。
昨日の晩、俺は言われるがまま木島さんにも同じゲームを教えたのだ。
だから、こうしてちゃんとインストールしておいてくれたのは嬉しいのだが、タイトル画面の下部にはデータダウンロードの表示……。
それはどう考えても、初回起動時のダウンロード。
つまり木島さんは、今初めてゲームを起動したということになる。
「わたしにも、ゲーム教えてくれるって言ったよね?」
「いや、でもそれ、まだダウンロード……」
「なに? これじゃダメなの? もしかして差別?」
謎の圧とともに、張り付いた笑みをグイッと近付けてくる木島さん。
美少女の作り笑いが、こうも恐ろしいとは……。
しかし、本当に教えようにもダウンロードが終わっていないのだから、無理なものは無理なのだ。
どうしたものかと困っていると、今度は大滝さんが急に笑い出す。
「あははは! 木島さん、まだダウンロードが終わってないんじゃ無理だよ!」
おかしそうに、ザ・正論とともに腹を抱えて笑う大滝さん。
これまでのクールな印象はどこへやら、木島さんに向かって大笑いする。
その結果、木島さんも笑われるのは気に食わないのだろう。
張り付いた笑みを飛び越えて、その表情には不快の色がにじみ出てきてしまう。
「ええっと、そんなに笑わなくてもよくない?」
「でも、それじゃ何も、あはは! ダメ、ツボに入っちゃった! 苦しい!」
俺的にも、そんなに大笑いすることだろうかと思うのだが、何かが大滝さんのツボを強く刺激したようだ。
しかし、木島さんは露骨に不愉快そうにしているのだから、もうちょっとこう、大滝さんも空気を読むというか……。
「……絶対、ゲームで勝ってやるから」
結果、木島さんのどす黒い本音が口から漏れ出てしまうのであった。
こうして今日も朝から、俺は同じクラスの美少女達に振り回されるのであった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます