48話:歓迎 ~ ワザとなのか? ~

 彩人あやとの額がうずき、彼が僅かな痛みを覚えたことは周囲の誰も気付いていない。

 テーブルの上に現れた真っ黒な人影――魂魄こんぱくの登場に、いちご兎衣うい、エリスの3人が跳ねる様に驚く。


「「「ひぃっ!?」」」


 あまりに距離が近く、油断していた為に誰も立ち上がることが出来ない。

 その場で完全に固まり、3人は引き攣った顔のまま言葉を失っているが、彩人あやとと世話係:ビクトリアは別。


「おー、噂をすれば何とやらだな。まさか向こうから現れてくれるとは」


「ですね。まぁ言っても、そもそもこのログハウスに我々がお邪魔している形なので、向こうからしてみれば我々が勝手に現れた訳ですが……いえ、既に物件を購入した以上、やはり我々はお邪魔された側かも知れません」


 いきなりの魂魄こんぱくを前に二人も驚きはするものの、恐怖で動けなくなるような事態にはならない。

 そもそも相手が幽霊ではなく、まだ生きている人間の魂である可能性が高いというのも1つの要因だが、ともあれ。


 先ほどうずいた額のことも忘れ、彩人あやと魂魄こんぱくの動向に注目するも、魂魄こんぱくはテーブルの上に佇んだままユラユラと漂っているだけ。

 何をするでもなくこの場から離れず、黒い人影を5人の視線に晒し続けている。


「一体何だ? 何をするでもなく、かと言って消え去るでもなくこの場に居るが……何か伝えたいことでもあるのか?」


「その可能性は無きにしも在らずですが、しかしながら先程も申し上げた通りです。魂魄こんぱくとのコミュニケーションは前例がありません」


「だとしても、試してみないことには始まらない。――なぁ、俺達に何か用か?」


 魂魄こんぱくに向かって話しかけてみる彩人あやと

 人型とはいえ真っ黒い影の姿で、加えて陽炎の様にユラユラと揺れ動いている為、どちらを向いているのか、こちらが見えているのかもわからない。

 反応らしい反応も無く、この数秒間の沈黙で「はッ!?」とエリスが我に返る。


「な、何してるッ、早く逃げるのだ!!」

「そ、そうだよ彩人あやと君ッ、早く逃げよう」といちごが賛同。

 これに兎衣ういが続くかと思われたが、しかし彼女は恐怖の中にも小さな勇気を持って言葉を紡ぐ。


「待って二人共。もし本当に、この黒い人影が魂魄こんぱくと言われる存在で、異世界に身体を飛ばされた人の魂だったら……幽霊みたいに怖がるのはちょっと可哀想かも知れない。もしボクがこんな風になって、今のエリスみたいに怖がられたら寂しいし」


「それは……確かにそうかも知れませんが……」


 反論、とも違う。

 何か言い返そうとして、だけど返しが思いつかず、エリスはグッと両拳を握る。

 

「――わかりました。ウイ姉様ねえさまがそう仰るなら、アタシも怖がることはしません」


「とか言いつつ、ボクの膝に乗って来るのはどういう理由?」


「コレはただのスキンシップです。決して魂魄こんぱくを恐れている訳ではありません」


「なるほど。そういうことにしておこうか」


 膝に乗り、兎衣ういの胸にエリスが顔を埋めることで二人の会話は決着。

 逆に一人残されたのは、エリスと共に逃げようと提案したいちごだったが、この状況で自分一人逃げるのはある意味で勇気がいるだろう。

 空気を読んで逃げるのは諦め、代わりに彩人あやとの膝を見詰めて、しかしエリスの真似をするのは流石に恥ずかしかったらしい。

 座っていた椅子を彩人あやとに近付け、肩を寄せて、彼の腕をギュッと抱き締めるに留まった。


「さぁ彩人あやと君、続きをどうぞ」


「お、おう……(普通に“胸が当たってる”んだが、ワザとか? ワザとなのか?)」


 彩人あやと的には歓迎ウェルカムなので振る解くことはしないが、兎衣ういの視線がちょっと痛い。

 ただ、それを差し置いても無視出来ないのは目の前の魂魄こんぱく

 今のやり取りの間も変わらず目の前に漂い続けており、森のやしろで遭遇した時みたいに、すぐさま消える事態にはなっていない。


(これだけ消えないってことは、やっぱり何か俺達に用があると考えていいのか? ……わからん)


 考えてもわからないことは、実践あるのみ。

 オホンッと1つ咳ばらいを入れ、それから彩人あやと魂魄こんぱくを凝視する。



 ――――――――――――――――



 ~ チャレンジ一人目:彩人あやと ~


「え~っと、とりあえず自己紹介しておくか。俺は赤羽あかばね彩人あやと、高校生だ。キミは『鬼ケ原おにがはらオリアナ』か?」


『………………』


「言葉が出せないなら、何か動きで意思表示できるか? 俺の言葉が聞こえてるなら、一回その場でジャンプしてみてくれ」


『………………』


「何も反応が無いのは、俺の言葉が聞こえてないってことか? それとも言語的に認識出来ないのか?」


『………………』


「駄目だな。次、ビクトリアさん頼む」


「えっ、私もですか?」


「こういうのは個人差があるかも知れないだろ? ほら、霊感があるとか無いとか人によるって言うし。せっかくの機会なんだから出来ることは試しておこうぜ」


「ふむ、それもそうですね。望みは限りなく薄いですが、万が一コミュニケーションに成功したら、異世界庁にもっと大きな顔が出来ます。使える権限を今以上に増やして貰いましょう」


 下心を隠さない世話係:ビクトリアが、彩人あやとに続けて魂魄こんぱくとの会話を試みる。



 ――――――――――――――――



 ~ チャレンジ二人目:ビクトリア ~


「Hallo(こんにちは). I am Victoria(私はビクトリアよ). And you are?(アナタは)?」


「何で英語なんだよ?」とは彩人あやとの突っ込みだが、彼女はさも当然とこう答える。


「何故って、オリアナさんのご両親は英語圏の方ですよ。今は日本在住で日本語も堪能らしいですけど、10年前は家の中で英語を使っていた可能性もありますし」


「そういう情報は先に言ってくれよ……」


 彩人あやとのみならず他の女性陣も呆れ顔だが、何にせよ魂魄こんぱくに反応らしい反応は無い。

 最早反応しないことが一種の反応なのではないかと、そんな言葉遊びの様な気持ちを抱いてしまうレベルだ。


「どうやら私も駄目そうですね。“開門かいもん”に巻き込まれた兎衣うい様ならどうでしょうか?」



 ――――――――――――――――



 ~ チャレンジ三人目:兎衣うい ~


「こ、こんにちは。ボクの声って聞こえてるかな?」


『………………』


開門かいもんに巻き込まれた者同士、波長が合って会話が出来るとと嬉しいなぁとか思うんだけど……」


『………………』


 これまた反応は無し。

 続けて流れ作業の如く、ダークエルフの少女に順番が回る。



 ――――――――――――――――



 ~ チャレンジ四人目:エリス ~


「おいッ、そこの魂魄こんぱく!! よくもアタシを怖がらせてくれたな!! 貴様のせいでアタシは昨日の夜に――いやッ、何でもない!! ウイ姉様ねえさまッ、何でもないですからね!?」


「ん?」と首を捻る兎衣うい

 彼女の膝の上で、怖さよりも怒りが勝って来たエリスは更に声を張り上げる。


「そんなことより貴様ッ、ウイ姉様ねえさまが話しかけていたというのに無視するとは何事だ!? ウイ姉様ねえさまが話しかけたら、秒で『はい』か『イエッサー』で答えるのだ!! そもそも貴様の様なやからがウイ姉様ねえさまに近づくなど笑止千万ッ、今すぐここから立ち去るがいい!!」


「いや、立ち去らせたら駄目だから」


 兎衣ういが冷静な訂正を入れて、エリスのチャレンジも失敗に終わった。

 そして、最後に残ったは“一番可能性が低かった”犬神いぬがみいちご


 唯一の男性である彩人あやとが駄目で、英語で話しかけたビクトリアも駄目。

 開門かいもん経験者の兎衣ういも、そして異世界人のエリスも駄目だったところに、コレといったアピールポイント(?)が無いいちごが参戦。

 ここまでの流れからも「どうせ駄目だろう」という空気が流れていたところに、まさかの結果が生じる事となる。



 ――――――――――――――――



 ~ チャレンジ五人目:いちご ~


「あの~、私の声って聞こえます? 聞こえないですよね? ……いやまぁ、そうだと思ってましたけど」


『………………』


 残念ながらいちごも失敗か。

 諦めムードが漂うも、それも致し方ないこと。

 異世界庁が10年成果を上げられない事柄が、昨日の今日でそう上手く行く筈が無いのだ――と、彩人あやとが心の中で諦めた時だった。



『……マミー?』



「ッ!?」


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。

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🍓【ロリ巨乳の幼馴染み彼女が異世界からやって来たイケメン勇者に寝取られたと思ったら、実はイケメン勇者が男装した美少女で、しかも10年前に生き別れた血の繋がっていない妹だった話】 ぞいや@4作品(■🦊🍓🌏挿絵あり)執筆中 @nextkami

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