43話:妄想 ~ 美少女サンドイッチ(再) ~

 ~ 就寝前 ~


「コレでよしっと」


 リビングスペースに無理やり敷き詰められた4つの布団を前に、彩人あやとは両手を腰に当てて満足げ。

 ログハウスらしからぬこの光景のは理由は言わずもがな、幽霊が出るかも知れない中で、女性陣(3/4)が2階にあるゲストハウスでの就寝を怖がった為だ。

 部屋数的には全員個室でも問題無いが、今夜ばかりは全員が同じ空間で夜を明かす事となる。


 ちなみ5人全員がパジャマ姿で、就寝の準備は完璧だと言うのに布団は“4つ”。

 コレはダークエルフの少女:エリスが兎衣ういの布団で一緒に眠る為で、それを見たいちごがポツリ。


「……私、彩人あやとと一緒のお布団でもいいよ?」


「え?」


 突然の誘惑にドキマギする彩人あやと

 拒否する理由も無く、「それじゃあ……」と話を進めようとするも、兎衣ういがキリッといちごを睨む。


いちご君、この状況下で抜け駆けは駄目だよ。それならボクも彩人あやとの布団に――」


「駄目です、ウイ姉様ねえさまは私と一緒に寝るのです」

 言うな否や、今度はエリスが彩人あやとをギロリッと睨む。

「おいアカバネアヤト、同じ空間に居るからと言って調子に乗るなよ? 眠っているウイ姉様ねえさまに指一本でも触れてみろ、明日の朝日は拝めないと思え」


「こえーなオイ。そんな睨まなくても触らないって」


「え、完全無防備なボクに触らないの? 彩人あやとだったらちょっとくらいいいよ? 指一本と言わずに指十本くらいどう?」


 谷間チラリ

 少し前屈みとなり、パジャマの襟元を大きく広げる兎衣うい


 大胆にも胸元を見せてのアピールだったが、コレに怒ったエリスが兎衣ういの胸を鷲掴みムギュッ

 たまらず「ひゃッ!?」と兎衣ういが悲鳴を上げ、先ほど彩人あやとを睨んだ時以上の顔を、大体な行動に出た少女に向ける。


「何やってるのですか!! そんな男にウイ姉様ねえさまの神々しい身体を見せてやる必要などありません!!」


「そ、そうだよッ、駄目だよ兎衣ういちゃん!! 私だって、まだそこまで露骨なアピールはしたこと無いんだからね!?」といちごも賛同(?)。


 図らずしも援護射撃を受けたエリスは、続けて兎衣うい叱責しっせきする。


「ウイ姉様ねえさま、二度とこの様な馬鹿な真似は辞めて下さい。いいですね? そもそも前にも申し上げましたが、アカバネアヤトは架空の人物なのですよ? アカバネアヤトはウイ姉様ねえさまの中だけに居る亡霊なのです。アカバネアヤトなどという人間はこの世界に存在しません。――さぁ、私の言葉を復唱して下さい。アカバネアヤトは架空の人物むがッ!?」


 背後から、問答無用で両頬を押さえつけられたエリス。

 力技で彩人あやとの存在を消そうとする彼女を黙らせたのは、少々機嫌が悪そうな世話係:ビクトリアだ。


「エリスお嬢様、戯言はそのくらいにしてそろそろ寝ましょう。私は大人なのでまだ眠くありませんが、全然これっぽっりも眠くはありませんが、夜更かしはお肌の敵――ふぁああ~~~~~~~~(大あくび)。……お肌の敵ですからね」


「「「(絶対に自分が眠いだけだ……)」」」


 全員が内心でツッコんだものの、誰もそれ以上は言及はせずにこの話は終わり。

 何だかんだで既に22時半を回っていおり、高校生の就寝には少し早いかも知れないが、この場には13歳の少女も居るし、そもそも夜更かしする様な状況下でもないいだろう。


「それじゃあ電気消すぞ」


 壁のスイッチに彩人あやとが手を伸ばすも、布団に入ったいちごが「待った」をかける。


「真っ暗だとちょっと怖いから、小さな明かりは付けてて欲しいかも」


「あー、それならいっそのこと明るいままにするか?」


「私はそれでもいいけど、皆は?」


「アタシは明るいと寝れないのだ」エリスがすぐに反応。

 この時点で明かりを付けたままの可能性は無くなり、続けての兎衣ういが決定打。


「ボクも明るいと寝れないから、出来れば暗い方がいいかな。怖いのは怖いけど、今は皆と一緒に居るから心強いし。ビクトリアさんは――って、もう寝てるや」


 余程疲れが溜まっていたのだろう。

 布団に入って1分も経っていないというのに、エリスの世話係は両眼を閉じて「スー、ス―」と寝息を立てている。


(車運転して、色々と手配して、何だかんだで一番気苦労が多いんだろうな。明るくても暗くても関係無そうだけど、一応は小さな明かりにしておくか)


 調光スイッチを回して一番弱い明かりに変更。

 最初は暗くし過ぎたかと思ったものの、しばらくして目が慣れて来れば問題無し。

 弱い月明かり程度の、何となく周囲の状況は把握出来るくらいの光量がリビングスペースを包み、彩人あやとも布団に潜って「おやすみ~」と眠りについた。



 ■



 “この感覚”は二度目か。

 一瞬とも、永遠とも思える時を超え。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 白とも黒とも判断の付かない、境界の無い微睡まどろみを抜けて彩人あやとは夢を見ていた。

 それが夢だとわかっていたのは、現実ではあり得ない光景だった為だ。


 あり得ない夢の光景、その登場人物は4人。


 1人目は夢を見ている本人、赤羽あかばね彩人あやと

 2人目は幼馴染みの彼女:犬神いぬがみいちご

 3人目は義理の妹:兎衣うい


 そして4人目は――


(エリス……?)


 まだ齢13歳のダークエルフ族の幼き少女。

 そのエリスを含めた全員が一糸纏わぬ生まれたての姿で、“吹雪下の温泉に密着した状態で浸かっている”。


 倫理的に色々と問題はありそうな状況だが、全て夢なので問題無し。

 そもそも温泉の周囲にはお花畑が広がり、その向こうには燦燦さんさんと輝く太陽が照り付ける海も見えており、これまた「エロティック」よりも「シュール」の方が勝っている風景だ。


(ん~、何か前にも微妙に似たような夢を見た気がするが……思い出せん。しかし何だこの夢は? 俺も色々と溜まってるのか?)


 思春期真っただ中の男子高校生が、大好きな彼女を含めた女性と同じ空間で眠りについたのだ。

 彼の脳みそが勝手に暴走して、理想的で妄想的な夢を見せてくれたとしても何ら不思議ではない。


 しかも、「シュール」の方が勝っているのはあくまでも風景の話。

 そんなシュールな景色にも慣れて来ると、時間の経過と共に“より自分の身体に密着してくる”少女達の身体を意識せざるを得なくなる。


(い、いちごの胸が腕に……兎衣ういの胸も当たってるし……ッ)


 美少女サンドイッチむぎゅ~ッ


 両サイドから美少女に挟まれ、彩人あやとの頭は沸騰寸前。

 夢だとわかっていても自然と前屈みになる他なく、今すぐここから逃げ出したいような、だけど逃げるのは勿体ないし、逆に抱き締め返したいような――天国で地獄な時間が続く。


 なお、最年少:エリスに関しては兎衣ういにべったり。

 彩人あやとのことなど眼中に無いと言わんばかりに、彼女は兎衣ういの背後から首に手を回してギュッと優しく抱きしめている。


(ふむ、コレはコレで素晴らしい光景だ……って、いやいやいや。この状況を楽しんでる場合じゃないだろ。マジで何なんだこの夢は? 俺の性欲はどうなってんだ?)


 見ている夢が幸せ過ぎて、一周回って逆に怖くなってくる。

 まるで「幸せの前借り」をしている気分で、この後に不幸が訪れやしないかとヒヤヒヤし始めるが、やはり全ては夢の話。

 更に一周回ると「楽しまなきゃ損だよな」という気持ちになってきて、結局は流れに身を任せて、天国で地獄な温泉の時間を楽しんで――



 ―

 ――

 ――――

 ――――――――



 パチリ。

 目覚めると、彩人あやと目の前に“薄暗い顔”があった。


「わッ!?」


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。

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