42話:配慮 ~ 思いっきり未成年じゃねーか!! ~

「ビクトリアッ、すぐに帰る準備をするのだ!!」


 時刻は21時過ぎ。

 彩人あやとの怪奇現象報告と、誰も居ない筈の2階から聞こえて来た足音に

リビングスペースの空気は一変。

 のんびりした食後の雰囲気は緊張感を孕み、ダークエルフの少女:エリスがすぐさま「帰宅」を命令するが、それを受けた世話係:ビクトリアは何食わぬ顔で返す。


「申し訳ありませんが、温泉でお酒を飲んだのでモーターホームの運転は出来ません。飲酒運転になりますからね」


「なッ!? なんということをッ、どうしてお酒を飲んだのだ!?」


「お酒、美味しいですよ? エリスお嬢様も大人になればわかります」


「今はそういう話をしてるんじゃないッ、どうしてくれるのだ!?」


 余ほど幽霊が怖いのだろう。

 エリスが席を立ってビクトリアに詰め寄るも、彼女はそれをヒョイと持ち上げて自分の膝へと乗せる。


「どうするもこうするも、運転出来ない以上はログハウスに泊まるしかありません。元々エリスお嬢様が計画された合宿ですし、覚悟を決めて今夜はここに泊まりましょう」


「さ、最悪なのだ……本当にどうにもならないのだ?」


 世話係の腰にギュッとしがみ付き、涙目 + 上目遣いで懇願。

 そんなエリスの顔をどう思ったか、ビクトリアは小さな頭を優しく撫でる。


「そうですねぇ。まぁ本当のことを言ってしまうと、ここは『私有地扱い』なので日本の道路交通法は適応外です。実は飲酒運転しても法令違反にはなりません」


「じゃあ――」


「ただし、私はエリスお嬢様の世話係として、模範的でない行動は控えたいと考えます。もう眠いし今から運転するのが面倒くさいとか、決してそういうことはありませんので悪しからず」


「うぅ~……」


 これ以上頼んでも無理だと判断したのだろう。

 エリスは情けない声と共に肩を落とすが、ビクトリアの答えを聞いた彩人あやとは割と関心していた。


「へぇ~、何だかんだでちゃんと大人だな。涎を垂らして寝るだけの人じゃなかったのか」


「当たり前でしょう。私を何だと思ってるんですか?」


「いやぁ、最初の印象が強かったから……そう言えば、ビクトリアさんって今いくつなんだ? お酒飲んでるから二十歳は超えてるんだろうけど」


「おやおやこれは……大人の女性に年齢を尋ねるとか最悪ですね。まぁ隠す程でもない19歳ですけど?」


「うおいッ、思いっきり未成年じゃねーか!! 酒飲んじゃ駄目だろ!!」


 模範的でない行動は控えたいと、つい先程そう口にした人物とは思えない。

 隣で話を聞いていたいちごも「えぇ……」と軽く引いているものの、ビクトリアは変わらず何食わぬ顔だ。


「お言葉ですが、異世界では15歳からアルコール飲料が摂取可能です。私はその時その時で、自分に都合の良い世界の法律を守ることにしているのですよ」


「マジか……(ヤバいなこの人)」


 19歳で異世界庁と仕事したり、何でも運転出来る凄い免許を持っていたり。

 能力的にはウルトラハイスペックな人材だが、頭の中は地味にバグっている。

 クールな見た目と落ち着いた態度に騙されそうだが、もしかするとエリスよりも要注意人物なのではないだろうか?


 という会話を繰り広げていると。

 ビクトリアに抱き付くエリスが、痺れを切らした様にガバッと顔を上げる。


「二人共ッ、何を呑気に喋っているのだ!! お、お化けが出るかも知れないのだぞ!?」


「私は別に大丈夫ですよ。お化けよりも、暴走したエリスお嬢様の方が余程怖いですからね」

「俺もまぁ大丈夫だな。ホラー映画とかホラーゲームは割と好きだし。黒い人影を見た時は吃驚はしたけど、逆に言えばそれだけだ」


「な、なんて奴等なのだ……ウイ姉様ねえさまとイヌガミイチゴは?」


 今回の怪奇現象にも、彩人あやととビクトリアはノーダメージ。

 幽霊を怖がらない二人が理解出来ないエリスは、助けを求める様に残り二人へと視線を回す。


 そして最初に視線を受け取った兎衣ういは、目を泳がせつつも胸を張る。


「ボ、ボクは全然怖くないよ。うん。幽霊とか、全然……全ッ然、大丈夫だから(震え声)」


「おい。声も足も震えてるぞ。さっきまで平然としてたのはただ強がりか。それでも元:勇者か?」


「うっ」

 図星 + 痛いところを突かれたのか、兎衣ういは急に情けない顔。

「だって~、モンスターなら剣で斬れば倒せるけど、幽霊なんか倒したこと無いもん。怖いに決まってるでしょ?」


「そ、そうだよ彩人あやと君。幽霊は怖がるのが普通だよ。怖がってない彩人あやと君が異常者なんだよ」


「異常者ときたか……」


 幼馴染み彼女からの強烈な一言。

 この状況下でなかったら少し落ち込んでいただろうが、彼女の性格を知っていればこそ、それも致し方ないと彩人あやとは思う。


いちごは本当、昔からホラー系苦手だもんなぁ。デートでのホラー映画はNGだし、ホラーゲームを見るのも駄目だし)


 そんないちごと同じくらい、義理の妹:兎衣ういもホラーは苦手か。

 2階を恐る恐ると伺いつつ、皆に“こんな提案”をする。


「今日帰るのが無理でもさ、せめてこのログハウスじゃなくて今夜は外のモーターホームで寝ない? ビクトリアさんがお酒飲んでても、運転しなければ何も問題は無いわけだし」


「わ、私もその意見に賛成。お化けとか無理だから。本当にッ、絶対無理だからね!?」


いちご、あんまり強調すると“振り”に聞こえるぞ。幽霊も怖がる奴へ優先的に寄っていくかもな」


「ちょっと、何で脅かすの!? 夜中トイレに行けなくなるじゃん!!」


「悪い悪い、ちょっと揶揄からかってみたくなって」


「もうッ、意地悪しないでよ~。彩人あやと君なんか嫌~い」


 不機嫌に頬を膨らませつつも。

 言ってることとは裏腹に、隣の彩人あやとの腕にギュッとしがみ付くいちご


 途端、兎衣ういの目の色が変わる。


「むっ、その手があったか。ズルいぞいちご君」


 自然と抱き付いたいちごを見て、兎衣ういもすぐさま席を立つ。

 夕食の時は彩人あやととの間にいたエリスも、今は世話係の膝の上。

 結果的に彩人あやとの隣が空いた為、兎衣ういはエリスの椅子に座り、いちごを真似て彩人あやとの腕にしがみ付く――が。


「あっ、駄目ですウイ姉様ねえさま!! アカバネアヤトに近付いてはなりません!!」


 抱き付いて1秒後。

 脱兎の速さでエリスが兎衣ういを引き剥がした。

 その後は彩人あやと兎衣ういを巡り、ビクトリアを除いた4人での攻防(?)が始まったものの、しょうもない争いなので割愛。


 そして数分のゴタゴタを経て、手合わせパンッ

 混乱した場を仕切り直す様に、ビクトリアが4人の視線を己へと向ける。


「皆さんがそこまで望まれるのであれば、ひとまず今夜はモーターホームで夜を明かしましょう。移動するので付いて来て下さい」



 ――という流れで外に出るも、“猛吹雪”。



 玄関ドアを開けた途端、ビュービューと吹き込む雪風によって視界はゼロ。

 駐車場に停めたモーターホームの姿どころか、2~3メートル先が全く見えない状況となっていた。


「さ、寒い!!」

「閉めて閉めて!!」


 夏の夜に感じた極寒を前に、引き返すのは当然の判断。

 扉を閉めると風は止まり、気温も間もなく室内の温度へと均されていったが、流石にこの猛吹雪は想定外。

 夕食前には既にカーテンを閉めていたこともあり、外の変化に気付くのが遅れた形となる。


「コレは駄目だな。モーターホームに辿り着くまでに、何人か遭難しそうな勢いだ」


「ですね。無理に移動するのは控えて、大人しくログハウスで一晩明かしましょう」


 彩人あやとが諦めモードで首を振り、ビクトリアもその意見に賛同。

 かくして怪奇現象の起きるログハウスでの一泊が決定した。


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。

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