35話:攻略 ~ いくら好感度を上げたところで ~

 モーターホームからログハウスへの移動は、ワープでもしない限り一度は「外」へ出ることになる。

 そこで改めて問題となるのは、“あの雪雲が一体誰の頭上にあるのか”ということ。


「『第一回:雪雲チャレンジ』を行うのだ!!」


「「「……雪雲チャレンジ?」」」


 初耳の言葉に皆が首を傾げるのも当然。

 発言者であるダークエルフの少女:エリスはエッヘンと腕組みをし、それから雪雲チャレンジの概要を皆に説明。

 それらを軽くまとめると、彩人あやとの次の言葉となる。


「――要するに、モーターホームからログハウスまで順番に移動して、“誰に雪雲がくっ付いて来るのか確かめよう”って訳か」


「その通りなのだ。アカバネアヤトにしては理解が早いな」


「それは褒めてんのか? それとも貶してんのか?」


「ふんッ、好きに受け取るがいい。ちなみにアタシの見立てでは、アカバネアヤトに雪雲がくっ付いて来る筈なのだ」



「えっ、もしそうだった場合……彩人あやと君はどうなるの?」



 彩人あやとの幼馴染み彼女:犬神いぬがみいちごの問い。

 心配そうな顔で問われたその台詞に、エリスは「ふふんッ」と鼻を高くする。


「そうなったら、アカバネアヤトはログハウスに入れてやらないのだ!! このモーターホームで明日までお留守番なのだ!!」


「おい、何でそうなるんだよ。俺だってログハウスに泊まってみたいのに」


「駄目なのだ。アカバネアヤトが来たら雪が降って寒くなるのだ。温泉も冷え冷えになるのだ」


「いやいや、雪が降ったくらいじゃ温泉は冷めないだろ。それにログハウスは屋根もあるんだし、エアコン付ければ寒くないって」


「ふんッ、見苦しいぞアカバネアヤト。無駄な抵抗は辞めて、己に降りかかった惨めな運命を受け入れるのだ。それに元々、この合宿はアタシとウイ姉様ねえさまがイチャイチャする為の合宿。お邪魔虫で害虫な貴様の居場所など最初から無いのだ!!」


「ヒドイ言われ様だ……なぁ兎衣うい、お前から何とか言ってくれ(チラッ)」


 彩人あやとの視線は義理の妹:兎衣ういへ。

 当然ながら「助け」を求めて彼女を見た訳だが、ここで兎衣ういは至って冷静な返事を返す。


「まぁまぁ、エリス落ち着いて。まだ彩人あやとが雪雲に好かれていると決まった訳じゃないんだしさ。処置を決めるのは……雪雲チャレンジ、だっけ? その後でもいいんじゃない?」


「ですがウイ姉様ねえさま、アタシが“魂乃炎アトリビュート”を発動したのはアカバネアヤトの前ですよ。十中八九、雪雲はアカバネアヤトコイツに付いて来てるに決まっています」


「かもしれないけど、そうじゃないかも知れないでしょ? とりあえず状況を見極める為にも雪雲チャレンジをやってみようよ」


 という訳で。

 雪雲チャレンジを行った結果――。


 ログハウスの玄関前に居るのは、彩人あやといちご兎衣うい、それにエリスの世話係:ビクトリアの計4人。

 彼等の頭上に雪雲は無く、雪雲はエリス1人が残ったモーターホームの上空に浮かんでいた。


 この事実を受け、世話係:ビクトリアが淡々とした口調で告げる。


「――つまり、エリスお嬢様をモーターホームに残して、我々はログハウスでのんびりくつろげばよろしいわけですね?」


「まっ、待つのだビクトリアッ、まだ雪雲がアタシにくっ付いていると決まった訳ではない!! このモーターホームのくっ付いて来ている可能性もあるのだ!!」


「なるほど……確かにその可能性もゼロではありませんね。それではエリスお嬢様、走ってこちらに来て下さい。それで雪雲がモーターホームに残っていれば、エリスお嬢様も晴れてログハウスに泊まれますので」


「わ、わかったのだ……」


 唾を飲み込むゴクリ

 緊張と共に喉を鳴らし、意を決したエリスが走り出す――その結果。


 トトトッと走って来たエリスを追いかける様に、見事に頭上の雪雲が移動。

 彩人あやと達の前で立ち止まった彼女の頭に、何の意思も無いふわふわの雪がポツンと乗った。


「……ぐすんッ」


 エリス涙目。

 流石にコレで彼女を仲間外れにするのは可哀そうなので、結局は全員でログハウスに入ることにした。



 ■



 ~ ログハウス:リビングスペースにて ~


 初めて中に入った人が最初に見るポイントは人それぞれだろうが、「ログハウス」と述べている以上“丸太で組まれた自然で無骨な感じの壁”は、ログハウスがログハウスたる所以。

 吹き抜けの高い天井からはシーリングファンが吊られており、それだけで優雅な雰囲気を感じてしまうのは、彩人あやとが一般的な家で暮らしている一般人だからだろう。

 加えて、大きなガラス戸から段差無しで繋がるテラス席は「オーシャンビュー」となっており、遮るものの無い水平線の見える景色が、非日常の開放的な空間を演出してくれている。


「おぉ~、やっぱ景色が良いな。何の木か知らないけど良い匂いもするし、これぞログハウスって感じだ」


 食材の入ったクーラーボックスを床に置き、彩人あやとが大きく息を吸って、それから吐いた言葉。

 これに反応したのは幼馴染み彼女のいちごだ。


「ねぇねぇ彩人あやと君、小学生の頃に行った『少年自然の家』を思い出さない?」


「ん? あぁ、言われてみれば確かに似てるな。まぁあの時行ったのは全然違う場所だし、ログハウスの雰囲気は大体どこも似てる気がするけど」


「うん。それはそうなんだけど……でもほら、『少年自然の家』って聞いて思い出すことない?」


「思い出すこと? ――あぁ、アレか。山のサイクリング中にいちごがコケてギャン泣きしたやつ」


「そ、それは思い出さなくてもいい記憶だよッ!!」


 ログハウスでテンションが上がったか。

 和気あいあいと昔話に花を咲かせた二人の横で、思い出を共有できず、会話に混じれない兎衣ういは少し不満げな顔。

 そんな表情を見逃すことなく、エリスがグイっと兎衣ういの腕を引っ張る。


「ウイ姉様ねえさま、お腹も空いたのでご飯にしましょう。――ビクトリア、昼食の用意をするのだ」


「えぇ、勿論そのつもりでしたが……しかし如何いたしましょう?」


「む、如何するとは?」


「元々お昼はテラスで“焼きそばとタコ焼き”、夜は浜辺で“バーベキュー”の予定でしたが、ご存じの通りお嬢様の周囲は雪が降ります。真冬とは言わないまでも気温は下がりますし、外に出るのは少々辛い状況かと。お嬢様抜きでやっても構いませんか?」


「か、構うに決まってるのだ!! アタシを仲間外れにするのは良くないッ、普通にキッチンで作るのだ!!」


「かしこまりました。では今しばらくお待ちください」


 ビクトリアが軽く礼をして、食材の入ったクーラーを持ち上げる――その前に。

「俺が持ってくよ」と彩人あやとがクーラーボックスを持ち上げる。

 途端、ビクトリアが警戒の視線を向けた。


「急にどうしたんですか? いくら好感度を上げたところで、私は赤羽あかばね彩人あやと氏の攻略キャラクターではありませんよ」


「いやいや、普通に手伝おうと思っただけだから。攻略とか言うの辞めてくれ……」


「ふむ……貴方はロリコンだと思っていたのですが、もしかして年上好きですか? 残念ですが、欲情するならエリスお嬢様だけにしておいてください」



「おいッ、何でアタシの名前が出るのだ!?」とご立腹なエリスの前で。



「いやぁ~、流石に子供で欲情しないブホッ!?」


 彩人あやと鳩尾みぞおちにダークエルフの拳がさく裂。

 二人の体格差を考慮しても中々の一撃が見事に決まり、その場にうずくまった彩人あやとに変わって。

 やれやれと肩を竦めた兎衣ういがクーラーボックスを運んだのだった。


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。

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