【3章:『ウイ姉様の洗脳解除合宿(中編)』】

32話:夏雪 ~ 即・自白からの土下座 ~

 玄関を開けたら、まず最初に日陰を探す。

 そんな夏真っ盛りな7月下旬の朝。


 ダークエルフの少女:エリスが考案した『ウイ姉様の洗脳解除合宿』なるもよおしにより、道の駅の駐車場にて車中泊を行った赤羽あかばね彩人あやと一行。

 日本列島は連日の様に猛暑日を記録しており、殺人的な太陽光線が今朝もジリジリとコンクリートを焼き続けている――“筈”だった。


 筈だった、というのは他でもない。

 今現在、シェード(目隠し)で窓が閉ざされたモーターホームの中で、唯一シェード(目隠し)を外したリビングスペースの窓から見える景色は「雪」。

 季節感を度外視した白いフワフワが、夏の朝に淡々と降り続けている。


 そんな状況を放っておく訳にもいかず、車内のリビングスペースには合宿の参加者全員が集まっていた。

 内訳は、この事態にいち早く気付いた彩人あやと、彼の義理の妹:兎衣うい、ダークエルフの少女:エリスと、彼女の世話係:ビクトリアに加えて、彩人あやとの幼馴染み彼女であるいちごの5人。

 そしてそのいちごが、寝起きの顔で窓の外を指さす。


彩人あやと君、雪っぽいのが降ってるけど……私の見間違い?」


「いや、雪で間違いないぞ。さっき外に出て確認したけど、雪が降っているのはこのモーターホームの周辺だけだな。せいぜい半径10メートルってところか」


 更に情報を加えるなら、モーターホーム上空の低い位置にどんよりとした「雪雲」が浮かんでいた。

 夏のアスファルトに積もるまでの事態にはなっていないが、溶けた雪がアスファルトを濡らし、周辺は少しひんやりした空気となっている。

 この雪が夢幻ゆめまぼろしの類でないことは確かで、世話係:ビクトリアの視線は、視線が泳いでいるエリスに向けられる。


「エリスお嬢様。何か心当たりは?」


「な、何でアタシに聞くのだ? アタシは何もしてないのだ。起きたらこうなってるから吃驚してるとこなのだ」


「へぇー、そうですか。それで、本当のところは?」


「ほ、本当のところとは……?」


「お嬢様、ミスをしない人間はこの世に存在しません。大事なのはミスした後の適切な対処ですよ。原因の特定が遅れる程に被害は拡大するものです」

 ここでグイっと、ビクトリアがエリスに顔を近づける。

「今ここで、素直に自白すれば大目に見ますが、いつまでも知らない振りを決め込むなら『お尻ぺんぺんの刑』は“パンツ抜き”で――」


「ア、アタシがやりましたぁッ!!」


 即・自白からの土下座。

 一瞬で床に額を付けたダークエルフ族の姿に、彼女を妹の様に可愛がる兎衣うい(彩人の姿)は「はぁ~」と溜息。


「そうだと思ったよ。また“魂乃炎アトリビュート”が暴発したみたいだね」


「でしょうね」とビクトリアが続き、

「だろうな」と彩人あやとも同意して、

「“魂乃炎アトリビュート”……あぁ、そういうことね」といちごも少し遅れて理解。


 最早言い逃れは出来ぬと悟ったのか、頭を上げたエリスが“数時間前の出来事”を語り始めた。

 それらを要約すると――。



 ==================


 ~ 事件の全容 ~


 前提として、昨夜のベッド事情は以下の通り。


 魂が入れ替わってしまった彩人あやと兎衣ういは、車内中央部に設置された2段ベッド。

 上が兎衣うい(彩人の姿)で、下が彩人あやと(兎衣の姿)の配置だ。

 いちごとエリスは、3人でも余裕で寝れる車両後方のキングサイズのベッドとなり、世話係:ビクトリアはリビングスペースのソファを展開したベッドで就寝。


 見えない疲れもあったのだろう。

 皆は早々に眠りについて、事件が起きたのは午前2時頃。


 ムクリと起きたエリスは寝惚け眼でトイレを済まし、それから自分が寝ていた車両後方のベッドには戻らず、彩人あやと(兎衣の姿)のベッドに侵入。


「うへへ、ウイ姉様ねえさま~」

 と無断でキスして数秒後、ハッと目が覚める。

(しまったッ、中身はアカバネアヤトだったのだ!!)


 ここで動揺してしまい、その胸に炎が点灯。

 彼女の“魂乃炎アトリビュート:トラブルメーカー”が発動したのだ。


(マズいッ、何かトラブルが起き――あれ? 特に何も起きないのだ……)


 周囲にトラブルを巻き起こす『トラブルメーカー』。

 昨日は彩人あやと兎衣ういの魂を入れ替えてしまう珍事を起こしているが、しかし今回はコレといった変化も無い。


(不発? よくわかんないけど……まぁ何も無いなら良かったのだ)


 それからエリスは物音を立てない様に彩人あやと(兎衣の姿)のベッドから撤退。

 元のベッドに戻り、口直しでもするかの如くいちごの胸を軽く揉んでから、再び眠りについたのだった。



 ==================



 ――という自白を受けて。

 皆それぞれに言いたいこともあるだろうが、最初に口を開いたのはいちごだ。


「あの、最後にサラッと私の胸が揉まれてるんだけど?」


「まぁまぁ、それは今はいいじゃないか」


 何か後ろめたい過去でもあるのか、いちごの指摘を兎衣うい(彩人の姿)がやんわりと遮り。

 それを気にすることなく、世話係:ビクトリアがエリスに視線を送る。


「それで、エリスお嬢様は今の今まで知らん顔を決め込んでいた訳ですね」


「だってだって、“魂乃炎アトリビュート”は発動したけど、特に変化も無かったから大丈夫だと思ったのだ。まさか雪が降っていたとはアタシも吃驚なのだ」


「全く、何とも人騒がせなお嬢様ですね。まぁ今回は正直にお話して下さったので、『お尻ぺんぺん』の刑は免除しておきましょう」


「ふぅ~、危うく死ぬところだったのだ」


「おいおい、大袈裟だな。『お尻ぺんぺん』じゃ死なないだろ」


 彩人あやと(兎衣の姿》が指摘すると、エリスは何処か遠い目。


「ふんッ、甘いのだアカバネアヤト。貴様はビクトリアの『お尻ぺんぺん』を受けたことが無いからそんな台詞が言えるのだ。命が無事なら、自尊心が死んでも構わないとでも?」


「お、おう……よくわからんが、お前も大変なんだな」


 何やトラウマがあるらしいが、これ以上の深掘りはご法度か。

 彩人あやと(兎衣の姿》が素直に引いたところで、世話係:ビクトリアがスッと指を2本立てる。


「我々が直面する問題は2つあります」


「「「問題?」」」


「えぇ。1つは、上空の“雪雲が何処に発生している”のかということ。そしてもう1つは、周囲に集まり出した“野次馬の対処”です」


「野次馬って……あらら、やっぱ目立つか」


 彩人あやと(兎衣の姿》が少し目を離していた隙に、周囲にはチラホラと人が集まっていた。

 雪が降っているのはせいぜい半径10メートル程度で、その中央にあるモーターホームに人が集まって来るのはある種の必然だろう。

 中にはパシャパシャとスマホで写真を撮っている者もおり、これで注目を集めていないとは口が裂けても言えない。


「これは早々に移動した方が良さそうですね」


 リビングスペースから直通の運転席にビクトリアが移動。

 外からの視界を遮断していたフロントウィンドウとサイドのシェード(目隠し)を収納し、カチャッとシートベルトを締めれば準備完了だ。


「朝食は後にして、まずはここから退散しましょう」


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。

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