31話:内緒 ~ 乙女の感 ~

 ~ いちご/エリス/ビクトリアの3人が温泉に入っている頃 ~


 大型のキャンピングカー:モーターホームに残された2人は、特にやることも無くソファの上で暇を持て余していた。

 今の時間を利用してシャワーを浴びればいいのでは? という疑問も浮かぶだろうが、それは彩人あやとの幼馴染み彼女が「NO」を告げた為、実現には至っていない。


『二人共、私が戻ってくるまで勝手にシャワーを済ませちゃ駄目だからね?』


 この発言の真意は今更だろう。

 トイレの時と似たような理論で、尚且つ自分が居ない時に裸となる行為をいちごが許さなかった為だ。


 かくして現在進行形で暇を持て余している彩人あやと達だったが、長年連れ添った夫婦でもあるまいし、会話も無しでは間が持たない。


「そう言えば兎衣うい、トイレとか行かなくていいのか?」


 明日の天気を尋ねる程度のノリで。

 何の気無しに、だけど気になって尋ねてみたら、兎衣うい(彩人の姿)から返って来たのは次の反応。


「あ~……まぁトイレなら大丈夫だよ。お昼食べる前に済ませたからね」


「そうか。それなら大丈夫――って、ん? 昼飯の前に済ませた? ってことは、つまり……?」


「うん、見たよ。モーターホームそこのトイレで、いちご君と一緒にね」


 ぶッ!?


 思わず唾も吐くというもの。

 遅れて知った過ぎ去る事実に彩人あやと(兎衣の姿)が咳き込む。


「ゲホッ、ゴホッ……えっと、それマジで言ってる?」


「うん、大マジだよ。漏らす訳にもいかないし、彩人あやと達はフードコートに夢中だったからさ」

 だから仕方ないと、兎衣うい(彩人の姿)は完全に開き直った堂々たる態度で告げる。

「ま、ボクは長らく彩人あやとの部屋を盗撮――もとい監視していたから知ってたけどね。いやはや、これまた随分とご立派なモノをお持ちで」


「うおいッ、言い方!! いや、言い方の問題でもねーけど!!」


 どんな言葉で表そうと、見られてしまった事実は変わらない。

 とはいえ、漏らす訳にはいかないという彼女の言い分はその通りで、当然彼女もそれを盾にする。


「どうせ明日まで我慢するのは無理だったし、いちご君を差し置いてボクだけ見るのも悪いと思ってさ。でもアレだよ? 今日はボクだってトイレで恥ずかしい思いしたんだし、これでお相子でしょ?」


「そ、それはそうかもだけど……」


「それにさ、見たと言ってもジロジロ観察した訳じゃないから、あんまり気を悪くしないでよ。極力“触らない”ようにも気を付けたし」


「う~ん……まぁ、う~ん……何とも言いようがねぇな」


 魂が入れ替わった状況と二人を取り巻く関係性。

 その他諸々を踏まえると、不可抗力というか致し方ない部分があるのも確か。

 どのみち文句を言ったところで起きた事実は変わらないし、あまりグタグタ文句を言っても時間の無駄か。


 それに、考えようによっては事実を逆手に取ることも出来る訳で。


「フッフッフッ」

 敢えて、腕組みした彩人あやと(兎衣の姿)は不敵な笑い声を上げる。

「俺の身体が勝手に見られたんだから、お前の身体だって好きに見てもいいってことだよな?」


「うん、いいよ。何処が見たい?」


「え? いや、それは……え?」


「“上”と“下”、彩人あやとはどっちが見たい?」


「ッ~~!!」


 ちょっと揶揄からかったつもりが、まさかの前向きな反応。

 美少女の顔を真っ赤に染めて、彩人あやと(兎衣の姿)はわたわたと両手を騒がせる。


「じょ、冗談だって。今のはちょっと揶揄からかっただけで本気で言った訳じゃねーよ」


「ボクは別に、彩人あやとなら見られてもいいけど?」


「いや、だから冗談だって。マジで冗談だ。忘れてくれ」


「本当に? このまま冗談で終わらせていいの?」


 グイっ。

 彩人あやと(兎衣の姿)のシャツの襟元を掴み、自分の方に引っ張る兎衣うい(彩人の姿)。

 結果として彩人あやと(兎衣の姿)の胸元が大きく開く形となり、少し視線を落とすだけで簡単に“上”が視界に入ることになるが、ここはグイっと上を向く。


兎衣うい、ちょっと冷静になれって。駄目だろこんなの」


「何も駄目じゃないし、ボクは冷静だよ。冷静だから、腕力で優る彩人この身体でキミを押し倒すことも出来る。――こんな風にね」


 床ドンならぬソファドントン

 彩人あやと(兎衣の姿)の肩を押し、ソファに倒れたその身体に覆い被さる。

 更には太腿で脚を抑えて逃げ道を塞ぎ、兎衣うい(彩人の姿)が完全に場の主導権を握る。


 そしてそのまま、ゆっくりと顔を近づけた。


彩人あやといちご君には内緒だよ?」


兎衣うい、お前……」



 扉解放ウイーン



「ただいま!!」



「「わッ!」」


 不意の声掛けで、飛び跳ねる様に二人の身体が離れる。

 慌てて振り返った先には、扉が開き切る前に、隙間から捻じ込む様に身体を入れ込んで来た犬神いぬがみいちごの姿。

「はぁ、はぁ、はぁ」と呼吸を荒げており、乱れて額に張り付く髪の毛が、相当急いで来たことを物語っている。


「どうしたいちご、そんな慌てて」


「ちょっとね、私のレーダーが……はぁ、はぁ、反応したから。それで二人が破廉恥な事してないかと、慌てて戻って来たの。ふぅ~」


「な、何だよレーダーって。そんなの何処にあるんだ?」


「それは勿論、“乙女の感”だよ」


「………………」


 温泉に浸かって頭がのぼせたのだろうか?

 普通なら馬鹿馬鹿しいと一蹴することも出来る話だが、今の彩人あやと(兎衣の姿)には出来ない。


 破廉恥かどうかはともかく、人気のない密室で彩人あやと兎衣ういはキスする一歩手前だったのだ。

 ただの偶然だとは思うものの、「乙女の感」と言われれば妙な納得感も覚えてしまい、多少の後ろめたさもあって強く否定することははばかられる。


 それは兎衣うい(彩人の姿)も同じ――だったのはさっきまで。

 いちごの帰還にドギマギしていた兎衣うい(彩人の姿)だったが、その視線が“とある一点”で止まる。


いちご君の“ヘタ”、そんなに逆立ってたっけ?」


「私のヘタ? ――あぁ、頭のくせっ毛のこと?」


「そう。全体的にペタっと頭にくっ付いていたと記憶してるんだけど、今は上に向かって逆立ってるね。湯上りはいつもそうなのかい?」


「ううん、そんなことは無いんだけど……あ、でも。言われてみると、兎衣ういちゃんが来てからこうなることが多くなったかな」


「ボクが来てから?」


「そうなの。もしかして兎衣ういちゃん、物凄く静電気を溜めやすい体質だったりする?」


「いやぁ~、そんな自覚は無いけど……」と、3人での会話はここまで。


 エリスとビクトリアが遅れて戻って来て、いちごの逆立った髪も徐々に元通り。

 その後は「夕飯(市販のレトルトカレー + サラダ)」の流れとなり、いちごの介助によるシャワーを経て、誰と寝るかのベッド争奪戦で一悶着ありつつも。

 何だかんだで疲労もあったのか、日付が変わる前に、全員が夢の中へと意識を落としていった。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 ■



 ~ 翌朝 ~


 窓の外に映る景色を見て、彩人あやと(兎衣の姿)は茫然とする。


「えっ……何で雪が降ってるんだ?」


 ――――――――――――――――

*あとがき

【2章】の完読ありがとうございます。

次話から【3章】:『ウイ姉様の洗脳解除合宿(前編)』】となります。

(思ったより長くなったので、『ウイ姉様の洗脳解除合宿 』を章分けしました)


続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。

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