30話:湯船 ~ 偉大なるおっぱいに敬意を表して ~

 ~ 道の駅:入浴施設(脱衣所/女湯)にて ~


「全く、アカバネアヤトには困ったのだ。本当はウイ姉様ねえさまと温泉に入りたかったのに……アイツが勧めてきた“うどん”と“てんぷーら”が美味しくなかったら、途中で窓から放り投げてバイバイしていたところなのだ」


 ブツブツと文句を吐きつつ、投げ捨てる勢いで服を脱ぎ捨て。

 一切の恥じらいを感じさせぬまま、裸一貫となったダークエルフの少女:エリス。

 異世界にも「入浴文化」はあるらしく、同性に裸を見せることには特に抵抗が無い――のは、どちらかと言えば年齢によるところが大きいか。


 逆に、エリスより年上の犬神いぬがみいちごは、服を全て脱いだにも関わらずタオルで前を隠している。

 年齢的にも彼女が恥ずかしがるのはごく自然な振る舞いだが、エリスからすると不思議な光景に映ったらしい。


「むっ、どうしてタオルで隠すのだおっぱい星人。そのおっぱいが本物かどうか、早くアタシに見せるのだ」


「え、まだそれ疑ってたの? っていうかエリスちゃん、おっぱい星人って呼ぶのは辞めて欲しんだけど……」


「何故なのだ?」


「いや、だって……その、凄く恥ずかしいし」


「恥ずかしい? その偉大なるおっぱいに敬意を表してやっているのにか?」


「い、偉大なるおっぱいって……」


 一瞬で茹蛸カァ~ッと、耳まで紅潮したいちご

 その場で固まり置物の様に動かなくなった為、見かねた世話係:ビクトリアが下着姿でエリスの肩に手を置く。


「エリスお嬢様、何を恥ずかしいと思うかは人それぞれです。お二人は育って来た環境も文化も違いますし、お嬢様の物差しで測ったことが必ずしも相手と一致するとは限りません。自分の価値観を押し付けないことが、異文化交流の第一歩ですよ」


「むぅ~、ビクトリアが珍しく正論を言うのだ。明日は雪でも降るんじゃないか?」


「こんな真夏に雪など降りません。まぁ、鉄拳が降って来る可能性は無きにしも非ずですが」


「わ、わかったのだ!! これからはちゃんと名前で呼ぶのだ!!」


 拳に「はぁ~」と息を吹きかける世話係を見て、湯船に浸かる前から早速「汗」をかいたエリス。

 その汗を流す為か、彼女は逃げる様に小走りで浴場へと出て行った。


 そんな可愛らしい光景に「ふふっ」と笑い、それからビクトリアは残されたいちごに語り掛ける。


「エリスお嬢様のこと、あまり悪く思わないで下さいね。今でこそアレだけ無邪気に振舞っていますが、お嬢様にも色々あったのですよ――と、適当にそれっぽいことを言えば許して下さいますか?」


「え? 特に何かあった訳ではないんですか?」


「ふふっ、それはどうでしょう? エリスお嬢様が本当に心を許したら、もしかしたら自ら話して下さるかも知れませんね」


 不敵に笑い、そのまま躊躇なくブラパンツを脱いだビクトリア。

 その光景を直視するのを恥ずかしがったいちごは視線を逸らし、「ではお先に」と堂々たる態度で浴場に出てゆく大人の後姿を、彼女は少しだけ羨ましく思った。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 星空の元に揺らめく開放的な湯船を前に。


「おぉ~、良い感じの温泉なのだ!!」と興奮気味に湯船へ飛び込みかけたダークエルフの少女:エリスの首根っこを掴み、世話係:ビクトリアが洗い場へ連れて行って座らせる。


「まずは洗体が先ですよ。ほら、髪を洗いますから目を瞑って下さい」


「別に一人で洗えるし、ビクトリアの手伝いは要らないのだ」


「駄目です。エリスお嬢様は適当に洗って終わらせてしまうので、私がきちんと身体の隅々まで綺麗にして差し上げます。――そう、身体の隅々まで、余すことなく……ハァ、ハァ」


「な、何か鼻息が荒いのだ。大丈夫か?」


「大丈夫ですよ、何も問題ありません。全て私にお任せください……ハァ、ハァ」


「ほ、本当に大丈夫なのだ……?」


 とまぁ、そんなこんなで洗い始めた二人を尻目に。

 犬神いぬがみいちごも恥ずかしながら洗い場の隅っこへ移動。

 タオルで局部を隠しつつ、数組いた先客の視線を気にしながら持参の入浴セットで髪と身体を洗い始めた彼女は、現在進行形で何とも微妙な心持ち。


(う~ん、温泉に入れるからテンション上がってここまで来たけど……エリスちゃんともビクトリアさんとも、まだそこまで仲が良い訳じゃないしなぁ。裸見られるのも恥ずかしいし……コレなら彩人あやと君と兎衣ういちゃんが留守番してるモーターホームに残ってもよかったかも?)


 今更そんな思いを抱くいちごだが、ここまで来てしまった以上は引き下がれない。

 そして引き下がれないで言えば、身体を洗い終わったら次は当然入浴タイムとなり、避けようも無い展開が待ち受けている。



 その避けようも無い展開とは――『タオルは湯船の外に』。



 “コレ”だ。

 外国から来た観光客にもわかる様に、イラストと複数言語で書かれた「入浴施設の注意書き」

 脱衣所や洗い場にも設置されている注意書きに「上記文言」が記されている以上、犬神いぬがみいちごは胸を隠していたタオルを取らざるを得なかった。


 入浴ちゃぽん、と湯船に浸かるや否や。


「おぉ~、コレがイヌガミイチゴの生おっぱいか」


 先に湯船を楽しんでいたエリスが、スススっと吸い寄せられるようにいちごの元へ。

 タオルという名の盾を失い、両手では隠せなくなった乳房をガン見して、その後はおもむろに手を伸ばし、彼女の乳房を下から持ち上げる。


「おぉ~、物凄い重さなのだ。ウイ姉様ねえさまよりも全然重いのだ」


「ちょ、ちょっとエリスちゃん? あんまり私の胸で遊ばないんで欲しいんだけど……」


「何故なのだ? イヌガミイチゴは、女同士でも裸の付き合いが恥ずかしいのか?」


「そ、それも勿論あるけど……その、ほら、彩人あやと君に悪いし」


「むっ、何故ここでアカバネアヤトの名前が出てくるのだ? もしかして、イヌガミイチゴはアカバネアヤトが好きなのか?」


 何を今更と、そういう気持ちを抱きかけたいちごだったが、しかし。

 ここまでの流れをよくよく思い返すと、自分と彩人あやとの関係性をきちんとエリスに説明したことは無かった。

 今のことろは「何故か合宿について来たおっぱい星人」という認識の可能性もあり、ここはハッキリさせておくのが「吉」だと、いちごは彼女の問いに深く頷く。


「そうだよ。私と彩人あやと君は幼馴染みだし、彼氏彼女の関係なの。だから胸を触っていいのは彩人あやと君だけというか……その、例え女の子同士でもやっぱり恥ずかしいなぁって……」


 再びの茹蛸カァ~ッ

 自分で言っていて恥ずかしくなったのか、もじもじと身体をくねらせて言葉に詰まったいちご


 そんな彼女を差し置き、何かを閃いたエリスがザバッと湯船の中で立つ。


「イヌガミイチゴ、よくぞ今回の合宿に参加した!!」


「え? あ、いや、それで言うと、こちらこそと言いますか、食事代とかここの入浴料も出して貰って――」


「いいか、よく聞けイヌガミイチゴ!! この合宿の間、お前は出来る限りアカバネアヤトとイチャイチャするのだ!!」


「……はい?」


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。


また、お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵あり)」も是非。

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