24話:交換 ~ 『トラブルメーカー』 ~

「あー吃驚した。何だったんださっきの光は?」


 彩人あやとが驚いたのは他でもない。

 ダークエルフの少女:エリスを持ち上げた瞬間に、彼女の胸が不思議な光を放ったのだ。


 それは炎の様な揺らぎと共にメラメラと燃え上がり、閃光の如く眩い光を放ったのが、僅か数秒前の出来事。

 堪らず目を瞑った彩人あやとは、くらくらする頭を抑えながら先程の台詞を口にした。


 そして、パチパチと瞬きしながら開いたその瞳に映るのは――彩人あやとの姿。


「……へ?」


 どういう訳か、彩人あやとの視界には彩人あやとが映っていた。


 当然の様に「は?」と状況が理解出来ない彩人あやと

 そんな彼の前で、“彩人あやとの姿をした人物”がこんな台詞を口にする。



「え? どうしてボクが目の前にいるんだ……?」



 ■



 結論から述べると、“二人の魂が入れ替わった”。

 入れ替わったのは、ソファーに並んで座る「彩人あやと」と「義理の妹:兎衣うい」の二人。

 

 対面に座る幼馴染み彼女:犬神いぬがみいちごとエリスに関しては、元のままで変化は無いが、しかし事を起こした張本人はダークエルフの少女に間違いない。

 憮然とする彩人あやと(兎衣の姿)と兎衣うい(彩人の姿)、そして訳が分からないといった顔のいちご達3人に向け、エリスが悔し気に口を歪める。


「くッ、何たる誤算。まさかウイ姉様とアカバネアヤトの魂が入れ替わるとは……ッ!! すみませんウイ姉様、こんな筈では……」


「あー、うん。まぁボクは事情を知っているからいいけど、この二人は知らないから教えてあげて」


「くッ、アカバネアヤトの姿・そして声で言われると、中身がウイ姉様だとわかっていても怒りが込み上げてきそうです。……耐えろ、耐えるんだアタシ!!」


  拳を握り絞めグッ

 兎衣うい(彩人の姿)に向かって、 小さな拳を丸めて怒りを抑え込むエリス。

 何だか一人でドラマッチックな展開を繰り広げているが、彩人あやと(兎衣の姿)といちごに関しては完全に置いてけぼり。


「ねぇエリスちゃん、これは一体どういうこと? 彩人あやと君と兎衣ういちゃんの魂が入れ替わったって……」


「あぁ、その通りだ。アタシの“魂乃炎アトリビュート”によって、二人の魂が入れ替わってしまったのだ。まさかこの二人が入れ替わるとは……この怒りに耐えろ、耐えるんだアタシ!!」


「おい、その茶番はもういいから詳しい説明をくれ。“魂之炎アトリビュート”ってアレだろ? 兎衣うい(彩人の姿)も使ってた、異世界人が使える特殊能力みたいなやつ」


 いちごに続いて彩人あやと(兎衣の姿)が話を促すと、彼女は「そうです~」と可愛げのある返事。

 直後に「はッ!?」と表情を変え、悔しそうに口を歪める。


「ちくしょうッ!! こんなに美しいご尊顔なのにッ、中身はアカバネアヤトだった!! 最悪だ!! アタシ史上一生の不覚……ッ!!」


「………………」


 話にならない、ので。

 彩人あやと(兎衣の姿)は隣に視線を送り、仕方なしとばかりに兎衣うい(彩人の姿)が口を開く。


「『トラブルメーカー』――それがエリスの“魂之炎アトリビュート”だよ。周囲に様々なトラブルを巻き起こす“魂之炎アトリビュート”なんだけど、どんなトラブルが起こるかは、実際に起こってみないとわからないのが面白いところかな」


「え? 何だよそれ。面白いというか……使いどころに困り過ぎるだろ。そんな能力いつ使うんだ?」


「そりゃあまぁ……エリスが使いたい時とか?」


「いや、そりゃそうなんだけど……ん? ってことは、さっきはエリスが使おうとして使ったってことか」



「フハハハハ!! そこに気付いたかアカバネアヤト!!」



 急にソファーに立ち上がり、エリスが仁王立ち。

 そこからビシッと彩人あやと(兎衣の姿)を指さす。


「貴様にトラブルを振り撒いてやろうと、アタシが咄嗟に使ってやったのだ!! 決して脇を触られて吃驚したから、意図せずして発動した訳ではないぞ!! 全てアタシの計画通りだ!!」


「そ、そうか……(どっちが本当だ?)」

 多分きっと後者な気がしなくもないが、今はそこは後回しでいい。

「とにかく、お前の企みはわかったよ。もう十分吃驚したし満足もしただろう? さっさと元に戻してくれ」


「ふんッ、何を偉そうに。ウイ姉様ねえさまの美しい姿を借りているからといって、このアタシがいつまでも怯むと思うな」


「別に怯むとは思ってないけど、とりあえず元に戻してくれ。エリスだって、いつまでも俺が兎衣ういの姿をしてるのは嫌だろう?」


「当たり前だ。貴様がウイ姉様ねえさまの姿で喋るだけで腹が立つ。ウイ姉様ねえさまの身体じゃなかったら、心の内から湧き出る怒りのままに、今すぐこの車からポポイのポイと投げ捨てているところなのだ」


「なら、怒りで俺を投げ捨てる前にさっさと元に戻してくれ。ぶっちゃけ、ちょっともよおしてきたし……早く元の身体に戻らないとヤバい」


 いくら何でも、この姿のままでトイレには行けない。

 物理的に可能か不可能の話ではなく、倫理的にアウトかセーフかという話だ。

 それは彩人あやとの身体になっている兎衣ういも同じ気持ちな筈で、「エリスを説得してくれ」という想いを込めて隣に目線を向けると――視線を逸らされたスッ


(ん? 何故視線を逸らす?)


 まさか、もう漏らしたとでも言うのだろうか?


 ――いや、流石にそれは無い。

 彩人あやとは出掛ける前にトイレを済ませていた。

 それからまだ水分を補給していないし、出すよりもむしろ取り入れるべきで、だからこそ兎衣うい(彩人の姿)に尿意の可能性は無い、筈。


(まぁいい、とにかくエリスだ)


 エリスが“魂乃炎アトリビュート”を使っている以上、説得すべきは兎衣ういよりもエリス。

 それは幼馴染み彼女であるいちごも同じ気持ちなのか、彼女も「ねぇ」とエリスに声を掛ける。


「エリスちゃん、早く元に戻してあげてよ。ほら、二人共困ってるみたいだし……」


「二人が困っている? それがどうした? もっと困っているのはこのアタシだぞ」


「へ? それは……どういうこと?」


「どうもこうも、アタシの『トラブルメーカー』で起きた効果トラブルは“24時間据え置き”だぞ」


「「……へ?」」


 彩人あやと(兎衣の姿)といちご、二人の声が重なり。

 その二人に向け、エリスが今一度「現実」を突きつける。


「ウイ姉様ねえさまとアカバネアヤトは、明日の朝までこのままだ」


「「えぇええええ~~ッ!!??」」


 ――――――――――――――――

*あとがき

王道/ベタな展開ですが、その中にアレコレ書きたいシーンがあったので入れ替わって貰いました。

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。1つでも「フォロー」や「☆」が増えると大変励みになりますので。


↓↓『☆☆☆』の評価はこちらから↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330659670005494#reviews

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