19話:絶叫 ~ パンツ越しに乗っかる体重 ~

 ~ 引き続き彩人あやとの部屋にて ~


 ダークエルフの少女:エリス――顔を真っ赤にして我慢していた彼女が気持ちが、弾けた。


「うわぁぁ~~ん!! ウイ姉様ねえさま~、あの馬鹿がアタシをいじめる~!!」


「お~、よしよし。泣かない泣かない」


 抱き付いてくるエリスを胸に受け止め、抱擁と共に小さな頭を撫でる兎衣うい

 その光景は妹を慰める姉の姿そのもので、彼女は優しく撫でながらも視線と言葉で「隣」に釘を刺す。


彩人あやと、エリスを泣かせるのは感心しないよ? 色々と言動はアレだけど、ボクにとっては可愛い妹みたいな存在なんだからね」


「え、今のは俺が悪いのか? そもそもお前だって、昨日さんざんエリスを泣かせてたじゃねーか」


「それはそれ、これはこれ。ボクがエリスを泣かせるのは良くても、彩人あやとが泣かせるのは駄目なんだよ」


「うっ、なんか理不尽な気が……」


「理不尽に耐えるのも彩人あやとの仕事だよ。これから『ハーレム王』を目指す者として、このくらいの理不尽は慣れて貰わないと」


「おい、俺の目標を知らない王様に定めるんじゃねーよ。俺は絶対そんな王様にならねーぞ。絶対にな」


「はいはい、戯言は寝てから言ってね」


 変なことを言っているのは彩人あやとの方、とでも言いたげな兎衣ういの返し。

 これには彩人あやとも呆れる他ないが、そんな二人の“何気ない会話”を憎たらしく思う人物が一人。

 兎衣ういの胸に顔を埋めていたエリスがガバッと顔を上げ、キッと恨みがましい視線を彩人あやとに向ける。


「おいアカバネアヤト、アタシ越しにウイ姉様ねえさまと楽し気な会話を繰り広げるな……ッ、身の程を知れ!!」


「そう凄まれてもなぁ。ウンコとかおしっことか口にする奴に言われたくない」


「うるさい!! かくなる上は“Bプランに”して本命プラン――『ウイ姉様ねえさまの洗脳解除合宿』だ!!」



 ――――――――



「説明しよう!!」と自ら口にして。

 ダークエルフの少女:エリスが、何処かから持ち出した「『ウイ姉様ねえさまの洗脳解除合宿』の全貌」と書かれた紙を壁に貼り始めた。

 彩人あやとの部屋の壁に、彩人あやとに断りの一つも入れることなく、ペタペタとセロハンテープで貼ってゆく。


(普通、人の部屋の壁に勝手に貼るか? ……まぁ別にいいけど)


 画鋲で穴を開けられたら「ちょっと待て」となるが、セロハンテープで貼るくらいなら許容の範囲内。

 ただ、紙が大き過ぎる故にエリスの身長では届かない場所があり、一所懸命「う~ん」と背伸びしているが……。


「く、上の方が貼れない……ッ」


「全く、しょうがない奴だな。ほら、テープ貸してみろ」


 隣の兎衣ういから「手伝ってあげて」という視線を受け、彩人あやとが手を差し出すが――


「フンッ、失せろ。貴様に貼って貰うくらいなら死んだ方がマシだ」


「えぇ……もっと命は大事にしろよ」


 手伝いを買って出ただけでギロリと睨まれた。

 あまりの横暴(?)っぷりに呆れる彩人あやとだが、今のでお役御免という訳でもないらしい。


 ビシッと、エリスが壁際の床を指さす。


「何をしている? 早くそこに丸まってアタシの踏み台になるのだ」


「え、さっきの会話の何処にそんな話があったんだ? ってか普通に嫌だし」


「嫌? アタシの踏み台になれるのに?」


「それで俺が喜ぶとでも? 本気でそう思っているなら病院に行くこと強くお勧めするぞ」


「むぅ~。貴様を踏んづけて良い気分になりたかったのに……」


 一切隠す気の無い、正直過ぎる感想を吐いた後。

 エリスは仕方なしと両手を上げて降参のポーズを取った。


「何だ、負けを認めるのか?」


「違う、さっさとアタシを持ち上げろってことだ。そのくらいの仕事なら貴様でも出来るだろう?」


「そこまでやるなら俺が貼った方が早いだろ」


「アタシが貼るんだ!! 自分の仕事くらい自力で完遂してみせる!!」


 どうしても自分で貼りたいらしい。

 何のこだわりか知らないが「結局は俺が手伝ってるじゃん」という訂正を彩人あやとは止めた。


 小さなことでも彼女なりの“こだわり”を持っているのがわかり、それは素直に良いことだと思った為だ。


彩人あやと、エリスのご指名だよ。手伝ってあげて」


 苦笑いを浮かべる兎衣ういの後押しもあり。

 両手を上げるエリスの背後に彩人が立つと、ふわりと漂うモノが鼻に届く。


(ん、何か良い香りがするな……ちょっとバニラっぽくて甘い感じだ)


 ダークエルフという種族的なモノか、それともエリス固有のモノか。

 それがどちらにせよ、ただ匂いを嗅ぐ時間を続ければ「変態」と言われそうなので、先の感想は早々に胸の内へ秘め、彩人あやとは「よいしょ」としゃがみ――“エリスの股下に頭を通す”。


「ひゃッ!?」


 驚いたエリス。

 彼女を肩車で「よっ」と持ち上げると、すぐさま「ペチンッ!!」と頭を叩かれた。


「痛って、何すんだよ?」


「何するはこっちの台詞だ!! 何で肩車したのだ!?」


「何でって、こっちの方が高いだろ?」


「ここまで高くなくていいし!! っていうかすぐに降ろすのだ!!」


「何でだよ? せっかく持ち上げたんだからさっさとテープ貼れって」


「いいから降ろすのだ!!」


「ちょッ、あんま暴れると――」



 転倒バタンッ



 床に倒れる事態は避け、何とかベッドに倒れ込んだ彩人あやと

 その背中には日頃から慣れ親しんだマットの感触があるものの、天井を向いている筈の顔には、“エリスの体重がパンツ越しに乗っかっていた”。


「ッ~~!!」


 彩人あやとの顔面に馬乗りとなったエリス。

 その顔を真っ赤に紅潮させた彼女の見下ろす視線と、息の出来ない彩人あやとの見上げる視線が交差し、衝突。

 

 一瞬の静寂を経て、彩人あやとの部屋に絶叫が響き渡った。


 ――――――――――――――――

*あとがき

続きに期待と思って頂けたら、本作の「フォロー」や「☆☆☆評価」を宜しくお願いします。

お時間ある方は筆者別作品「■黒ヘビ(ダークファンタジー*挿絵あり)/🦊1000階旅館(ほのぼの日常*挿絵あり)/🌏異世界アップデート(純愛物*挿絵なし)」も是非。

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