18話:醜態 ~ 恋の熱が冷めるってのはあるかもね ~

 ~ 彩人あやとの部屋にて ~


「フハハハハ!! 遂にアタシ自ら来てやったぞッ、敵の根城に!!」


 部屋に入るな否や、彩人あやとのベッドに仁王立ち。

 その後にピョンピョン飛び跳ねながら、ダークエルフの少女:エリスが声高らかな笑い声をあげる。


 どう見ても遊んでいるその姿はただの子供にしか見えないが、一応は13歳という話なので、日本で考えれば中学1~2年程度の年齢。

 そう考えると、彩人あやとの目では年齢よりも少し幼く見えるが、幼い顔は幼馴染みの彼女:犬神いぬがみいちごで見慣れているし、そもそも異世界人の年齢を日本人の感覚で捉えるのがどうかという話。


 ただ、褐色の肌と長い耳を持つ彼女の見た目がどうであれ、昨日の今日で赤羽家にやって来たのは問題の様にも思えるが……。


「なぁ兎衣うい、異世界人がこんな好き勝手動いていいのか? 来ただけで記者会見するレベルの重要人物だろ」


「まぁエリスだからねぇ」

 彩人あやとの問いに、クッションをお尻に敷いて座る兎衣ういが答える。

「前にも言ったけど、彼女の親は国王にも顔が効く権力者だから、自由に動けるように裏回しでもしてるんじゃないかな。多分、ボク等が気づいてないだけで近くにはSPも居ると思うし、そもそも“ビクトリアさん”が連れて来たわけだからね」


「ビクトリアって、下のリビングで待機してる黒スーツの世話係か?」


「うん、あの人が近くにいればエリスの護衛は問題無い。まぁそのビクトリアさんに内緒で、エリスがたまに無茶を強行するのが問題だけど」


「その無茶の1つが、俺を攫った昨日の一件って訳か。全く、権力持ったわがまま娘は面倒だな」


「そこがエリスの可愛いところでもあるんだけどね」と、兎衣ういが丸く話を収めたところで、今の会話の間も飛び跳ねながら“何か言っていた”ダークエルフの少女:エリスがベッドから降りる。


「ちょっとウイ姉様ねえさま、アタシの話を聞いてます?」


「あぁゴメン、あまり聞いてなかった。その可愛い声でもう一度教えてくれるかい?」


「きゃッ、世界一可愛い声だなんて……もう~、ウイ姉様ねえさま大好き!!」


「ボクもエリスのことは好きだよ」


 抱擁ぎゅッ

 エリスが抱き付き、それを優しく受け止める兎衣うい

 いきなり始まった二人のイチャイチャを前に、彩人あやとは無表情のままに思う。


(俺は一体何を見せられてるんだ……?)


 女の子二人の仲睦まじい光景。

 それ自体は尊いというか眼福というか非常に素晴らしいことなのだが、自分の部屋で親密な時間を過ごされても困る。


「あのさ、俺はこれから補習しなくちゃいけないんだよ。イチャつくなら下のリビングに行ってくれねーか?」


「むっ、うるさいぞアカバネアヤト。アタシとウイ姉様ねえさまが過ごす至高の時間を邪魔するな」


「邪魔するなって言われても、ここは俺の部屋なんだが?」


「全く、ああ言えばこう言う奴だな。これだから貴様はモテないのだ」


 いや、むしろモテてるんだけど? という言葉は流石に口を出る訳にはいかない。

 思い上がりも甚だしい考えをグッと心の奥に押し込め、彩人あやとは白けたシラケた視線をエリスに向ける。


「それで、今日は何しにウチに来たんだ? 昨日の謝罪にでも来たか?」


「ふんッ、アタシが貴様に謝ることなど天地がひっくり返って吃驚仰天してもあるものか。今日は“次なる一手”を打ちに来たのだ」


「次なる一手?」


 あまり良い予感のしない言葉を彩人あやとが繰り返し、その間にエリスは兎衣ういから離れ、改めてベッドの上に飛び乗る。

 そしてビシッと、小さな手で彩人あやとを指さす。


「アタシは考えた!! ウイ姉様ねえさまアカバネアヤトきさまを諦める方法を!!」


「そうか、具体的には?」


「貴様が物凄くカッコ悪いってことがわかれば、ウイ姉様ねえさまの目も覚める筈なのだ!! ――ですよね、ウイ姉様ねえさま!?」


 彩人あやとから兎衣ういへ。

 エリスの真剣な眼差しを受け、彼女が「う~ん」と曖昧な反応を見せる。


「まぁそうだね……“物凄くカッコ悪い”っていうのがどのくらいのレベルかにもよるけど、好きな人のカッコ悪い場面を見てしまったら、恋の熱が冷めるってのはあるかもね」


 ガッツポーズやった!!

 兎衣ういの言葉を受け、エリスがベッドの上で今一度大きく飛び跳ねる。


「フハハハハ!! 今のを聞いたかアカバネアヤト!? ウイ姉様ねえさまの目が覚めるのはこれで確定だ!!」


「確定かどうかは知らないけど、うるさいから帰ってくれないか?」


「馬鹿を言え、本番はこれからだ!! さぁ、今から貴様にはカッコ悪くなって貰うぞ!! 見るもおぞましい醜態を晒すがいいのだ!!」


「晒すがいいのだって、具体的にどんな醜態だ?」


 付き合うのも馬鹿馬鹿しいが、少しは付き合わないと帰ってくれそうにもない。

 それで仕方なく話を進めた彩人あやとだったが、エリスから返って来た「醜態」はまさかの内容だった。


「今すぐここで、ウンコを漏らすのだ!!」


「え? 普通に嫌だけど……ってか駄目だろ」


「……え?」


「え?」


「……え?」


「いやいやいや、『え?』はこっちの台詞だから」


 何故かエリスが「理解出来ない……」という顔を向けて来るが、理解出来ないのは彩人あやとの方だ。

 自室で、それも人前で大便をするなんて論外というか、議題に乗せる方がどうかしている。


「あのなぁエリス、ちょっとした内容なら付き合ってやっても良かったけどさ、流石に人前で大便する訳ねーだろ。ちょっと考えればわかるだろ」


「え、じゃあウンコが駄目ならおしっこでもいいぞ?」


「いいわけねーだろ。ってか、女の子がウンコとかおしっことか、あまり人前で口にしない方がいいぞ。俺よりよっぽど醜態を晒してる自覚を持とうな?」


「ッ~~!!」


 墓穴を掘るとはこのことか。

 ダークエルフの少女は自ら醜態を晒し、褐色の肌を顔を赤く染め上げた。

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